ひろゆき、篠田謙一(国立科学博物館長)に人類の歴史を学ぶ⑧「...の画像はこちら >>

「21世紀になって初めて存在が知られた謎の人類。彼らは私たちの祖先の一部でした」と語る篠田謙一氏

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。

分子人類学者で国立科学博物館長の篠田謙一先生をお迎えしての第8回です。

ホモ・サピエンスでもネアンデルタール人でもない謎の人類がアジアにいたようです。どんな特徴を持っていたのか? 日本人との関わりは? 今回はちょっとしたミステリーをお送りします。

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ひろゆき(以下、ひろ) 先生、〝謎の人類"みたいな存在って、いるんですか?

篠田謙一(以下、篠田) 謎の人類ですか........。

ひろ 例えば、古い人骨が見つかって「これはわれわれの祖先、ホモ・サピエンスだ」と思っていたけど、最新技術で調べたら「実は別の人類でした」みたいなパターンです。

篠田 それに該当するのが、まさに「デニソワ人」です。以前、「30万年前にわれわれの祖先(ホモ・サピエンス)はアフリカにいた」という話をしましたよね。でも実はそのとき、世界のあちこちには私たち以外の人類がいたんです。

ひろ 有名なネアンデルタール人とかですよね。

篠田 そうです。ヨーロッパにはネアンデルタール人、アジアにはジャワ原人や北京原人。当時はそうした多種多様な人類が共存していました。

その中で、アジアで新たに見つかった人類がデニソワ人です。

ひろ そのデニソワ人っていうのは、どこで見つかったんですか?

篠田 ロシア・シベリアのアルタイ地方にあるデニソワ洞窟です。モンゴル、中国、カザフスタンの国境が近い場所です。

ひろ デニソワ洞窟で見つかったからデニソワ人なんですね。

篠田 そうです。この洞窟からは、2008年以降、骨の破片がけっこう出ていたんですが、その中に子供の小指の骨と大人の臼歯がありました。そのDNAを解析したらネアンデルタール人でもホモ・サピエンスでもない未知の人類だということが判明したんです。

ひろ DNA解析で「新種だ」と。

篠田 これは人類学史上初めてのケースで、姿形がまったくわからないまま、DNAという遺伝情報だけで定義された人類です。

ひろ でも、骨のかけらしかないんじゃ、どんな顔をしてたとか、どのくらいの身長だったとかは、わからないですよね?

篠田 そこが問題だったんです。アジアではほかにもいろんな原人の化石が出土するので、みんな「この中にもきっとデニソワ人がいるだろう」と考えました。でも、アジアの古い化石はDNAが未分析で、照合できないんです。


ひろ 正解のデータ(デニソワ人のDNA)はあるのに、照らし合わせる相手のデータが取れないと。

篠田 ところが2010年代後半にブレイクスルーが起きました。DNAではなく、骨に残るコラーゲンのアミノ酸配列を使って種を特定する技術が開発されたんです。

ひろ え、コラーゲンって化石に残るんですか?

篠田 それが残るんですよ。実はDNAよりもコラーゲンのほうが安定していて残存しやすいんです。

ひろ へぇ、数万年前のコラーゲンが分析できるんだ。

篠田 この技術を使って、チベットで見つかっていた下顎の骨(夏河人/かがじん)や、台湾海峡の海底から引き揚げられた下顎の骨(澎湖人/ほうこじん)を調べてみたら、コラーゲンの配列がデニソワ人と一致しました。

ひろ おー、ついに別の地域からデニソワ人が見つかったと。

篠田 そして、極めつきが1933年に中国のハルビンで見つかっていたものの、長らく存在が知られていなかった保存状態のいい頭骨(竜人)を最新技術で分析したところ「これもデニソワ人である可能性が極めて高い」ということが判明しました。

ひろ ついにデニソワ人の顔がわかったわけですね!

篠田 そうなんです。「デニソワ人はこういう顔をしていたんだ」というのが、昨年ついに明らかになりました。ただ、ここで新たな問題が発生します。


ひろ え、解決したんじゃないんですか?

篠田 いや、むしろ大混乱に陥っています(笑)。DNAの分析では、デニソワ人とネアンデルタール人とホモ・サピエンスは、だいたい60万年前ぐらいに共通の祖先から分かれたと推定されています。ところが、今回デニソワ人だとわかったハルビンの骨は、年代は14万年前なので問題はないのですが、100万年前の原人に似た特徴を持っているんです。

ひろ ん? DNAだと60万年前に分かれたはずなのに、骨の形は1000万年前レベルだと。

篠田 そうです。DNAや年代は比較的新しいのに、見た目はものすごく原始的なんです。

ひろ それ、どっちが間違ってるんですか?

篠田 それが難しいところなんです。DNAの研究者は「骨の分析が間違ってる」と考えますし、骨の形態を見ている人たちは「DNAの分岐年代推定がおかしい」と考えていて結論が出ていません。

ひろ 篠田先生はどっち派なんですか?

篠田 それを聞きますか(笑)。私はDNAが専門なので、心の底では「骨を見てる人たちが間違えてる」と思ってますけどね(笑)。

ひろ 言っちゃった(笑)。

篠田 でも、本当に混乱しているんです。

最近も中国で見つかった別の頭骨(華龍洞人骨/かりゅうどうじんこつ)がデニソワ人に似ている特徴も持っていると指摘されています。こうなると今まで見つかっていた中国の原人化石はどれがデニソワ人なのか。発見されているすべての化石の再検討が必要になっています。

ひろ 数年以内には何か新しいことがわかりそうですね。

篠田 あと面白いのは、本家のデニソワ洞窟のほうです。今は骨からではなく、洞窟の土からDNAを採取して分析しているんですよ。

ひろ えっ、土からDNAなんて採れるんすか。

篠田 私もにわかには信じられませんでしたが、今の技術だと採れるのです。それで、どの時代に誰が住んでいたかもわかるようになりました。その結果、その洞窟は30万年前からデニソワ人が住んでいて、その後、1万年前にネアンデルタール人が入ってきて、両者が混血していたことまでわかりました。

ひろ 同じ洞窟で一緒に暮らして、子供もつくってたんだ。

篠田 そうです。

デニソワ洞窟は、ちょうどネアンデルタール人とアジアの原人の生息域の境界線にあるので、いろんな人類が交差する場所だったんですね。

ひろ で、そのデニソワ人は、僕らと関わりはあるんですか?

篠田 あります。デニソワ人のゲノムは、現代人のDNAにも伝わっています。われわれ日本人も含めた東アジア人には2%程度、オーストラリアの先住民やメラネシア(パプアニューギニアなど)の人々には数%も入っています。

ひろ 2%っていうと誤差みたいですけど、確実に混ざってるんですね。

篠田 チベットの人々が高地でも平気で活動できるのは、実はデニソワ人から受け継いだ遺伝子のおかげだということがわかっています。彼らが残してくれた遺伝子が、現代の私たちの生存を助けてくれている部分もあるんです。

ひろ へえ、そんなふうにつながってくるんだ。

篠田 2世紀になって初めて存在が知られた謎の人類・デニソワ人。彼らは実は、私たちの祖先の一部だった。これが、今世紀に入ってからの人類研究で一番大きな発見だと思います。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。

近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など 

■篠田謙一(Kenichi SHINODA) 
1955年生まれ。分子人類学者。国立科学博物館長。主な著書に『人類の起源』(中公新書)、『日本人になった祖先たち』(NHKブックス)など。2026年2月23日まで、東京・上野の国立科学博物館では特別展「大絶滅展」が開催中

構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾

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