「ひとりひとりが『自分は◯◯だから、この服が好き』という基準で服を選べるようになると、日本のファッション文化はもっと豊かになるし、日本という国も面白い場所になる」と語る石川俊介氏
人気ブランドのデザイナーであり、自身のYouTubeチャンネルでも理論的なファッション解説が支持を集める石川俊介氏。
そんな彼が初の著書、『なぜこの服は時代を超える定番なのか 一生モノの服の見極め方』を上梓した。
しかし、今やネットやSNSなどでファッションにまつわる情報はあふれている。
そうした中、有名デザイナーでもある著者が、なぜ〝定番〟というテーマにあらためて向き合うことにしたのだろうか。
* * *
――本書で語られている「洋服の定番」の定義とは?
石川 僕にとっての〝定番〟とは、いつの時代も不変なものではなく、時代に合わせて更新されるべきものと考えています。
例えば、僕らが子供の頃の大人の旅行着といえば、ツイードのジャケットに革かばんが定番でした。でも、今の旅行着は機能ウエアやスニーカーが主流で、ジャケットは仕事着という感覚になってますよね。ただ、それが悪いわけではありません。
人々のライフスタイルが変われば、求められるファッションもおのずと変わります。そうした時代の変化の中で「新しい定番」を自分なりにどう見つけていくのか。〝定番〟とは〝正解〟ではありません。洋服を選ぶときの自分なりの基準です。
それを見つけることはファッションの楽しみのひとつであり、それぞれの多様な〝定番〟があることで、豊かなファッション文化がつくられるのだと思っています。
――なるほど。これはオーセンティック(正統)ではなく、あくまでスタンダード(標準)について語った本なのですね。
石川 そうです。オーセンティックだと〝正解〟の印象が強すぎるので、ここでの〝定番〟はあくまでスタンダードという意味で使っています。
――なぜ、その〝定番〟についてあらためて語ろうと?
石川 ここ10年ほどのファッション業界を見ていて、強い危機感を抱いたことが理由です。本来、非常に豊かだったはずの洋服の文化的側面が急速に失われ、ファッションが「意味」と「実体」に乖離してしまった感覚がある。具体的に言えば相当な勢いで〝二極化〟が進んだ。
――二極化、ですか。
石川 はい。ひとつは「高い服」です。こちらは服の価値をブランドの「ロゴマーク」に頼るようになりました。
服が本来持っている素材や縫製の価値とは別に、ロゴという記号に頼ることで価格をつり上げ、一種の投資対象になってしまった。
もうひとつは「安い服」です。こちらは素材や縫製の価値を極限までそぎ落とし、流行のデザインをいち早く取り入れることで売っていく。「あのデザインがこんな低価格で手に入る」というスタイルですね。
どちらもロゴやデザインという「意味」によってアピールしていて、服本来の価値という「実体」への注目が失われた。その結果、そこで勝負していた中間のゾーン、つまり洋服好きの人々が楽しんでいた「まっとうな服」が評価されにくくなってしまった。それがこの10年の正体だという気がしています。
――確かに今どきのファッションは「ハイブランドかファストファッションか」という極端な2択になりがちです。
石川 この現状が続くと、これだけ服があふれているのに、本当に洋服好きな人の欲しいものがなくなってしまう。ある種のディストピアです。だからこそ、その失われゆく中間地点を取り戻すためのキーワードとして、今の時代の〝定番〟を再定義しようと考えました。
――石川さんはYouTubeでも自ら発信されていますが、それも現状への危機感から?
石川 そのとおりです。
しかし、紙の雑誌の勢いが落ち、ファッション情報の主戦場がSNSや動画に移ったことで、「いかにバズるか」が中心になってしまった。服の背景にある文脈や服に対する批評性が置き去りにされたままになってしまいました。
――服の素材や縫製について語るよりも「これを知らないと流行遅れ」みたいな発信のほうがウケますからね。
石川 僕らもYouTubeで数字を伸ばすにはハイブランドやファストファッションの新作レビューをやるのが正解なんです。でも、ファッションにまつわる情報がそればかりでは、文化は痩せ細る。
だから、洋服の「意味」ではなく「実体」について語る内容にした。良い素材の見分け方や洋服のメンテナンスの仕方といったものです。
当初はニッチすぎて誰も見ないかもしれないという恐怖もありましたが、ふたを開けてみると予想以上に好評で、やはりこういう情報を求めている人がいるのだなと勇気づけられました。
――本書も冒頭が「素材」の話から始まり、最後が「手入れ」の話で終わる構成ですね。
石川 それが最もこだわった部分です。
まず素材の知識を身につければ、ブランド名や値段に惑わされずに「モノとしての価値」を見極める第一歩になります。手入れの仕方を知ることも素材の知識につながります。
特に大人は「なぜこの服を選ぶのか」という、いわば〝審美眼〟を持つことが重要です。それは服に限った話ではなく、食事でも映画でも。自分なりの審美眼を持って選んでいる人はカッコいいじゃないですか。
その意味で本書は「これを買ってください」というカタログではなく、読んだ方が「どういう視点で服を見ればいいのか」という〝眼〟を養ってもらうための教科書にしたつもりです。
みんなが同じファストファッションを着るのではなく、あるいは無理して同じ高級時計を買うのでもなく、ひとりひとりが「自分は◯◯だから、この服が好き」という基準で服を選べるようになると、日本のファッション文化はもっと豊かになるし、日本という国も面白い場所になる。この本がそのきっかけになればうれしいですね。
●石川俊介(いしかわ・しゅんすけ)
ファッションデザイナー。経営コンサルティング会社を経て、2002年に「marka」をスタート、2009年、「MARKAWARE」を設立。
■『なぜこの服は時代を超える定番なのか 一生モノの服の見極め方』
KADOKAWA 1980円(税込)
「これでいい」ではなく、「これがいい」服を選びたい。カジュアルからモードまで、圧倒的に服を着倒してきたデザイナーが時代を超えて愛される68の「定番」を厳選。なぜこの価格なのか、なぜこの素材なのか、なぜ今もこの形なのか。名品の裏側にある技術や哲学を解き明かし、「価格」ではなく「価値」で選ぶための視点を教えてくれる。流行に流されず、長く着られる一着を楽しむための、自分にとっての「一生モノ」が見つかる一冊
取材・文/小山田裕哉 撮影/宮下祐介
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