米国のC・M・ナスコスタ著『モーニング・グローリー・ミルキング・ファーム』
修士号に学生ローン、そして理想の「自立」――。現代アメリカを象徴する高学歴リベラル層の女性たちが今、怪物との恋に溺れている? 翻訳家・山形浩生氏の分析から、奇妙なブームの裏側に潜む「現代の閉塞感」を暴く!
【奇抜な異形との恋。「モンスターロマンス」という小説のジャンルを耳にしたことはあるだろうか。 ミノタウロスや恐竜といった異形の存在との恋を描く――。
一見、奇抜なファンタジーに見えるこの潮流が、いま米国からSNSを介して日本でも注目を集めている。
特筆すべきは、今回のブームの火つけ役となった作品の主人公が、現代のリベラル層が直面するシビアな現実を体現している点だ。その物語の背後を探ると、現代社会が抱える深刻な閉塞感が、鏡のように映し出されている。
発端は、2025年11月。仏の経済学者トマ・ピケティ著『21世紀の資本』の翻訳でも知られる翻訳家の山形浩生氏が、SNSで一冊の洋書を紹介したことだった。
米国のC・M・ナスコスタ著『モーニング・グローリー・ミルキング・ファーム』(邦訳なし)である。
〈米国の一部でこの本が話題になってて、学生ローンの返済のため、ミノタウロスの「乳(精液)」しぼりバイトをはじめるフェミ女子が、たくましく男らしいミノタウロスと恋に落ち、フェミ思想の崩壊を実感しつつ幸福を得るという、異世界ラノベらしい。大丈夫か〉(*事実関係に基づき、一部を編集部で修正)
この投稿は瞬く間に拡散され話題となった。本作が一部でブームとなっている背景について、山形氏本人に聞いてみた。そもそも、ロマンス小説とは?
「ロマンス小説は、主に女性向けの恋愛作品で、ポルノ的な描写が含まれることもあります。
一方で、生身の男性描写では生々しすぎて嫌だという層も一定数存在し、古くから吸血鬼や狼男と恋をするジャンルが好まれてきました。
かつて世界的なブームを巻き起こした『トワイライト』シリーズはその筆頭です。
しかし、近年注目されているモンスターロマンスが『トワイライト』などと決定的に異なるのは、異形の存在との恋を描くだけではなく、格差や負債といった即物的で切実な社会状況を背景にしている点にあります」
【高学歴女性を襲う学生ローンと貧困】本作の舞台は、モンスターが人間と共生し、ビジネスを営む格差社会。主人公のヴァイオレットは、博物館学の修士号を持つ高学歴女性の人間だが、学位を生かした職は見つからず、多額の学生ローンに追われている。
「彼女は現代の文系リベラル層が直面する貧困の象徴とも言えます。欧米では現在、一般の女性たちが自らの性的な画像や動画を有料会員に直接販売する『OnlyFans』のようなサービスが、困窮した若者の『手っ取り早い稼ぎ口』として浸透しています。
本作の設定も、自らの尊厳を横に置いて身体的な価値を資本に変えざるをえない、現代の切実なアナロジー(類推)としても読み解ける。
現実に疲弊した20代後半から30代の層などが、そこに自分たちの立場を重ね合わせているのかもしれません」
ヴァイオレットの仕事は、ED治療薬の原料となるミノタウロスの精液採取。ミノタウロスのルークは紳士的で経済的にも余裕がある成功者だ。
物語では、怪物の体が「資源」として商品化される一方で、人間もまた負債に縛られ、主体性を失っている姿が浮き彫りになる。
ミノタウロスのルークは裕福で、仕立ての良いスーツを完璧に着こなす紳士だ(写真はイメージ)
「興味深いのは、ふたりが高級レストランへ食事に行くシーンです」と山形氏。
「平等を求め、男性に頼らず自立して生きようとするほど、借金や孤独が彼女を追い詰めていきました。
その限界の隙間に、圧倒的な強者である『異形の他者』の庇護が入り込む構図です。
相手が人間ではなく怪物であるという設定が、自らの信条を曲げずに現実の援助を受け入れるための、心理的な装置として機能している。
そう読み解くと、この物語が、自立に疲弊した読者にとって妙に生々しいリアリティを醸し出すんです」
また、この世界の企業には「純人間専用の雇用枠」があるという設定が登場する。
「これは現実のアメリカにおけるマイノリティ支援策(アファーマティブ・アクション)の皮肉なアナロジーにも見える。こうした細部の描写が、単なるポルノの枠を超え、現代社会のゆがみをリアルに突きつけてくるのです」
【「怪物」ゆえに許される屈服】こうした「知性派が異形に屈服していく」構造は、日本における沼正三の奇書『家畜人ヤプー』をも想起させる。
同作は日本人青年とドイツ人女性のカップルが、遠い未来にタイムスリップし、日本人が体を家具や便器に加工され、白人に支配される世界を描き、戦後知識人のナショナリズムのゆがみを投影しているとされる。
だが、山形氏は本作について「作者にそこまで思想的な重層さや深い意図はないでしょうけど(笑)」と冷静だ。
「相手をモンスターにすることで、読者は『相手が人間ではないから』と自分に言い訳をして、現実のプライドを傷つけずにファンタジーに浸ることができる。
物語の最後で、単なる労働関係が純愛に昇華され、経済的成功を手にする結末は、生活のために誇りを脇に置いて依存を選ばざるをえなかった自分自身の決断を、物語を通じて肯定したいという読者心理を突いている......という深読みもできますね」
モンスターロマンスではオークやゴースト、さらには恐竜などとの官能的な恋愛が描かれる(写真はイメージ)
実際、同シリーズでは、コロナ禍で失業した狼男が登場するなど、時事的な閉塞感が色濃く反映されている。
こうした作品群が一部で支持される背景には、人間同士の対等な関係性に疲れ、そこから一時的に逃れたいという切実な欲求が透けて見える。
ミノタウロスとの恋という奇抜な設定の裏側には、私たちが目をそらしがちな、現代社会のむき出しの生存戦略が隠されているのかも?
■『Morning Glory Milking Farm: a Monster Bait Romance』
(著者)C.M. Nascosta (出版社)Meduas Editoriale
《あらすじ》博物館学の修士号を持ちながら多額の負債を抱えるヴァイオレット。彼女が再起をかけて選んだのは、ミノタウロスの「人工授精センター」での"特殊な実務"だった。高賃金と引き換えに怪物たちと触れ合う日々。だが、ある厳格な雄牛から指名を受け続けるうち、彼女の心はいつしか仕事の域を超えて揺らぎ始める......
取材・文/室越龍之介 写真提供/PIXTA
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