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音楽家・堀込高樹のソロプロジェクト、KIRINJIが前作『Steppin' Out』から2年4ヶ月ぶり、通算17枚目となるオリジナルアルバム『TOWN BEAT』を1月にリリースした。

本作は、堀込がほとんどのパートを演奏。

長年KIRINJIとして突き詰めてきた現代的でスタイリッシュなサウンドはそのままに、兄弟時代のキリンジを彷彿させるオーガニックな肌触りを加え、自身の音楽的こだわりを突き詰めた一枚だ。

また何気ない日常がいつしか社会的な問題の提起へと連なる、独自の視点による歌詞も今回は聞き応え十分。音楽的な快楽とメッセージが入り混じった、令和ならではのポップスを存分に堪能できる。

そこで久々に堀込高樹氏へインタビューを試み、本作にかける思いを語ってもらった。

――新作『TOWN BEAT』を聞かせていただきましたが、勢いがあって、全体的に明るいオーラをまとっている印象を受けました。制作はどのような流れで始まったんでしょうか?

堀込高樹(以下、堀込) 取り掛かったのは2024年の秋です。9月頃にベースの千ヶ崎(学)くんとドラムのmabanuaくんのリズム録りをしたのが最初。その後、弾き語りツアーを挟み、歌入れをして完成させました。

そのまま2025年が明けて、家にこもって書き続けていたんだけど、そうこうしてるうちフェスとかライブが入ってきて。 

――夏頃からはライブの本数が多かったですよね。

堀込 そう、ありがたいことに。当初はアルバムを完成させてから、ライブに臨もうと思っていたんですが、結局それが叶わず(笑)、「ライブをして、レコーディングして」というサイクルが続いて。

ただ、おかげで気持ちが高ぶったままの日々となり、自然と曲に反映されたんだと思います。今回は最初から「明るいものを作ろう」と狙ったわけではなくて、その時の気分をパッケージしたらこの形になったという感じです。

新作『TOWN BEAT』をリリース。KIRINJI・堀込高樹「ポップスってどこかワイドショー的な"俗っぽさ"がないといけない」
通算17枚目となるオリジナルアルバム『TOWN BEAT』

通算17枚目となるオリジナルアルバム『TOWN BEAT』

――サウンド面では、昔のキリンジに通じる、生身の楽器の質感が戻ってきた印象です。

堀込 しばらくエレクトロニクス要素の強いアレンジが続いていたんですけど、飽きちゃって(笑)。今回はギターをアンサンブルの中心に据えた曲を意識的に増やしました。ミックスもそうだし、冨田(恵一)さんにストリングスアレンジをお願いするなど、ナチュラルな音色を目指しています。

――耳に心地よかったです。クレジットを見ると、今作はドラムや一部のベース、ストリングス以外、ほとんどの楽器をご自身で演奏されていますよね。これまでバンド編成だったり、フィーチャリングでボーカリストを呼ぶなどしていたのでやや意外な気も......。

堀込 自分のやり方は一度デモを作って、それを作り込むタイプなんです。なので誰かに弾いてもらうとデモとの差異が出て、他の楽器まで調整しなきゃいけなくなる。その手間を考えると「一番曲をわかっているんだから、自分でやった方が早い」という結論になって。

あとこれまでは「KIRINJIを外に広げていきたい」「拡張したい」って意識が強かったんですけど、今回はそれも気持ち的に一段落したんですよね。 

――いつも以上にこだわりが増し、より丁寧に作り込まれたと。 

堀込 まぁ、そうですね。そこまで揉んだりして完成させる、時間的な余裕がなかったのもありますけど(笑)。

新作『TOWN BEAT』をリリース。KIRINJI・堀込高樹「ポップスってどこかワイドショー的な"俗っぽさ"がないといけない」

――今回も秀逸なポップスが並びます。先行配信された「ルームダンサー」は、メロウなアップテンポの楽曲。タイトル通り、部屋で聞いていて、踊り出したくなりますね。 

堀込 タイトルは「ルームランナー」を模してつけました(笑)。曲調は「恋はあせらず」みたいなモータウン風のビートで、SNSで流れてくるような派手なダンスミュージックの類ではないんです。 

でもこういう古いグルーヴを聴いて、こっそり家で盛り上がっている人っているだろうなと思って、歌ったら面白い気がしたんです。

――堀込さんもひとりで踊ったりするんですか?

堀込 まぁ、体を揺らすぐらいですけどね(笑)。あとダンスでいえば役者のレッスンで「動物や抽象概念をイメージして踊れ」というのがあるらしいんです。

型にはまらない、人には絶対に見せられないような自由な動きというか。そこにある「気持ちの解放」みたいなものも書きたかったんですよね。

――ユニークなのは「flush! flush! flush!」。ファンク調の楽曲に乗って「flush!=流せ!」って、日本のトイレを賞賛する歌ですが詞が社会の闇に及んでいく。その展開に驚きました! 

堀込 トイレの快適さへの感動だけじゃ、1曲持たなかったのもありますけどね(笑)。でもなんでもキレイに見えるものの裏にはどこか闇がかっている部分がある。インフラも快適に見える一方でどこか社会の歪さや不穏さも隠れている気がして。そこまで踏み込んで歌うのも面白いんじゃないかと思ったんです。 

――確かにトイレって、汚いモノも流しちゃえみたいなところがありますよね。「気になる週末」も、価値観などが違う二人の関係を描いたラブソングなんだけど、決して惚れた腫れただけじゃないというか......。 

堀込 そうなんです。今の社会って、考え方の同じ人同士がエコーチェンバー(SNSなどの閉鎖的な空間のこと)の中にいて、違う考えのクラスターと切り離されているけれど、その間にも温かいものが流れていればいいなと思って。

新作『TOWN BEAT』をリリース。KIRINJI・堀込高樹「ポップスってどこかワイドショー的な"俗っぽさ"がないといけない」

――前作『Steppin' Out』に「I ♡ 歌舞伎町」って「トー横キッズ」を題材に描かれた楽曲がありましたけど、KIRINJIの曲は日常からはじまって、社会にまで視点を広げて眺める面白さがあります。

堀込 あぁ、そう言っていただけると(笑)。

――だから自分のこととして共感しつつも、聴き込むにつれ、そういう味方もあるんだって発見があって引き込まれるというか。曲の題材はワイドショーを見るなどして思いつくんですか。

堀込 ワイドショーはよく見ますね。画面に向かって「これはダメだろう」みたいなことを、つぶやいたりして(笑)。僕自身、そういうのとは無縁の暮らしをしているように思う人も一部にはいるみたいだけど、そんなことはないです。

むしろポップスって、どこかでワイドショー的な"俗っぽさ"がないといけないと思うんです。大勢の人に聞いてもらうモノだし、それがあるからこそ聴き手の懐に入り込んでいける。

――アルバムを発売して、ご自身の中で新たな発見はありますか?

堀込 このくらいのテンション感(テンポや曲のキャッチーさ)が、ポップスとして聞かれるにはちょうどいいのかも?と思いました。また、このアルバムではいつになく歌詞についての感想を多くいただいています。今回は、どんなことが歌われているのか明解な歌詞を書こうと臨んだのでリスナーに伝わっている実感があり、うれしいです。

新作『TOWN BEAT』をリリース。KIRINJI・堀込高樹「ポップスってどこかワイドショー的な"俗っぽさ"がないといけない」

――以前、海外でも人気の音楽番組『Tiny Desk Concerts』の日本版『~Japan』に出演し(2024年5月27日)、「メッセージとマッサージの二刀流で頑張りたい」と話されていました。その言葉が印象的でしたけど、ある意味それがKIRINJIの指針というか。

堀込 あれは海外の人も見るというと、少しでもいいことを言わなきゃと思って一生懸命考えた言葉なんですよ(笑)。でも本当にそうで。音楽で誰かを一方的に鼓舞するのではなく、心身を解きほぐす「マッサージ」のような側面はずっと大事にしていますね。

そこにちょっとした「メッセージ」が忍び込んでいるような、そんなバランスの音楽をこれからも作っていければと思うし、それこそがポップスじゃないかと思っています。

――KIRINJIは常に新作が一番面白いと感じさせてくれますけど、年齢を重ね、創作のモチベーションに変化はありますか?

堀込 年齢とともに新しいモノに興味をなくなる人はいますけど、僕は幸いなことに新しい曲を作ることの方が、昔のをやるよりも楽しいと思えるんです。自分でもいいなと思える曲ができている。それが変わらずモチベーションになっていますね。

あと自分はそれまでの過去作というか、遺産だけでビジネスを回していけるほど大きなものをもってるわけではないので、新しいものを新しいお客さんに届け続けないと活動が止まってしまう。そういう現実的な面もありますけどね(笑)。 

――スランプはないんですか? これは音楽に限らないですけど、年齢とともに行き詰まりを感じ、なんなら鬱のようになる人もいると思うんですけど。

 堀込 若い時のほうがそういう風になっていた気はします。気分の浮き沈みがあった。でも最近はそういうのはないかもしれないですね。適度に運動もしてるし、健康だからかな(笑)。なんていうとつまんない答えになっちゃうけど。

――ライブの本数も年々増えていますし、はつらつとした印象は増していますよね。

堀込 これまで兄弟ユニットからバンド、ソロへ、メジャーから個人レーベルへと環境を変化し続けてきたので。その度に「次は何をしようか」と考えざるを得なかったのも良かったのかもしれません。

新作『TOWN BEAT』をリリース。KIRINJI・堀込高樹「ポップスってどこかワイドショー的な"俗っぽさ"がないといけない」

――ここ数年、韓国、中国でのライブを成功させました。「時間がない」という曲がスペイン語圏で人気だったというお話もちらっと聞きましたし、海外での活動を期待するファンもいると思います。堀込さん自身、海外でのライブを増やしたいという想いは?

堀込 海外はもっとやってみたいですね。「時間がない」はSNSで一般の人に発見されたのかな。詳細はわからないけど、話を聞いた時はうれしかったですね。

――やってみたい場所は?

堀込 タイやインドネシアあたりでライブをしている日本のアーティストは多いので、現実的かと思います。欧州、北米、南米でも演奏してみたいですが、どうやれば実現するのか、まだわかりません。ただそのために何かをするのではなく、日本でやっている内容と同様のものをお見せしたいですね。

――それでは最後に今後のビジョンを教えてください!

堀込 良い作品をコンスタントに出して、より良いライブをやりたいです。普通のことですが、続けていくことこそが大事だと思っています。

新作『TOWN BEAT』をリリース。KIRINJI・堀込高樹「ポップスってどこかワイドショー的な"俗っぽさ"がないといけない」

■KIRINJI
1996年に堀込高樹と堀込泰行の兄弟で「キリンジ」を結成。98年にメジャーデビューを果たす。2013年、堀込泰行が脱退し、バンド編成の「KIRINJI」として活動開始。2021年からは堀込高樹のソロ・プロジェクトとなる。2023年には自身のレーベル「syncokin」を立ち上げた。昨年は初めて『FUJI ROCK FESTIVAL '25』に出演するなどよりアグレッシブに活動中。
○最新アルバム『TOWN BEAT』が絶賛発売中! 「KIRINJI TOUR 2026」ツアーファイナルとなる[東京] NHKホール公演は2月11日(水祝)に開催。チケットは完売となっているが、生配信の実施が決定。そのほか最新情報はKIRINJI公式サイトをチェック!(
公式Instagram【@kirinji_official】

取材・文/大野智己 撮影/山口康仁

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