『役者になったスパイ』評点:★4点(5点満点)
©Langfilm/Bernard Lang AG 2020
ディストピア的な監視社会をコメディ的に描く
冷戦末期の1989年、スイスでは国民に対する大掛かりな監視が密かに行われていた。
そんな折、「反体制的」だとして、とある劇場にスパイの嫌疑がかけられる。
その実態を探るべく、主人公の警察官はエキストラとして演劇の世界に潜入するのだが、劇団員と交流を重ねる中、自分の任務に疑問を抱くようになっていく。
ベースになっているのは冷戦時代にスイスの政治警察が国民に対して大掛かりかつ違法な監視活動を行っていたという「フィッシュ・スキャンダル」で、本作を観ると「スパイの嫌疑」というものが誰に対しても無限にかけることができる、ということがよく分かる。
監視する側の決めつけ、思い込み、妄想の前に個人の自由や人権が簡単に蹂躙されてしまうことは今日のアメリカを見てもよく分かる。
ところが、そんな背景がありつつも本作は非常にチャーミングで可愛らしい作品に仕上がっている。
それは「監視対象」だったはずの人々が、それぞれかけがえのない「個人」だと主人公が気づくからでもあり、また芝居を通じて「自己を表現すること」の素晴らしさに触れるからでもある。
ディストピアをコメディ的に描く映画の系譜に爽やかな1ページを加える作品だ。
STORY:1989年、冷戦下のスイス。警察官であるヴィクトールは、反体制派の情報収集と監視のため、ある劇場への潜入捜査を命じられる。しかし監視対象であるはずの主演女優と恋に落ち、自らの任務に疑問を抱くようになる......
監督:ミヒャ・レビンスキー
出演:フィリップ・グラバーほか
上映時間:102分
全国公開中
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