くら寿司の総店舗数は690以上。海外進出も積極的で、アメリカに84店舗、台湾に62店舗を出店している
かつては「1皿100円」も珍しくなかった回転ずしだが、取り巻く環境は日増しに厳しくなっている。
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【無限の可能性を持つ低利用魚】
庶民が魚を気軽に食べられる場所のひとつが一年中、手頃な値段でさまざまなすしを提供してくれる回転ずしだ。
だが、大手チェーンのくら寿司でバイヤーを務める大濱喬王さんは、日本の魚食文化の未来に危機感を抱いているという。
「よく言われる、外国に対する魚の買い負けですが、近年の円安によって深刻化しています。欧米や中国はもちろん、経済発展著しいアフリカ諸国などでも積極的に魚を食べるようになっていますから、日本はどんどん不利になっています。
スーパーの鮮魚コーナーを見ているとよくわかりますが、例えば代表的な輸入魚であるサーモンは、この5年間で価格が倍以上になっていますよね」
くら寿司の場合、ネタに占める輸入魚の割合は5割以上だが、今後は国内の魚が増えていく可能性が高いという。だが、日本の漁業には別の問題もある。
「われわれは『生産者さん』と呼んでいますが、魚を養殖したり取ってきたりしてくれる漁師さんたちの置かれている状況がとても不安定なんです。
中には儲かっている漁師さんもいますが、そういう人は少数派です。しかも漁師さんは地方に多いですから、そもそも地域から若者がどんどん減っていることもあり、後継者不足は深刻です」
だが、海外で魚の需要が増しているということは、外国に売れば儲かるのでは?
「その可能性はゼロではないですが、見方を変えれば、国内の魚も外国に買い負けるということですから、日本の一般庶民にとっては魚がますます手が届きにくいものになってしまう。さらに、海外のトレンドは浮き沈みが激しいので、漁師さんにとっても国外の客をメインにするのにはリスクがあるでしょう」
そんな現状を打ち破るためにくら寿司が目をつけたのが、あまり食材として利用されてこなかった「低利用魚」だ。
「実際に国内の港で水揚げされる魚は多種多様なのですが、食材として使われない魚も多いんです。例えば、都内の川の河口に群れていたりするボラや、釣りの対象として人気のシイラなどです。
ほかに、ハマチやブリでも、『身が赤い』などの理由で刺し身として提供できないグレードのものも多いのですが、もったいないですよね」
くら寿司では期間限定で低利用魚を使ったメニューを提供している。上が「天然シイラ香味揚げ」、下が「ゆず漬けボラ」(共に現在は販売終了)
もちろん、一般に食べられていないのには、それなりの理由がある。
「ボラは、取れる場所によってはにおいがきついですし、シイラは極端に劣化が早い。でも今は調理や保存の技術が進歩していますから、ボラはあぶりにして香りを良くしたり、シイラは流通や温度管理を工夫することで、商品化に成功しています。身が赤いハマチは、塩こうじ漬けにして色をカバーしたり。
特にシイラは一年のうち2、3ヵ月はくら寿司に並んでいますから、ぜひ探してみてください。同業他社さんでもシイラを使ったメニューは増えていますよ」
【誰でも漁師になれる未来がやって来る?】ほかにくら寿司が実現を目指しているのが、最新テクノロジーによるスマート養殖だ。
「国内魚のおよそ半分はブリやハマチ、マダイといった養殖魚なのですが、この分野もやはり人手不足や経営の不安定さが課題です。そこで私たちは子会社であるKURAおさかなファームを設立し、少人数で効率的に運用・管理できるスマート養殖の技術などを、まとまったフォーマットとして提供したいと考えています」
スマート養殖は、どのあたりがスマートなのか?
「エサやり(給餌)の自動化がメインです。魚を育てるための給餌は、人手がいる上にとても難しいんです。ペレットという塊状の人工のエサを魚に向かってまくのですが、魚は繊細ですから、タイミングや量、まくスピードなどを微妙に調整しないと食べてくれません。
今までは漁師さんの経験と勘に頼って給餌していたのですが、AIやIoT技術を応用したスマート給餌機を導入することで、人的コストを削減することができました」
KURAおさかなファームが養殖を委託する、長崎・五島列島の養殖場。対馬暖流が流れている
給餌の量やタイミングをAIやIoTで管理し、養殖のコストを大幅に削減。給餌状況は遠隔で管理できる
上写真の養殖場で育った「五島列島AI寒ぶり」は毎年冬に提供される(現在は販売終了)。水温の高さからエサをよく食べるため、脂乗りも良いという
それだけではない。新技術を提供するのに加え、漁師たちの生活を安定させるための仕組み作りも行なっている。
「漁師さんの生活が安定しない理由のひとつが、魚の価格が不安定な相場に左右されることです。私たちはこの問題をクリアするために、相場ではなくその魚の生産コストに基づく価格を提示するようにしました。
生産コストは基本的に変わりせんから、私たちからすると相場が安いときは相対的に高くなりますが、相場が高いときには安く買えるということです。これは魚を売る漁師さんの立場にとっても同様なので、彼らの生活は安定します。地味ながら画期的な試みでして、おかげさまで漁師さんたちにも好評ですよ」
どんなに技術が進歩しても、現場の漁師たちがいなければ、われわれは魚にありつくことはできない。
「どんどん漁師さんが減っていっている中で、スマート養殖の未来は明るいと感じます。最終的には、少人数でも気軽に養殖業に参入できるようなフォーマットを作りたいですね。
実はその試金石が、くら寿司で毎年12月にお出ししている『五島列島AI寒ぶり』。これは先ほどお話ししたスマート給餌機を使って五島列島で養殖した寒ブリなのですが、この試みが軌道に乗ったら、誰でも養殖業にチャレンジできるパッケージに落とし込みたいと思っています」
結局のところ、日本の食卓を救う究極のおさかなテックは、漁業の現場を豊かにする地道な取り組みなのかもしれない。
取材・文/佐藤 喬
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