2015年9月28日撮影。阪神ファンの聖地「まる虎ぽーろ」マスターこと盛林文男さん
2月2日、大阪の喫茶店「まる虎(こ)ぽーろ」のマスター・盛林文男さんがこの世を去った。
約50年の歴史を誇る"阪神ファンの店"の店主であり、本誌にも虎党のご意見番としてたびたびコメントを寄せてくれた盛林さんは、とても優しくて愉快な人だった。本誌記者がそんな"マスター"の半生を取材した。
【〝虎一色〟になるまで】2月2日未明、大阪市北区にある〝阪神ファンの聖地〟、喫茶店「まる虎ぽーろ」の店主・盛林文男さんが静かに息を引き取った。
昨年5月頃まで甲子園で阪神を応援する元気な姿が見られたが、夏場から体調を崩し、8月末で店を閉め、9月には入院。そのまま回復することはなかった。
2月4日に行なわれた葬儀には、多くの阪神ファンや応援団関係者が集まった。阪神の球団歌『六甲おろし』が流れる中出棺され、盛林文男さんは、天国へと旅立った。
盛林さんは客からは「マスター」と呼ばれていた。店で「マスター」と声をかけると、機嫌がいいときは「誰がダスター(雑巾)やねん」と定番ギャグが返ってきた(以降、本文もマスターと称したい)。
タイガースを愛し、タイガースファンに愛された男の愉快な半生を、常連客の証言やマスターと親交があった筆者の思い出と共に紹介したい。
1976年、脱サラしたマスターは純喫茶「まるこぽーろ」をオープン。
そんな店が、なぜ虎一色に? 古参の常連客S氏がこう語る。
「当時、店の近くには阪神の球団事務所と広告代理店『電通』の関西支社があり、社員に阪神ファンが数多くいた。彼らが頻繁にコーヒーを飲みに来て、阪神談議に花を咲かせる。そんな中で、じわじわと店も変化したんです」
82年5月、球団が発行する月刊誌『月刊タイガース』に、阪神ファンの喫茶店だとの紹介記事が掲載される。
「しかし、雑誌を読んだ阪神ファンが店に行ってみると、思ったほど〝阪神の店〟らしくない。そして、客から『ほんまに阪神ファンの店でっか?』とツッコまれたのをきっかけに、マスターは店に阪神の旗を飾ったり、応援グッズを置いたりし始めました」
「まる虎ぽーろ」の外観。最盛期には阪神の関連ニュースに合わせて、ドア前の張り紙が頻繁に入れ替わっていた
S氏が続ける。
「当時は朝から夕方までは純喫茶、夕方から夜は阪神ネタが飛び交う居酒屋と2部制みたいになってた。マスターは純喫茶モードでは物静かだけど、夕方5時半頃、一緒に働いている奥さんが店から自宅へ帰ってしまうと〝本性〟を現します。『これからはわしの時間や! いくでー!』とアホなことを言いまくるようになるんです(笑)。
それに合わせるかのように、常連客がぞろぞろと入店し、カウンター席に座った6時前あたりで、サンテレビの阪神中継がスタート。
やがて店名を「まる虎ぽーろ」(以下、まる虎)に改名。名実共に阪神ファンによる、阪神ファンのための店となったのだ。
【ダジャレ王】マスターは無類のダジャレ好きとしても知られていて、こんなエピソードがある。
大阪・堂島発のロールケーキ「堂島ロール」が全国的な人気を得ていた2009年、メジャー帰りの捕手・城島健司の阪神入りが決まった。マスターは冗談のつもりで「堂島ロールならぬ『城島ロール』を出したい」と雑誌のインタビューで語っていた。
しかし、ある日、小学生の男の子がいる母親が「うちの子が城島ロールを食べたいって言うんです」と店に電話。するとマスターは、阪神百貨店に駆けつけ、堂島ロールを購入し、その上にチョコレート文字で、大きく城島の背番号「2」を書いた。
「これが『城島ロール』でんがな」と店に訪れた小学生とお母さんに振る舞った。ふたりは笑顔でそのケーキを味わったそうだ。
こんな話もある。
阪神が18年ぶりのセ・リーグ優勝を果たした03年、甲子園では選手の名を冠したフードメニューが人気だった。
しかし、そのひとつである「赤星ラーメン」に、マスターはこんな難癖をつける。
「赤星(憲広[のりひろ])選手は盗塁王やろ。ならラーメンやなくて、そうめんにせんとあかんやろ。〝走めん〟や!」
こうして誕生したのが「赤星走めん」だ。実際にこれを食べたことがあるという常連客T氏はこう話す。
「赤星ラーメンは星形にくりぬいた赤カブの具がのっかっていたけど、『赤星走めん』はそんな手の込んだことはやらない。麺の上に紅しょうがとか赤いのをのせただけの、普通のそうめんでした(笑)」
コロナ期の「緊急事態宣言」を打倒ジャイアンツのスローガンとして転用。マスターのギャグは時に、不謹慎なものもあった
【勝っても、負けても】
言うまでもなく、マスター本人にも熱い猛虎魂が宿っていた。どんなときでもタイガースに深い愛情を注ぎ続けた。
87年から02年まで、優勝どころかAクラス(1~3位)に1度しか入れず、10度の最下位を記録した〝暗黒期〟でもそれは変わらない。
「『また今日も負けた。弱いなあ』とぼやく客に、マスターがこう諭していたのをよく覚えています。『負けたぐらいで怒ってたら、阪神ファンは続けられへん、体もたへんで。
一方で、筆者にはたびたび「ファンが何よりも求めとるのは優勝の喜びや!」と語るなど、阪神の勝利を誰よりも強く願っていた。だからこそ03年のセ・リーグ優勝のときの歓喜は格別なものだった。マスターは「いつかやりたかった」と言っていた、店内でのビールかけを常連客らと共に存分に堪能した。
「そこらへんの古い余ったビールをかき集めて、選手がやるぐらいの大量のビールかけをやってました。ただ、翌日店中がビール臭くなって営業できず、マスターは奥さんにめちゃくちゃ怒られたようです。それ以来、優勝しても『まる虎』ではビールかけは禁止になったとか(笑)」(Y氏)
* * *
筆者が入院中のマスターのお見舞いに行ったのは、亡くなる1週間前だった。思い出の写真を見ながら、ふたりで昔を懐かしんだ。その後、マスターはこうつぶやいた。
「おもろかったで。ほんまにおもろい人生や」
阪神タイガースと共に面白おかしく生きたマスター。その姿を忘れることはない。
取材・文/日野和明



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