ひろゆき、篠田謙一(国立科学博物館長)に人類の歴史を学ぶ⑩「...の画像はこちら >>

「縄文人は背が低くて、彫りが深く、体毛が濃い。瞳の色は黒よりも茶色に近いんです」と語る篠田謙一氏

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。

分子人類学者で国立科学博物館長の篠田謙一先生をお迎えしての第10回です。

「日本人のルーツ」第2弾は、縄文系と弥生系についての話です。弥生系はどのように広がっていったのか? 縄文系と弥生系はどんな違いがあるのか? お酒が飲めないのは縄文系? 弥生系? そうした疑問を掘り下げていきます。

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ひろゆき(以下、ひろ) 前号から日本人のルーツについてお聞きしています。日本人の祖先の大部分が、約5000年前に朝鮮半島のさらに北、中国の遼河周辺で雑穀農耕を営んでいた人々に由来するという話でした。

篠田謙一(以下、篠田) ええ。彼らは4000年前に朝鮮半島に南下し、3000年前に稲作と共に日本列島へ渡来しました。

ひろ 農耕によって人口爆発した渡来系の人たちに対し、縄文人は移動することで衝突を避けたと。縄文人は狩猟採集をしていたので、土地に縛られず「もめるなら逃げればいい」と考えた。そのため戦わずに場所を譲り、緩やかに吸収されたという流れでしたよね。

篠田 はい。私はそう考えています。

組織的な戦いの痕跡が見られるのは弥生時代以降ですから。そうやって渡来系の人々が増えていった結果、本州を中心とした現代日本人のDNAの8~9割が渡来系で、残り1~2割が縄文人に由来することがわかっています。

ひろ でも、日本列島って長いじゃないですか。地域によって差がないんですか?

篠田 あります。県単位で違いがあることもわかってきました。関西や四国は、大陸から入ってきた渡来系の遺伝子が比較的多い。それに対して東北や鹿児島などは、今でも縄文の遺伝子の割合が多い人が住んでいます。特に北海道のアイヌ民族や沖縄の人たちは縄文系の遺伝子の割合が高いんです。

ひろ あ、うちの父親が北海道出身なんで、そういう意味だと僕の逃げ足が速いのは縄文系のDNAが強めなのかもしれません(笑)。

篠田 研究者としては、認め難い説ですが(笑)。北海道は東北からの移住者が多いので、アイヌ以外の人たちも縄文要素が強いはずです。ただ、縄文系の人たちのために補足しておきますが、縄文系のみんなが逃げていたわけではなくて、戦った人もいたと思います。

あと、研究の結果、興味深いこともわかっています。

ひろ なんですか?

篠田 渡来系の人々がどのように日本列島に広がっていったかが、土器とゲノムの研究から予想されています。水田は造るのが非常に大変なので、おそらく集団で移動していたはずです。そして、渡来系の人たちは関西からどんどん東へ向かっていき、なぜか名古屋付近でいったん止まるんです。

ひろ なんで名古屋で止まっちゃったんですか?

篠田 理由はおそらく「費用対効果」だと思います。水田稲作は重労働です。東に行けば行くほど環境が変わり、西でやっていた方法では、米が育ちにくくなって収穫量も減る。苦労して田んぼを造って管理するより、縄文人のように狩りや漁をする生活のほうが適している。それで東進をやめてしまうことになったのでしょう。

ひろ 「植物が育ちにくいなら、動物を捕まえたほうが効率いい」っていう合理的な判断ですね。

篠田 そうです。そういった地域では、元からいた縄文系の人たちのほうが狩猟採集に長けているので、渡来系の人たちは浸透しきれなかったのでしょう。

ひろ 名古屋を境にした経済圏の差は、弥生時代から変わっていないってことですか。

篠田 変な言い方ですが、当時の関東はなかなか弥生時代にはならなかったと思います。関東地方の弥生時代の人骨のDNAを調べると、縄文的な遺伝子をいっぱい持っている人たちが出てくるんです。ですから、さらに北の東北地方は、ヒトも生活も縄文時代のままだったんじゃないかと思います。

ひろ 見た目の違いはどうなんですか? よく縄文人は「顔が濃くて毛深い」、弥生人は「醤油顔」なんて言われますけど。

篠田 正確に言うと、弥生人は弥生時代に日本列島に住んでいた人たち全体を指すので、その中には大陸から来た人もいれば、もともと日本列島に住んでいて混血していない縄文系の人もいます。ですから、正しくは「渡来系弥生人」と「縄文系」という区別になりますが、両者には確かにはっきりとした身体的特徴の差があります。

ひろ どんな違いが?

篠田 縄文人は背が低くて、彫りが深く、体毛が濃い。最近のゲノム解析では、瞳の色は黒よりも茶色に近いことがわかっています。歯のサイズも小さめです。

ひろ なるほど。今の日本人はそのミックスだけど、地域や個人で縄文人度が違うわけですね。

縄文系の遺伝子が多い人って、今もいるんですか?

篠田 現代人でわかりやすい特徴としては、いわゆる天然パーマは縄文系の遺伝子です。あと、何より「お酒への強さ」が顕著に出ます。実はヒトの場合、デフォルトではお酒を飲めるんです。飲めない、あるいはすぐに赤くなるのは、弥生時代以降に日本に入ってきた突然変異した遺伝子に由来しているんです。

ひろ もともと人間はみんなお酒が飲めたんですか?

篠田 そうです。ヨーロッパ人もアフリカ人もアルコールやその分解物で毒性を持つアセトアルデヒドを分解する酵素を持っています。ところが、ある時期に南中国の集団の中に、アセトアルデヒドの分解酵素が働かなくなる突然変異を持つ人たちが現れました。その人たちが北方に広がり、渡来人と共に日本へ入ってきたのです。

ひろ アセトアルデヒドを分解できないと生存戦略的にデメリットになると思うんですが、なぜそんな遺伝子が生き残ったんですか?

篠田 それについては今、研究者が納得できる説明を考えている最中です。その中のひとつに「マラリア予防説」があります。血中に残るアセトアルデヒドが、マラリア原虫の増殖を抑えていたのではないかという仮説です。私は完全には納得はしていないのですが、お酒に弱くなる代わりに致命的な病気から守られるといったトレードオフがある可能性はあります。

ひろ そういえば最近、遺伝子検査キットで「縄文人度」とか出ますけど、あれってどこまで信じられるんですか?

篠田 その縄文人度に使っているゲノムデータは、われわれ国立科学博物館を中心としたグループが分析したものなので、少なくともデータ的には正しいと考えています。

ひろ あ、先生たちのデータが活用されてるんだ(笑)。

篠田 ええ。渡来人にはなくて、縄文人が持つDNAがあるんです。それをどのくらい持っているかを個人ごとに当てはめて調べています。ただ、現在使っているのは北海道の縄文人のデータなので、今後、全国の縄文人の解析が進めば、もっと精度の高い「地域別縄文人度」がわかるようになるはずです。でも、今でもデータに基づいた結果が出るので、ぜひ、ひろゆきさんにも試してもらいたいですね。自分の逃げ足の速さのルーツが証明されるかもしれませんよ(笑)。

ひろ やってみます(笑)。それにしても日本人のルーツって、思っている以上に複雑で地域差があるんだとあらためて感じました。

篠田 そうなんです。均一だと思われがちですが、実は狭い国土の割には多様性に富んでいる。

そこが日本列島の面白いところだと思います。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など 

■篠田謙一(Kenichi SHINODA) 
1955年生まれ。分子人類学者。国立科学博物館長。主な著書に『人類の起源』(中公新書)、『日本人になった祖先たち』(NHKブックス)など。2026年2月23日まで、東京・上野の国立科学博物館では特別展「大絶滅展」が開催中

構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾

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