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東西の味の違いについて語る著者の稲田俊輔氏

餃子、すき焼きなどの人気メニューから日本の食文化の東西差が見えてくる。さらに鹿児島ラーメン「こむらさき」の魅力、お好み焼きの進化など、食にまつわる興味を引く話が満載のエッセー本。

料理人でもある『東西の味』の著者の稲田俊輔氏に話を聞いた。

* * *

――東西の味の差をはじめ、読んでいて「そうだったのか」と思う瞬間が何度もありました。

稲田 世の中の多くの人が地域ごとの味の差に驚いたり、ショックを受けたりしていると思うんですけど、その理由はあまり言語化されてこなかった気がします。理由を掘っていくと、歴史とか文化にまで話が及んで、どんどん面白くなるんですよ。

――みんなが大好きな料理が取り上げられていますね。

稲田 せっかくなら多くの人に実感してもらいたかったんです。実は高級料理的なものになるほど地域差がなくなります。料亭、小料理屋、居酒屋、家庭と、身近になるほど地域性が明確に出てくるので、庶民的な食の世界のほうが圧倒的に面白いんです。

――稲田さんは鹿児島に生まれて京都で大学生活を送り、大阪、名古屋、岐阜で仕事をされて、今のお住まいは名古屋です。いつ頃から地域の味を意識していたのですか?

稲田 数年前、仕事で東京に通い、慣れ親しんでいく中で、味の違いが強烈だったんですね。九州から関西、関西から中部へと行ったときよりも、突然世界が変わるような感覚がありました。自分にとって東京の味は完全に〝エスニック料理〟でした。

それまでもいろんなエスニック料理を食べることに挑戦して、最初は訳がわからないけど、だんだん理解して好きになるという過程を経験してきました。なので、タイ料理とかインド料理と同じように、東京の味も乗り越えようとしたんです。

自分の体になじんでいない味に向き合うと、ものすごくいろんなことがわかってきます。そこから日本各地の味を改めて考えてみようと思いました。

――東京の味は独特なものなのですね。

稲田 料理文化は京都、大阪を中心に発展してきています。東京は江戸時代に豊かになって文化が花開いたけれども、食べづらいものを痩せ我慢して食べるような、武家社会らしいストイックさがありました。

食の快楽を徹底的に追求するという点では、商業の中心だった関西、特に大阪がリードしてきたんです。武家社会か商人社会かによって、食に対するメンタリティが全然違う気がしますね。

――マクドナルドは関東的、モスバーガーは関西的とも言えるそうですね?

稲田 マックは食べづらいものを食べづらいまま出してくれる。思想として東京的だなと思います。

一方のモスはある意味関西的で、メローでスムーズでマイルド。

誰にでも食べやすい味です。マックが好きな人からしてみたら、「うまいけど、そこまで食べやすくしなくてもいいんじゃないか」「スムーズすぎてつまらない」と感じる人もいると思います。

――日本では「味覚の関西化」が進んでいるとも書かれています。

稲田 全国にいろいろな食文化が芽生えてきましたが、文明の必然として画一化が進んでいきます。それをリードするのは、東京よりも関西の食文化です。

関西の味はマイルドでうまみがあって洗練されているのが特徴。誰が食べてもおいしいから、東京も含めて全国の人が関西の味を好むようになってきました。

――味の好みも変化していたんですね。

稲田 これは昔から食品業界で言われてきたことです。東京周辺に多くある食品メーカーは、かつては関東的な味覚の設計をしていました。合わせ調味料なら、醤油をベースに何かを足していくという作り方です。

しかし、時代とともにそれが通用しなくなり、関西的にだしとか甘みをベースにして、醤油を風味として加えるという逆転の発想で作ったら、一気に全国に広がりました。

私はその話を聞いて、同じことがあらゆるジャンルの食べ物において起こっていると気づいたんです。

――全体的にマイルドで食べやすい味に向かっていると?

稲田 そうですね。フランス料理でも中華料理でも、洗練されるとそうなるんです。しょっぱさは抑えられてまろやかになり、うまみが凝縮し、スムーズでメローになっていくのが定型的な料理文化の進化の道筋です。

ただ、味覚の関西化という軸だけで見ると、失われるものも出てきます。例えば、東北のしょっぱい塩ざけでモリモリご飯を食べるとか、そういう文化がこぼれ落ちてしまうんですね。

――画一化されていく中で消えていくのですね。

稲田 だから、各地の食文化をちゃんと拾い上げるほうがいいと思います。食べやすいものばかりではつまらないですよね。食べづらさもひとつの価値であることを伝えたいなと思っています。

――本書では、東北のローカルスーパーで「しそ巻き」や「卵寒天」を購入されていました。

稲田 ローカルグルメはエンタメの宝庫です。

もし口に合わなくて、この味は理解不能と思っても、そこで止まってしまうともったいない。何度か食べるうちにふと乗り越えられる瞬間があるし、その先に面白い世界が広がっているんですよ。

乗り越えて好きになったものは、最初から好きなものよりも大事になります。

――「まずい」と思っても切り捨てないで、もう一度食べてみるんですね?

稲田 案外、皆さん無意識にやっていることだと思います。だって、30年前の東京の人は博多のとんこつラーメンを「こんな臭いものが食えるか」といって受け入れなかったのに、今では東京のラーメンの定番のひとつになっていますよね。

マクロでそういうことが起こるということは、ミクロでもひとりひとりが知らずのうちに乗り越えているんです。

――後継者不足や人口減少でなくなるローカル店もあります。

稲田 地方の食べ物のことを幅広く知っていれば、その店の貴重さがわかるから、皆さんも自然と優先して行きたくなると思うんです。お店が消失していくのは止められないけど、そのスピードを遅くすることはできると思います。

■稲田俊輔(いなだ・しゅんすけ)
料理人/飲食店プロデューサー/「エリックサウス」総料理長。鹿児島県出身。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。

2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。南インド料理とミールスブームの火つけ役となる。SNSで情報を発信し、レシピ本、エッセー、小説、新書と多岐にわたる執筆活動で知られる。『異国の味』『食の本 ある料理人の読書録』(共に集英社)など著書多数

■『東西の味』
集英社 1870円(税込)
日本各地の食文化に触れてきた著者が、人気メニューを通して東西の味の差を考える。豊富な知識にエピソードを交えつつ、料理人と食べる側の両方の視点から考察が深まり、味の地域性がひもとかれていく。讃岐うどんの天下統一、広島と大阪のお好み焼き、餃子に何をつけて食べるか、唐揚げは和食なのか、あんかけスパゲティの誕生、ラーメン世界の多様性、東西のすき焼きなど、10章にわたるエッセー集

身近な料理から東西の味の違いをひもとき、食文化との向き合い方を指南してくれる一冊!『東西の味』(著:稲田俊輔)
『東西の味』集英社 1870円(税込)

『東西の味』集英社 1870円(税込)

取材・文/仲宇佐ゆり

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