高市政権の"悲願"、「殺傷能力のある武器輸出」って日本にとっ...の画像はこちら >>

自民党の高市早苗総裁と日本維新の会の吉村洋文代表は防衛装備輸出の「5類型」撤廃で合意。通常国会で制度改定を目指す?

「殺傷能力のある武器輸出」。

かつて日本では考えられなかった政策が、高市政権の下で現実味を帯び始めている。半世紀にわたり禁輸を原則としてきた国が、なぜ今、解禁へ向かうのか。解禁されたら、日本にはどんな影響があるのか。

【日本製武器は他国に売れない?】

高市早苗政権の発足後、「殺傷能力のある武器輸出」の解禁に向けた制度見直しの検討が本格化した。

自民党と日本維新の会は政策合意で、これまで防衛装備品の輸出を「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」の5つの目的に限定してきた〝5類型〟の撤廃を明記し、2026年の通常国会で制度改定を目指す方針を示した。

国家安全保障局や防衛省でも、弾薬や無人機、防空装備などを輸出可能にする案を協議しているとされ、制度改定は衆院選後に本格化する見込みだ。

日本は1967年に佐藤栄作政権が提議した「武器輸出三原則」によって半世紀以上、実質的な武器輸出を禁じてきた。2014年に安倍政権が「防衛装備移転三原則」に改め、共同開発など一部の緩和は行なわれたものの、弾薬やミサイルの輸出は禁止された。それがなぜ今になって解禁へ向かうのか。

「背景には、高まる台湾有事の緊張感があります」

そう指摘するのは、安全保障アナリストで電通総研経済安全保障研究センター主席研究員の部谷直亮(ひだに・なおあき)氏だ。

「そもそも5類型撤廃が検討されたのは2022年の岸田政権下ですが、当時と今とで違うのはアメリカ政府の来援可能性です。台湾有事が起きた場合、米軍が来援するのか。

来たとしても後方支援の色彩が強いのではないか。第2次トランプ政権になって不透明性はさらに上がりました。

そうした中で、『継戦能力は可能な限り自国で確保する』『装備移転を通じた同志国をつくる』という意識が生まれ、装備移転を前面に出す動きにつながっていると考えられます」

高市政権の"悲願"、「殺傷能力のある武器輸出」って日本にとってトクなの?
昨年末、"5類型"撤廃に関する与党協議に臨んだ自民党の小野寺五典氏(中央右)と日本維新の会の前原誠司氏(中央左)

昨年末、"5類型"撤廃に関する与党協議に臨んだ自民党の小野寺五典氏(中央右)と日本維新の会の前原誠司氏(中央左)

輸出解禁と継戦能力の確保は遠い話のように思えるが、実際は密接に結びついている。

「継戦能力とは、銃弾などの消耗品を途切れさせない能力のこと。ロシアがウクライナへ侵攻し、有事が身近になったことで軍需品の需要は世界的に増えました。

しかし軍需品は急に造れと言われても造れない上に、平時にただ増産しても使い道がありません。ゆえに、小は弾丸から大はミサイルまで需給が逼迫しているのが実情です。そこで、日本でも国内で生産体制を強くするという選択肢が浮上してくるのです」

だが、国内で増産するだけでは意味がない。ウクライナのドローン戦術を研究し、陸上自衛隊に知見提供している現代戦研究会で技術顧問を務める平田知義氏はこう語る。

「軍需品は本来、消耗品なので、生産ラインは需要が大きくなければ維持できないという産業構造があります。

ところが日本では、軍需企業の卸先は事実上、自衛隊のみ。そもそも自衛隊は基本的に訓練以外で弾薬などの消耗品を消費するわけではありません。

結果として企業側は低ロット・高コストにならざるをえないのです。

しかし、海外への輸出が可能になれば、高ロット・低コストに寄せられる可能性が出てくると思います」

高市政権の"悲願"、「殺傷能力のある武器輸出」って日本にとってトクなの?
「あぶくま」型護衛艦は現行制度内でフィリピンへ輸出予定。撤廃後は艦船が輸出の主力とみられる

「あぶくま」型護衛艦は現行制度内でフィリピンへ輸出予定。撤廃後は艦船が輸出の主力とみられる

高市政権の"悲願"、「殺傷能力のある武器輸出」って日本にとってトクなの?
20式小銃は実戦経験がなく、世界のニーズは未知数

20式小銃は実戦経験がなく、世界のニーズは未知数

ただし、これは「ちゃんと売れたら」の話だ。ここから先は一筋縄ではいかない。

「日本のプライム(防衛装備の元請け企業)側は、昔から輸出を望んでいたと思います。今では幻想になりつつある〝日本製〟というブランド力がまだ強かった当時だったら売れたでしょうから。しかし、ロシア・ウクライナ戦争で状況は一変しました」

ロシア・ウクライナ戦争は兵器を二分した。すなわち、実戦で使える兵器と、使えない兵器だ。

「いくら精緻にピカピカに作っても、戦場でどれだけ機能したかが最も重要。実際、アメリカ製も含めて大手メーカーの兵器がことごとく通用しなかった例が前線で見られました。

例えば、GPS誘導式ミサイル。日本も保有していますが、ウクライナの戦場ではGPS電波に対して偽装を行なう〝スプーフィング〟が頻発するらしく、GPS誘導式ミサイルを飛ばしても、どっちに飛んでいくかわからない状態と聞きます」

日本製の武器が使えるのか使えないのかは輸出できない今、知りようがない。

そのため、平田氏によれば、今回の規制を撤廃しても、「しばらくは護衛艦など艦船の輸出がメインになるのではないか」という。

【撤廃されたらまずウクライナに供与】

政府が積極的に進めたい理由はわかった。しかし、撤廃後、日本に悪い影響は出ないのだろうか。部谷氏が語る。

「殺傷能力のある武器輸出が可能になることで『日本のイメージが下がる』と言われることもありますが、そもそも世界では『殺傷』『非殺傷』といった区別はほとんど存在しません。

偵察用ドローンは殺傷能力を持ちませんが、攻撃の連携に使われれば殺傷に関わっている。つまり、戦争に関わるアセットに独立した存在はなく、すべてが人命に関与しています。大事なのは『何を売るか』より『どこに売るか』なんです。

例えば、トルコ製ドローンTB2は一時『クルド人を殺した兵器』として批判されましたが、ウクライナに供与されると『ロシア軍を止める兵器』として評価が一変した。

また、スウェーデンやノルウェーといった北欧諸国も武器輸出をしていますが、イメージが悪化したとは言えません。要は売り先とロジックが重要なんです。人権侵害国に売るのは論外ですが、国際秩序の維持に用いられるのであれば、むしろ日本の評判が上がる可能性すらあります」

売り方や売り先の吟味は当然として、やはり問題は「実戦経験」だ。

日本製の軍需品は、そもそも実戦機会が極端に乏しい。

平田氏は「5類型が撤廃されたら、まずやるべきは『ブレイブ・ワン』による『テスト・イン・ウクライナ』への参加でしょう」と語る。

「ブレイブ・ワン」とは、ウクライナ政府が立ち上げた防衛技術クラスターで、民間スタートアップと軍を結びつけ、ドローンなどの最新技術開発と実戦投入を加速させている。

その組織が企画する「テスト・イン・ウクライナ」は、海外の防衛企業がウクライナに兵器を送り、使用法をオンラインで訓練し、実戦で用いたウクライナ軍が企業側に報告書を送るという取り組みだ。

高市政権の"悲願"、「殺傷能力のある武器輸出」って日本にとってトクなの?
現代戦では民生品のドローンも攻撃連携や捕捉・観測に用いられる。「殺傷」「非殺傷」という区分は成立しにくくなっている

現代戦では民生品のドローンも攻撃連携や捕捉・観測に用いられる。「殺傷」「非殺傷」という区分は成立しにくくなっている

高市政権の"悲願"、「殺傷能力のある武器輸出」って日本にとってトクなの?
ウクライナ政府による防衛技術クラスター「ブレイブ・ワン」。提供された装備は前線で使われ、提供者には技術的フィードバックがある。写真は新たな対ドローン兵器を試すウクライナ兵士

ウクライナ政府による防衛技術クラスター「ブレイブ・ワン」。提供された装備は前線で使われ、提供者には技術的フィードバックがある。写真は新たな対ドローン兵器を試すウクライナ兵士

平田氏が言う。

「つまりは実際の装備品を前線で試験し、成果や改善点をフィードバックする施策です。ドローンから電子戦装備、戦術用AIなど対象も幅広く、ウクライナは実戦経験を提供する代わりに、無料で武器の供与を受けるわけです」

この指摘には部谷氏も同意する。

「日本企業が国内で考えていても、どの装備が現場で好まれるかはわからない。だからまずウクライナに送れるものを送ったり、他国との演習や交流に出して反応を観察したりして、ニーズをつかんでから売る。

そうやって国益に替えるべきです」

では、仮にうまくいった場合、軍需産業は国益になりうるのか。

「実際、隣国の韓国は国家戦略として武器輸出を進め、2025年の武器輸出額が150億ドルを超えたとされています。

大きいのは、武器輸出は売って終わりではなく、維持整備やアップデート、それに戦い方の教育といった継戦に必要なサービスが長期的な恩恵をもたらすこと。これは世界中で行なわれているビジネスモデルです。

たとえるなら、アップル製品を使う人が身の回りのアイテムをアップル製品でそろえる〝OSモデル〟のような形でも収益を出しているわけです」

では日本は韓国のようになれるのか?

「日本企業はビジネスの精神が弱い。実際、東南アジアに供与した装備の維持整備を『面倒だ』と言った日本企業があったとも聞きます。

しかし、それは企業の責任だけではなく、防衛省がどこまで責任を持つかわからないから手が出ない構造でもある。5類型を撤廃するのであれば、政府が安全保障に関わる問題を、補助金ではなく減税や規制緩和で支える制度が急務。継戦能力の視点を持つならなおさらです」

倫理の問題は依然として残る。しかし世界はすでに大きく動いている。日本が世界の軍事市場に参加するなら、撤廃はスタート地点に過ぎない。

■政府が撤廃を目指す「5類型」って何?
政府は輸出できる防衛装備品を「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」の5つの目的に限定してきた(=5類型)。

平和協力や人道支援が前提で、殺傷武器や弾薬は対象外。1967年の「武器輸出三原則」で輸出は事実上禁止されてきたが、2014年に安倍政権がこれを「防衛装備移転三原則」に改め、共同開発が可能に。また輸出も"5類型"に限定しつつ緩和された

写真/時事通信社

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