新型コロナの「震源地」を求めて~バンコク、プノンペン(中編)...の画像はこちら >>

多数のコウモリの生息地としても有名な、プノンペンの観光名所「ワット・プノン」の内部。

連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第164話

「東南アジアの市場では、魚でもニワトリでも何でも売っている」。

ジャーナリストをきどって、カンボジアの市場に潜入してみることにした......。

* * *

【続・初めてのプノンペン】

初めてのプノンペン。ある種のルーティン、あるいは慣習ができつつあるバンコクとは違って、見るものすべてが新鮮である。

そもそもにして、同じASEAN諸国の中でも、タイやマレーシア、ベトナムやシンガポールに比べて、カンボジアを対象としたガイドブックの類が圧倒的に少ない。事前情報がほとんどない状態での訪問となった。

「プノンペンに丸亀製麺がある(前編)」という情報を仕入れたYouTubeチャンネルだって視聴回数が4桁に満たないようなものだったし、ネットで調べて出てくるカンボジアの情報といえば、アンコールワットや、ポルポト政権による大虐殺の歴史がほとんど。アンコールワットはシェムリアップという別の都市にあるし、そもそも私は観光にはあまり興味が湧かない。

2025年1月、カンボジアを訪れるにあたって私が不思議に思っていたのは、「感染症にまつわる大きなイベントを聞いたことがない」ということだった。タイとベトナムには、H5N1鳥インフルエンザやSARS(急性呼吸器症候群)という感染症にまつわる逸話がある。

しかしカンボジアで、それらに匹敵するようなインパクトのある話を聞いたことがなかった。それは単に、私が知らないだけなのか? それとも、そういった情報がなにかしらの理由で外部に出てこないからなのか? あるいは、そのようなイベント自体が起きていないのか?

(私にとって)未知の国、カンボジア。そこで思い立ったのは、大きな"市場"に足を運んでみることだった。

筆者注:私が訪問した2025年1月当時は、たしかに上記の通りだった。しかしその後、懸念されていたH5N1鳥インフルエンザがカンボジアで頻発する。私が訪問してからこのコラムが公開されるまでのおよそ1年間、2026年2月までの間に、17名のH5N1鳥インフルエンザウイルス感染者と、少なくとも8名の死者が出た、という報道がある。

【"市場"へ】

H5N1鳥インフルエンザウイルスは、感染したニワトリから、養鶏場や市場で濃厚接触した人間に伝染する。つまり、もし市場で売られているニワトリがH5N1鳥インフルエンザウイルスに感染していた場合、ウイルスが市場に持ち込まれ、そこで蔓延してしまうリスクがある。

「東南アジアの市場では、魚でもニワトリでも何でも売っている」と聞いたことがある。それならば、とジャーナリストをきどって、その現場に潜入してみようと思ったのである。

まず足を運んだのは「セントラルマーケット」。「なんでも手に入る」というカンボジア最大の市場では、衣類や生活雑貨、香辛料や野菜に加えて、生鮮食品を扱う一角を見つけた。そこではいろいろな食肉も扱っていたし、たくさんの水産物も売られていた。

さらに目を凝らして練り歩いてみると、魚や貝などの魚介類の横で、生きたニワトリが小さなケージに敷き詰められていた。

新型コロナの「震源地」を求めて~バンコク、プノンペン(中編) 【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
小さなケージにぎっちりと敷き詰められたニワトリ。もしこの中の1匹でも、H5N1鳥インフルエンザウイルスに感染していたら、と思うと......。

小さなケージにぎっちりと敷き詰められたニワトリ。
もしこの中の1匹でも、H5N1鳥インフルエンザウイルスに感染していたら、と思うと......。

ニワトリは、H5N1鳥インフルエンザウイルスに感染すると激烈な症状を示すらしい。そのため、そんな状態のニワトリが市場に紛れ込むことはまずないのだろう。しかし、このあまりに過密な売られ方を目の当たりにしたのは初めてだったので、さすがにいささか辟易したのは否めない。

ちなみにいくら練り歩いても、新型コロナの「起源」に関係しそうな、コウモリやタヌキ、ハクビシンのような生きたほ乳類は扱われていないようだった。

次に足を運んだのは、そこから歩いて20分ほどのところにある「オルセーマーケット」。こちらはなぜか閉まっていて、中を覗くことはできなかった。

しかし、その周囲の喧騒と混沌は、エチオピア・アディスアベバのメルカト市場(118話)のそれを彷彿とさせるものだった。市場と喧騒、混沌と活気というのは、どんな国でもごた混ぜになるものなのかもしれない。

新型コロナの「震源地」を求めて~バンコク、プノンペン(中編) 【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
(上)セントラルマーケットの建屋内はこんな感じ。「アール・デコ様式」とかいう建物であるらしい。(下)オルセーマーケットの入り口周辺。なかなかなカオス。

(上)セントラルマーケットの建屋内はこんな感じ。「アール・デコ様式」とかいう建物であるらしい。(下)オルセーマーケットの入り口周辺。
なかなかなカオス。

半日市街地を練り歩いて気づいたことだが、プノンペンの人たちは総じて明るく、人懐っこい。

乗ったタクシーやトゥクトゥクのすべての運転手が気さくだったし(そして、東南アジアの他の国のドライバーに比べて英語が上手)、路上でガンガンに音楽を鳴らしながら酒盛りをする、「プノンペンのパーティーピーポー」とも呼ぶべき若者集団もちらほらと見かけた。

そして彼らにカメラ(スマホ)を向けると、必ずニコッと笑い、ポーズを取ってくれるのである。

新型コロナの「震源地」を求めて~バンコク、プノンペン(中編) 【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
プノンペンのパーティーピーポーたち。若者だけではなく、年配の人も音楽をガンガンにかけ、踊りながら酒盛りをしていた。

プノンペンのパーティーピーポーたち。若者だけではなく、年配の人も音楽をガンガンにかけ、踊りながら酒盛りをしていた。

文・写真/佐藤 佳

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