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反EV色をあらわにするトランプ大統領。巨大な米国自動車市場は今後どのような変化を迎えるのか。
世界の注目が集まる

EV一色の未来予想図が世界で崩れつつある。米国はパリ協定を再離脱し、欧州も2035年エンジン車販売禁止の方針を後退。巨額投資のツケにあえぐ世界の自動車メーカーは、"EV一本足打法"を、静かに修正し始めた。

では、EVの次に来る主役は何か。覇権バトルは、すでに幕を開けている。

【米自動車メーカーもEV事業の規模縮小へ】

EVシフトに大逆風!

地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定から、米トランプ政権が1月27日、正式に離脱した。昨年1月に国連へ通告していた措置が、規定どおりこの日に確定したのだ。

温室効果ガス排出量で中国に次ぐ世界2位の米国の離脱は、各国が連携して進めてきた気候変動対策に深刻な打撃を与える。今回の再離脱で、世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5℃以内に抑える国際目標は遠のいた格好だ。

米国のパリ協定離脱は、2020年11月の第1次トランプ政権に続き2度目。前回は、発足直後のバイデン政権が復帰を決断したが、トランプはすでに、パリ協定の前提となる国連気候変動枠組条約からの離脱方針も示しており、仮に今後、政権交代が起きたとしても、協定復帰には時間を要する可能性が高い。

米国の自動車メーカー関係者はこう語る。

「トランプは気候変動対策そのものを〝史上最大の詐欺〟と断罪し、風力や太陽光といった再生可能エネルギーを敵視。代わりに石油・石炭の積極利用にかじを切り、反EV路線は鮮明になっています」

米国のこの〝反EV・反脱炭素路線〟が、世界のEVシフトに冷水を浴びせた。自動車ジャーナリストの桃田健史氏は、こう分析する。

「トランプ政権の動き自体は、自動車業界にとって良くも悪くも織り込み済みです。ただし、中長期で米国の環境政策の方向性が見えない。そのため各自動車メーカーとしては、対応の間口を広げながら静観せざるをえない状況が続きそうです」

欧州でも、潮目ははっきりと変わった。EUの行政執行機関である欧州委員会は昨年12月16日、2035年に内燃機関車の新車販売を原則禁止するという方針を事実上、撤回した。一定の条件を満たせば、35年以降もエンジン車の販売を認めるという現実路線にかじを切ったのである。

21年に打ち出された「2035年のエンジン車販売禁止」は、世界の自動車産業を震撼させた野心的な宣言だったが、現実の壁の前に頓挫した。

最大の要因は〝EV一本足打法〟に走った自動車メーカーの経営悪化。象徴的なのが、欧州の雄・フォルクスワーゲンで、巨額のEV投資が収益を圧迫し、現在は経営再建と大規模リストラの渦中にある。

加えてメルセデス・ベンツも24年に、「30年までに市場が許す限り全車EV化する」という方針を撤回している。

すでに米フォードはEV部門を大幅に縮小しているが、1月27日に発表された米GM(ゼネラル・モーターズ)の決算は、その厳しさを如実に物語る。最終損益は約5080億円の赤字。EV販売不振に加え、購入補助金打ち切りのダブルパンチを受け、EV事業の規模縮小を正式にアナウンス。

今後は、利幅の大きいピックアップトラックやSUVといったガソリン車に経営資源を分配する。

「GMはいかにも米国企業らしく、損切りが早い。新たな戦略を練り直す段階でしょうね」(桃田氏)

ちなみに、これまで 〝絶対王者〟として君臨してきたテスラは、2年連続の前年割れとなる約164万台と失速し、EVの世界新車販売トップの座は、競争力の高いモデルをそろえ、225万台以上を売った中国BYDに奪われている。

【トヨタは6年連続世界新車販売首位】

ある自動車専門誌の元幹部は、苦笑いしながら語る。

「補助金という〝劇薬〟が切れた途端、EVシフトは音を立てて崩れ始めた。価格の高さ、インフラ不足、航続距離への不安など、これまで見て見ぬふりをしてきた課題が一気に噴き出したんです。皮肉なことに、現在、勢いがあるのは、かつて〝オワコン〟と叩かれたHEV(ハイブリッド車)。米国で飛ぶように売れています」

事実、昨年の世界新車販売台数でトヨタは約1054万台と過去最高を記録。ダイハツ、日野を含むグループ全体では1132万台に達し、2位のフォルクスワーゲングループ(約898万台)に200万台以上の差をつけ、6年連続で世界新車販売トップに立っている。

"ポストEV"主導権バトル、日本メーカーは勝てるのか?
米国で"ドル箱"となっているHEVの強さを背景に、トヨタが世界新車販売で6年連続のトップに立ち、存在感を示した

米国で"ドル箱"となっているHEVの強さを背景に、トヨタが世界新車販売で6年連続のトップに立ち、存在感を示した

一方、〝日本のEV連合〟などと持ち上げられてきた国内大手のホンダや日産は世界販売台数を減らしている。

「米国市場への依存度が高く、トランプ関税の影響が直撃しました」(桃田氏)

世界を飛び回る関西出身のベテランラリーカメラマン、山本佳吾氏はこう語る。

「正直、いずれこうなると思ってましたわ。〝EVだけの未来〟なんて、そんな簡単に来るわけない。技術だけやなく、政治の思惑も絡む。ましてや一国の大統領の身柄を軍隊使って堂々と押さえるような混迷の時代や。

先のことはますます読めん。そう考えると、食糧と競合しない次世代バイオ・合成燃料の活用を進めるほうが現実的やと思う」
 
実際、今後欧州が認めるのはEVだけではない。合成燃料(eフューエル)やバイオ燃料に加え、HEVやPHEV(プラグインハイブリッド車)も正式に選択肢となる。

山本氏は続ける。

「EVがなくなることはないし、これからも確実に発展していくと思う。けど、今みたいな過渡期を乗り越えるための〝つなぎの技術〟という意味ではHEVとかPHEVの出番やろな。

バイオ燃料とも相性ええやろうし」

しかし、問題もある。

「HEVの技術で日本が一歩も二歩も先を行ってる点や。そこに欧米が〝へそ曲げて〟、またようわからん難癖つけてくる可能性もゼロやない。歴史は繰り返す言うしな」

欧米が描いたEV一本足打法の未来図は崩れた。では、日本メーカーが進むべき、〝ポストEV〟の主役は何か。答えは、単一解ではないと専門家は口をそろえる。

HEV、PHEV、合成燃料、バイオ燃料、そして全固体電池搭載のEV。理想を掲げて突き進む時代は終わり、現実と折り合いをつける時代が始まった。EV狂騒の後、自動車産業は「地に足の着いた脱炭素」へと回帰しつつある。

取材・文/週プレ自動車班 撮影/山本佳吾 写真/時事通信社

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