ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。
それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。
そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。
* * *
ロバート・ハリスさんがDJを務めるInterFMのラジオ番組「otona no radio Alexandria」からゲスト出演のオファーをいただき、朝から麹町へ向かう。
収録場所はエフエム東京スタジオで、余裕を持って家を出たら現地付近に1時間以上も早く到着してしまった。適当なカフェでも見つけて、朝食をとりつつ時間でもつぶすか。そう考えて街を歩きだすと、なんとも魅力的なのぼりと看板を発見。僕の大好きな立ち食いそば屋が付近にあるらしく、さらには「立ち飲み」「呑み処」の文字まで。こんなオフィス街で出会えるとは思ってもいなかった、あまりにも僕好みの店。実態を調査しないわけにはいかない。
どうやらオフィスビルの地下1階にあるらしく、こんな場所に本当に? と思いながらも進んでいくと、本当にあった。静かな地下通路に突如として現れる、その嘘みたいな佇まいが、完全に僕の大好物だ。店名は「築武士(つきぶし)」というらしい。
「築武士」
さっそく入り口近くの券売機を確認すると、かけそば/うどんが税込450円で、各種天ぷらなどのサイドメニューもリーズナブルな、正しき立ち食い価格。
券売機メニュー
初めておじゃまするラジオ番組の出番前だが、1杯くらいは景気づけの範囲内だろう。「ホッピー」(600円)と、大好物の「春菊天そば」(600円)をお願いしよう。その他に軽いつまみ的なものはないのかなと、念のため店主さんに聞いてみると、それらが出るのは夕方以降とのこと。当然か。ただ、メニューにどんぶりがあるので、「鮪ブツ」「鮪漬け」「ネギトロ」「トロタク」の単品は頼めるようだ。各500円。ぶつをお願いする。
「ホッピー」
店内はカウンターが1枚のシンプルな作りで、一歩入ってしまうと外とは別世界だ。店内に充満するだしの香りに腹がぐーと鳴る。さっそく届いたホッピーセットを、空きっ腹だがぐいっと胃に流し込むと、なんとも愉快な気分。
立ち食いらしいスピーディーさで、そばとまぐろも到着。丼に顔を近づけると、やはりだしの香りがとてもいい。そのままずずずと、透明度の高いつゆをすする。昆布と節系が雅に香り、しかし甘ったるくはない上品な味わい。太めのそばによく絡み、かなりオリジナリティが高いそばな気がする。
夢のような光景
麺にもつゆにもこだわりを感じる
春菊は僕の好きな、茎から葉がわさわさしげる巨大なタイプ。衣が軽やかなのでどんどんつゆがしゅんでいくが、そのざくりじゅわりとした食感と、ほろ苦い味わいがたまらない。
刻一刻と味わいの変化するそばにしばらく夢中になっていたが、そうだ、まぐろも食べてみよう。このまぐろがまた、なんだか妙にうまそうなのだ。加えて、500円という値段からすると盛りも良すぎる。
「鮪ブツ」
わさびをちょんとのせて1枚を持ち上げ、醤油をつけてぱくり。え!? どういうことだ......口に入れた瞬間にとろりととろけ、新鮮なまぐろ特有の良い香りが口に広がって、ちょっと面食らうほどにうますぎる! まさかふらりと入った立ち食いそば屋で、こんなにも上等なまぐろに出会えるなんて!
当然ホッピーがすすみ、「ナカ」ことおかわり焼酎を追加したいが、券売機にはボタンがない。
本気のナカ
さっき「1杯くらいは景気づけの範囲内」などと言ったような気もするが、ホッピーセットならばナカの追加は不可抗力だし、ここまでを今朝の景気づけの範囲内としよう。極上のまぐろと残ったそばをつまみに、最高の気分で2杯目もしっかり堪能。
店内の壁にこの店の記事掲載された雑誌の切り抜きがあり、それによればここの運営母体は「築地魚河岸氷販」という、築地にある氷屋さんなのだとか。そのルートから、魚介類は豊洲から直送されているそうで、この値段と味にも納得だ。
また麺類にもこだわりがあり、つゆは店主が「京都鰹節株式会社」に特注している関西風のものなのだとか。そうか、確かにあの絶品のつゆは、真っ黒で塩気強めのスタイルが多い関東風とは違った味わいだった。ならば次回は、ぜひうどんでも味わってみたいところ。
1日の始まりに思いがけない良い出会いがあり、その後のラジオ収録も、とても楽しく終えることができた。次回は夕方以降の飲みタイムに訪れ、シメはうどんでいこう。そのコースをたどる日が今から楽しみだ。
取材・文・撮影/パリッコ
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