5年ぶりにJリーグに復帰するも「もっと上手くなりたい」と話すカズ。彼にとっては通過点に過ぎない
【前人未踏に挑み続ける】
今年2月26日に59歳の誕生日を迎えるJリーガー三浦知良。
2023年、所属する横浜FCよりレンタルされていた鈴鹿ポイントゲッターズ(兄・三浦泰年が監督)から、さらにポルトガル2部リーグUDオリベイレンセにレンタル移籍。最初の1か月くらいは身体検査に明け暮れた。「五体満足」が証明されないとリーグの指定する保険に加入できないからだ。
「50歳を超えているサッカー選手なんているわけがない。」
物珍しさも手伝い、オランダの医学界のトップたちが連日カズをポルトにある医療機関に呼びつけた。心電図から身体の隅々にわたる検査でも異常なし。あげくに「お前は本当にプロサッカー選手で何十年もやってきたのか!? こんなにきれいな膝でいられるわけがない」と言われ、何度も検査は繰り返された。40年間ケガらしいケガをしてこなかったカズのキングたる所以だ。
そんなカズでもポルトガルではふくらはぎに違和感を覚え、満足のいくシーズンを送ることは叶わなかった。ふたたび鈴鹿に戻ってからも本調子とはならず調整の日々が続いた。
「体幹とかランニングでは痛くても、サッカーをやると痛くないこともある」
「痛くなる部位と検査で不具合を示す部位が違う」
自身の身体と向き合う日々。
サッカーが出来ない日々が続くが、正確無比な生活は変わらない。10時前には寝て5時には起きてストレッチ。
ルーティンとなっているストレッチ。日ごろから体のメンテナンスは欠かさない
「サッカー選手ってよりアスリートだな。健康診断オタク」とうそぶきながらも、カズの目線の先にはいつでもピッチで躍動する自分の姿があった。いくら最先端の施術を受けても納得いく答えは出てこない。なぜなら、医学的に見ても「前例」がないからだ。カズは言う。
「30年揉んでくれているタケ(専属トレーナーの竹内章高)の手がいちばん信頼出来る」
まさに前人未踏の頂を目指す孤高の登山家とシェルパだ。
【40年をかけた伏線回収】昨年末、12月30日にJ3福島ユナイテッドへの期限付き移籍が発表された。
カズはアトレチコ鈴鹿がオフに入ってから大阪で自主トレを行い、そのあとも10日ほど鈴鹿市・白子に残り、鈴鹿での生活を名残惜しむかのように同月30日までトレーニングを続けていた。2022年チーム入団時より暮らしていた白子で出会いお世話になった人々、チームメイト、サポーター、ファン、関係各位に向けてどのようにメッセージを残したらよいのか。
2025年からチームオーナーとなっていた斎藤浩史(90年代に読売クラブ、清水エスパルスで三浦泰年、カズと共にプレーしていたイケメンDF)と何度も話し合い文章をまとめ上げた。
12月30日 アトレチコ鈴鹿のHPより。
アトレチコ鈴鹿の関係者、ファン、サポーター、スポンサーの皆様
このたび、私三浦知良は横浜FCからのレンタル移籍が満了しアトレチコ鈴鹿を退団することをご報告させていただきます。
鈴鹿で過ごした2シーズン半は個人としても、チームとしても決して満足する結果を出す事ができなく非常に悔しいです。
この地で経験した多くの出会いと、地域の皆様との絆は、私のサッカー人生にとってかけがえのない宝物です。皆さんと共に戦い、喜びを分かち合えたことは、決して忘れません。
どのような場所でも、どんな時でも、ピッチに立てば私はサッカー選手です。
皆様からいただいた熱い応援と期待に応えられるよう、これからも自分らしく、走り続けたいと思います。
魂の叫びのようなメッセージをしたため、一路東京へ。そして紅白の審査員。新年もあわただしく過ごし、7日から横浜FCのクラブハウスで練習再開。9日には明治安田ホールにて福島ユナイテッドの入団発表会見。
新しい環境の素晴らしさに笑顔を見せるカズ
カズにとっていくつかオファーがあった中、なぜ福島だったのか。
その答えはずばり練習環境にあるのだが、会見にも同席した小山淳CEOは実は福島の人間ではなく、静岡は藤枝市出身。藤枝中学校では世界大会で優勝。藤枝東高校では全国大会優勝。その後、京都にてスポーツで世界平和を実現するという理念の元、スポーツX株式会社を創業。2009年藤枝MYFCを創立。この藤枝MYFCの前身は静岡FC。カズの叔父である故納谷義郎と父の故納谷宣雄兄弟が興したフットボールクラブなのだ。
そしていくつもの事業を展開する中、Jリーグを目指す「おこしやす京都AC」にもかかわっていた小山氏は21年にもカズにラブコールを送っている。カズと小山氏。お互い小学生の頃からサッカーの頂点を目指してきた、そんな二人の想いが今繋がったのだ。
入団会見でカズは目標を聞かれ、
「戦力として勝利に貢献したい。試合に出て活躍したい。良い準備をして全力を尽くす。数字を言うのはむずかしいがゴールなりアシストなり出来たらいい」
と答えている。
そして最後に「左サイドをドリブルで駆け上がり、良いクロスを上げたい」とも。
昨年オファーがあったときから福島ユナイテッドのゲームをビデオでチェックしていたカズは、「どんどん攻める面白いサッカー。見ている人も楽しいと思う」と言っていた。
15歳で単身ブラジルへ渡ったカズはチームを転々としながらテクニックを磨き、やがて左ウイングとして頭角を現し、相対するブラジル人選手たちを抜き去り、ブラジル中の注目を集めるまでになっていた。超名門サントスを最後に、満を持してJリーグ開幕直前の読売クラブに入団。
「左サイドを駆け上がる。」
これはまさにカズのサッカーの原風景ともいえるのだ。プロ40年目にして原点に戻る。これ以上の伏線回収はあるだろうか。
福島ユナイテッドの監督は川崎フロンターレで長年活躍し、引退後はコーチを務めていた寺田周平氏。寺田氏は強くて速くて、精度の高いパス回しを信条とする「ドイツサッカー」を啓蒙する風間八広監督の薫陶を受け、福島ユナイテッドでもその手腕を発揮している。
カズの話によると、寺田監督は初対面の挨拶もそこそこに「ヴェルディの練習はどんなことやっていたんですか?」と言ってきたそう。まさに当時のヴェルディには並みいるテクニシャンが集結し、「止めて蹴る。繋ぐ」サッカーでリーグをけん引していたのだ。
【御前崎キャンプでの練習試合に出場】福島ユナイテッドへの合流初日、周囲は真っ白な雪化粧の中、雪かきされて美しい緑の芝がかがやくピッチにカズは立った。
「カズさんのためにスタッフたちが芝を傷めないように時間かけて除雪してくれました」と広報の國分氏は胸を張る。
カズは終始ボールを使ったメニュー、正確なパス回しに楽しそうに溶け込んでいる。
「鈴鹿でできなかったことが出来ている。どちらの選手がうまい下手は一概にはくらべてはいけないけど、鈴鹿の選手たちもこの芝があったらもっとやりたいこと出来るんじゃないかな。やはりサッカーは芝なんですよ。」
鈴鹿での最後の1年半、自身の故障と向き合い、黙々と養生と出来ることをやる、という日々を送った。ようやくプレーが出来る状態になった今である。素晴らしい練習環境がどれほどうれしいか想像に難くない。
そして19日からの静岡での御前崎キャンプ。ゴルフ場の中にあるフルサイズピッチは、ここもまた美しい天然芝だ。練習の切れ目切れ目で大量の放水。ボールがよく「走る」。
止めて蹴る。サッカーの基本が美しい天然芝のピッチ上で強く早く正確に行われている。徹底的にボールを用いたメニューをこなし、練習の大半はミニゲーム。インターバルは最小限、選手もコーチも監督も一丸となって動きながら常に声を出し合う。瞬時の判断力、予測する力も不可欠だ。
レンズ越しに、練習を終えたカズがいつもと違うことに気が付いた。鈴鹿では練習後、黙々とダッシュとインターバル走を繰り返して自身を追い込んでいたのだが、福島の練習ではかるくクールダウンをするだけで終えている。
「鈴鹿でのなにも起きなかった空白の時間がココにはない。ボールを使いながらその中でフィジカルも同時に鍛えられていく感じ」
とカズ。
充実した練習の後では、さらに追い込む必要がなくなったのだ。もっとも鈴鹿でのそんな不変の努力があったからこそ、質の高い練習に溶け込めているのだ。
1月22日。静岡産業大学との35分×3本の練習試合。2本目の15分からの20分間。初陣カズに与えられた時間だ。
監督からの指示は、1トップというよりも前線で形を作ってほしいといったものだった。すーっとボールに寄って走るフォームが美しい。流れの中で中継点を作り、時にはヒールでボールのコースを変えたり、頭を使ってボールをコントロールしようとしたり。ヤマっ気を感じさせるプレーもカズの魅力。相手にとって嫌な選手でもある。積極的にボールに絡み、味方へ大声とアクションで指示も出す。パス回しの中で、しつこく付きまとう静岡のキャプテンの股を抜くシーンも。精度の高い、陣形を崩さないパス回しが試合でも活きているのがわかる。
はじめてカズのゲームでのプレーを見た寺田監督も笑顔でカズと握手。
息子たちよりも若い大学生もたじろぐカズのプレー
執拗にマークにつく相手を股抜きでサラリとかわす
ボールを吸い付くようにコントロールしながら、意識は360度に向けられている
20分間。こんなに長くカズのプレーを撮ったのはいつぶりだろうか。幸せな気分に浸っていると「どうだった?」と聞いてきた。その表情も充実感にあふれていた。「たくさんボールに絡めていて撮っていて楽しかった!」と答えると、急に真顔になって「これから。これからもっとやっていかないと」とカズ。
続く25日の練習試合は出場なしとなったが、ベテランにはベテランの調整方法があるのだ。誰にも答えはわからない。今日も御前崎の海を見下ろす昭和レトロで立派なホテルの宿舎で、サッカーのことだけを考えているカズがいる。「こつこつとやり続けることが一番」とつぶやきながら。これだけは間違いない。
これからも三浦知良、前人未踏40年の選手生活で張り巡らされてきた伏線の回収を、しっかりと見届けていきたい。
取材・文・撮影/ヤナガワゴーッ!



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