「有害図書(不健全図書)」という言葉をご存知だろうか? それは地方自治体ごとに制定されている青少年保護育成条例に基づき「青少年の健全な育成にとって有害」と判断された図書類(DVDやゲームソフトなども含む)のこと。有害図書に指定された図書類は、成年向けの棚や売り場に区分陳列する必要があり、18歳未満の青少年は読むことができないばかりか、買うのも借りるのも禁止される。
でも、よく考えてほしい。"エロ表現"は青少年にとって、本当に有害なのだろうか?
漫画評論家・永山薫は2025年9月発売の『有害図書の本』(三才ブックス)で、漫画家・山本直樹は同年11月発売の『エロってなんだろう?』(ちくまプリマー新書)で、それぞれ上記の疑問について問いかけている。そこで今回、『有害図書の本』で共著を担当し、『エロってなんだろう?』では監修を務めた美少女コミック研究家・稀見理都(きみりと)氏を聞き手に、二人の対談を実施。「著書が有害指定された経験がある」という共通点を持つ三人の語りから、青少年にとってエロは有害か、一緒に考えてみよう。
* * *
【有害図書制度は機能していない?】――『有害図書の本』のなかにも、この3人での鼎談が収録されていますが、今回はぼくが聞き手となってお二人にお話を聞けたらと思っています。まずは山本先生。書籍『エロってなんだろう?』は、先生の半生を振り返りながら"エロ"について考える内容になっています。どのような経緯で出版することになったんでしょう?
山本 昔から知っている編集さんから企画をもらったんですよ。「『エロってなんだろう?』をテーマに書いてみませんか」って。確かにちゃんと言葉にしたことがなかったので面白そうだなと思いました。
――「ちくまプリマー新書」という中高生向けのレーベルから刊行されているのも興味深いですね。
山本 自分の人生を振り返ると、多感な中高生時代に、あることないこと考えた時間はスゴく大事だったなと思うんです。エロにいちばん興味がある時期だからこそ、「エロってなんだろう?」と考えることに意味があるというか。と言いつつ、普段から思っていることをぶちまけただけですが(笑)。
――ぼくも共著で関わらせていただいた『有害図書の本』は、もともと永山先生の企画だったんですよね。
永山 そうなんです。有害図書についてはずーっと調べていて。結構な蓄積になったので、どんな本がどんな理由で有害図書指定されているか、カタログにしたいと思ったのがきっかけでした。ただ、有害図書と言われても、みんなよく知らないでしょう? だから「有害図書とは何か?」という法律の話や具体例を分かりやすくまとめて、入門書的な一冊にしようと考えました。有害図書に関する書籍が他にないので、入門書でありながら、専門書としても読める一冊になったと思います。
――『エロってなんだろう?』でも、山本先生の実体験に基づき、有害図書について触れられています。というところで、ここからは「有害図書とは何なのか? エロは本当に有害なのか?」をテーマに話を進められたらと思います。
永山 稀見さんとはよく話すことだけど、有害図書制度って、実はかなり形骸化しているんですよね。
――表現にも色々ありますが、特にエロは目をつけられやすいですよね。
永山 有害図書のほとんどがコミックにおける「性描写」、つまりエロ漫画なわけだけど、指定される基準は「青少年の性欲をいたずらに刺激する」表現と、とにかく曖昧。どういう表現が該当するのか、なぜダメなのかは、どこにも明記されていないばかりか、実際に指定された本についての決定プロセスも非常に不透明。性表現を規制すれば非行少年が減るという確証もない。
東京都に諮問図書としてどのような本が購入されているか情報公開請求を行なった際は、「指定されなかった図書を公表すると出版社や著者に迷惑がかかる」という理由から、ほぼタイトルが黒塗りされたリストが渡されました。書籍にも散々書きましたけど、周りの作家さんが苦しんでいるのを近くで見てきた立場から、これらの実態に直面すると、あまりに不公平で理不尽だなと思うわけですよ。本当に、意味あるの? って。
――ここにいらっしゃる方は全員、有害図書指定の当事者ですからね。特に山本先生は常連です。2020年の『田舎』(太田出版)では3年ぶり5度目の「有害図書(正式には不健全図書)指定」を受けたことが話題になりました。
山本 常連になりたくてなったわけじゃないけど(笑)。
永山 甲子園じゃないんだから!
――中でも1992年に光文社から刊行された短編集『BLUE』は、90年代に苛烈だった有害コミック騒動の中心的作品として注目されました。山本先生は当時、先ほど永山先生がおっしゃったように「理不尽だな」と感じましたか?
山本 そうですね。特に表題作の『BLUE』は、われながら本当によく出来た作品だと思っていて。ウェルメイドな物語とエロが絶妙なバランスで両立している。ぼくの頂点ですよ(笑)。そのエロシーンだけを切り取って「有害」だと騒がれ、版元回収にされたのはとても残念でしたね。「何だよ、せっかくいい出来だったのに」って。
――読んでない方もいらっしゃるかもしれないので、あえて補足すると、『BLUE』はエロ漫画ではなく一般コミックなんですよね。ちなみに、東京都での一般コミックの不健全図書指定は、山本先生が栄えある第一号です(笑)。
山本 喜ぶべきなのか(笑)。
――1月27日には、太田出版からが新装版で『BLUE』が再販されました。
永山 おーっ、また出るんですね!
山本 版元を変えて何度も再販して、今回なんと5回目。最初の刊行から35年が経ってもなお、読んでもらえる機会があるのは本当にうれしいです。この機会に、まだ読んだことがない方にも是非手に取ってもらいたいですね。
――有害図書に指定されても5回復刊される名著もある!
永山 「エロいからダメ」なんて曖昧な基準で表現規制することに意味があるのか。そのために一人の作家の人生が振り回されていいのか。規制する立場の人たちには、今一度、考えてもらいたいですね。エロなんかより、エセ科学本やカルト宗教本のほうが、青少年の柔軟な頭には影響が大きいと思いますが、規制よりもリテラシー強化が大事ですよ。
山本 闇バイトに引っかからないような教育制度を整えるとか、児童相談所の職員を増やすとか、給食の無償化とか。そちらに予算を割いたほうが「青少年の健全な育成」に効果的だと、ぼくも思います。
永山 ぼくらは表現の自由を守りたいわけじゃなくて、「この制度、本当に意味あるの?」ってことが言いたいだけなんですよ。もし法律に触れる内容なのであれば、裁判所で戦えばいい話。
――続いては「青少年はどのようにエロ表現と接するべきか?」をテーマに話せたらと思います。山本先生の書籍では少し触れられていますが、まず初めに、お二人が青少年時代に接してきたエロについて聞かせてください。
永山 山本先生の書籍を読んで、一緒だなと思うところがいくつもありましたよ。ちなみに、山本先生は何年生まれですか?
山本 ぼくは1960年の早生まれです。今年66歳。
永山 ぼくは1954年生まれなので、学年は5つ違いますね。5年も離れていたら少年時代に見ていた景色は全然違うと思うけど、前提として、ぼくらの時代は簡単にエロが見られる時代じゃなかった。AVもなかったしね。それが今じゃ、Xでいきなり丸見えの写真が流れてきたりする。
山本 それはそういうのを見ているからですよ。ぼくも流れてきます(笑)。
永山 若い人には理解されないだろうけど、昔は辞書でエロ用語を引いて、色々想像を膨らませたものです。その中で最初にエロメディアとして機能していたのは手塚治虫先生の漫画。初めて『リボンの騎士』を読んだときは興奮しましたよ。あと『バンパイヤ』の変身シーン。
山本 おぉ~、全く一緒だ(笑)。
永山 手塚先生がスゴいのは、あくまでも少年誌の範囲の中で、子供が読み取れる暗号として性的な情報をうまく埋め込んでいるところ。丸みを帯びた絵柄をはじめ、サファイアのようなジェンダーを超えたキャラクターの存在には、子供ながら、グッとくるものがありました。もっと直接的なエロ漫画でいえば、エロ劇画があったけど、「エロは汚いもの、悪いもの」という描かれ方に、ちょっと違和感があったんですよね。「もっと可愛い絵でエロが見たい!」って。
――手塚先生の絵柄に影響を受けたのが吾妻ひでお先生で、80年代のロリコンブームに繋がるとされていますね。山本先生は書籍で永井豪先生の『ハレンチ学園』を挙げていらっしゃいました。
山本 あと『タッチ獣 オサワラー現る』という、女性が怪獣にエッチなことをされる60年代のエロ漫画があって。歯医者に積んであったのをたまたま読んだだけなんだけど、スゴくエロくて、記憶に残っています。
――当時、怪獣ブームだったから、エロ漫画にも怪獣を出してしまえ! という発想から生まれた作品なんですよね(笑)。
永山 何だそれ! むちゃくちゃだなぁ(笑)。
山本 名義が違ったので気づかなかったけど、実は『少年シャンプ』で連載していた『漫画ドリフターズ』や『漫画コント55号』を書いていた作家さんと同じ方の作品だったと、大人になってから米沢嘉博さんの本で知りました。どっちも読んでいたので、意外な繋がりに驚きましたね(笑)。
――お二人ともやはり漫画の影響が大きいんですね。他はどうですか?
山本 『小学六年生』という学年誌に掲載されていた性教育小説も記憶に残っていますね。富島健夫さんとかが書いていて、淡い恋愛小説を通して性の知識を学んでいく内容だったのですが、完全にエロ目線で読んでいました。
――学年誌からエロを知ったという方は意外に多くて。男女が読者層なので、男の子向けと女の子向けの読み物があわせて収録されている特殊な雑誌なんですよね。異性を知るとっかかりになりやすかったとか。
永山 それでいうと、中学・高校生くらいになると、本を読むのが好きな人間は澁澤龍彦を入り口にフランス文学にかぶれていくんですよね。ジャン・ジュネ、ジョルジュ・バタイユ、マンディアルグ。ぼくは若干バイセクシャルが入っているので、そういう文学作品から、マイノリティなエロに触れていきました。稲垣足穂とかね。映画もフェデリコ・フェリーニやミケランジェロ・アントニオーニの小難しい作品を見て、エロシーンで興奮していました。
山本 文学で言えば、ぼくは大江健三郎や筒井康隆からエロを摂取していました。さすが立派な小説家は表現力が凄まじいというか、エロシーンがめちゃくちゃエロいんですよね(笑)。
永山 今思うと、エロシーンに興奮しながら、同時に教養となる文学や映画に触れられたのはスゴく良かったですよね。その作品の持つ芸術性も一緒に吸収できたというか。
――低俗なエロと高尚な芸術というと正反対に聞こえますが、当時は地続きの作品が多かったように思いますね。
永山 恋愛の先にはセックスがある。それは何もおかしなことじゃないですからね。異性に興味のある青少年が、恋する気持ちの先に性的欲求を抱くのも自然なことだし。
――今は文学や映画に遠回りせずとも、インターネットで多種多様なエロにすぐアクセスできる時代です。そのような環境で、若者はどのようにエロと接するべきだと考えますか?
永山 気になるエロについては、どんどん調べるべきだと思いますね。アブノーマルなエロも、マイノリティなエロも、何だっていい。
山本 ぼくもそう思います。エロ表現に触れることは何も悪いことじゃないし、エロに興味があるのは健全な証拠。書籍にも書いたけど、気をつけなければいけないのは「現実とフィクションを混同してはいけない」ということだけなんですよ。ぼくが思うに現実とは「生きて暮らして死ぬ」、ただそれだけのこと。恋愛感情を抱くこと、性的欲求を抱くことは、人が生きて暮らして死ぬ中で生まれる「現実」の延長にあるもの。ただ、相手の気持ちを無視して自分の恋愛感情や性的欲求を押し付けるのは、完全に「現実とフィクションを混同」している。都合のいいヒロインなんて、フィクションの中でしかあり得ないと思ったほうがいいです。
――少し話は逸れますが、以前、「陰謀論にハマるのは、子供の頃に『ムー』を読んだことがない人たちだ」と言っている人がいて、なるほどと思いました。『ムー』でオカルトや超常現象のワクチンを打っていないから、非科学的な思考に踊らされるのだと。
山本 確かに、それはそうかもしれないですね。結局、連合赤軍が「総括」を名目に集団リンチ殺人をしたのも、三島由紀夫が切腹自殺をしたのも、70年代~80年代のオカルトブームの先にオウム真理教の事件が起こったのも、「現実とフィクションを混同」したことで起こった悲劇だと、ぼくは考えていて。じゃあ、どうすれば混同せずに済むのか? というと、やはり若いうちからフィクションに触れて、フィクションをフィクションとして楽しめるようになることが大事なんじゃないかと思うわけです。
――フィクションを通してインモラルを知ることが、結果的にモラルを持つことに繋がるとも言えそうですね。そのためにフィクションがあると言っても、過言ではない。
山本 そうそう。だから青少年のみなさんは、興味のあるエロを思う存分に楽しんでください。そして、エロを隠すのは行政じゃなく親の仕事です。親が隠したエロを見つけるのは子供の仕事、それを見つけて「子どもが見るものじゃありません」と叱るのも親の仕事。そうして現実とフィクションの間を行き来していれば、ちゃんとした感覚が育つはずです。もしセックスがしたいのなら「相手に暴力を振るわない」「必ず避妊をする」。これだけ守っていれば、まずは大丈夫。現実で失敗して、たくさん振られて、傷ついて、時々いい思いをして。他者と向き合うことを忘れないで。
●山本直樹(やまもと・なおき)
1960年生まれ、北海道出身。1984年に「山本直樹」および「森山塔」名義で漫画家デビュー。1992年に『BLUE』(光文社)が東京都の不健全図書指定を受け、「有害コミック騒動」の中心として話題に。2010年には「連合赤軍事件」「あさま山荘事件」をテーマにした作品『レッド』(講談社)で第14回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。
公式Twitter【@tsugeju】
●永山薫(ながやま・かおる)
1954年生まれ、大阪府出身。批評家、作家。ミニコミ誌『マンガ論争』編集長。1980年代から多数の雑誌に執筆。エロティシズム、セクシュアリティ、アート、表現規制に詳しい。代表作は『エロマンガ・スタディーズ』(イースト・プレス→ちくま文庫)のほか、福本義裕名義の長編評論『殺人者の科学』(作品社)、SF長編『アミューズメント・ボーイズ』(大陸書房)など。
公式Twitter【@Kaworu911】
●稀見理都(きみ・りと)
美少女コミック研究家、インタビュアー、ライター。日本マンガ学会所属。日本漫画家協会会員。著書に『エロマンガノゲンバ』(三才ブックス)、『エロマンガ表現史』(太田出版)、『アダルトメディア名鑑2025』(イースト・プレス、共著者:安田理央)がある。
公式Twitter【@kimirito】
■永山薫、稀見理都『有害図書の本』(三才ブックス)/2,200円(税込)
全国の地方自治体が指定する有害図書、そして東京都が指定する不健全図書(8条指定図書)について、事例と議論を総まとめ。どこのような本が指定されるのか? 誰がどのように指定しているのか? 指定されるとどんな影響があり、どのような問題を引き起こしているのか? 「有害」の名のもとに多くの本を切り捨ててきた制度を見つめ直す。
有害図書規制について聞くインタビュー多数収録
・漫画家:森川ジョージ
・漫画家:山本直樹
・作家・科学監修:くられ
ほか
■山本直樹『エロってなんだろう?』(ちくまプリマー新書)/990円(税込)
子どもにとってエロは有害? 不健全図書はどう決まる? 現実とフィクションは違う。でも、現実のルールを知らなければ、面白いフィクションはつくれない。エロマンガ界のレジェンドが語る、いまこの社会でエロを表現し、人に見せるということ。
エロをエンタメにする楽しさとルールを考える
エロマンガの巨匠×蛙亭・イワクラ対談
「エロいは面白い」収録。
監修/稀見理都(美少女コミック研究家)
■山本直樹『BLUE 山本直樹ヴィンテージ・コレクション』(太田出版)/2,090円(税込)
山本直樹作品の金字塔が再臨。90年代伝説の作品集、刊行35周年記念の新装版。カラー23ページ 完全収録! 漫画史上不朽の名作『BLUE』の辿った軌跡がわかる、過去全バージョンのあとがき&自作解説完全収録。2026年度版最新著者あとがきと、稀見理都による寄稿「BLUEという薬」も掲載。
*2026年、90年代の作品群を「山本直樹 ヴィンテージ・コレクション」として今後も刊行予定です。
聞き手/稀見理都 文/とり 撮影/後野順也
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