火葬の知られざる歴史について話す著者の伊藤博敏氏
人類最初の文化ともいわれる死者の弔い。その形は国や地域によって異なり、時代とともに変化してきた。
私たち日本人が死や弔いに向き合ってきた歴史を振り返り、人との縁が希薄になりつつある現代の「葬送文化」に光を当てるのが、伊藤博敏氏の新刊『火葬秘史』だ。
* * *
――「亡くなった人の火葬場が確保できない」「火葬の際の料金に大きな地域差がある」など、最近「火葬」の話題を目にする機会が増えています。
伊藤 そうですね。特に火葬料金の格差については、東京が突出して高いということで大きな注目を集めました。
その理由は東京23区内にある9ヵ所の火葬場のうち、実に6ヵ所が「東京博善」という会社が運営する民営の火葬場だという特殊な事情があるからです。
しかも事実上の独占状態にある同社が2019年に中国系の資本に買収され、その後、火葬料金がどんどんと上がりました。それで「火葬料金」の問題を新聞や雑誌などのメディアが報じるようになり、この話題が都議会などでも取り上げられるようになったんです。
――確かに東京23区内の火葬料金が約9万円で、横浜市が1万2000円というのは驚きです。
伊藤 公営の火葬場は税金を使っているのに対して、民営の場合は税金による補填がないため、当然、事業としての採算性を考える必要がある。
同じ東京都でも23区外にある8つの公営火葬場はそれぞれの自治体ごとの条件を満たす住人なら無料ですし、23区内の2ヵ所の公営火葬場も、各施設の利用対象者は4万4000~5万9600円と、民営より少し割安になっています。
――そもそも、東京23区内の火葬場の多くが民営なのはなぜ?
伊藤 その理由は、東京博善が戦前から都内で多くの火葬場を運営してきたからです。
一方、東京博善が運営してきた6つの斎場はすべて最寄り駅から徒歩圏内というアクセスの良い立地にあり、利便性が高いため事実上の独占状態が続いてきたのです。
今思えば、戦後間もない1948年に現在の墓地埋葬法が施行された際に、東京都が買い取って公営にすべきだったのかもしれません。しかし当時の東京博善は宗教法人による僧侶経営でしたから、東京都も「ならばそのまま民営で......」ということになったのだと思います。
――その東京博善の経営権を巡り、外資系の投資ファンドが争奪戦を繰り広げたというのは劇的な変化ですね。
伊藤 買収劇の背景には、火葬に対する日本社会の認識の大きな変化があると思います。
かつての日本には神道的な「ケガレ(穢れ)」の概念から「遺体」をタブー視する文化が存在し、火葬など人の死や葬送に関する仕事が「隠亡(おんぼう)」などと呼ばれて、不当な差別の対象となる時代が長く続きました。
もちろん、今も差別が完全に解消されたわけではありません。ただ、今世紀に入ってこうした差別環境が大きく改善し、火葬も含めた人の〝死〟に関わる仕事が社会に欠かせない「エッセンシャルワーク」として認識されるようになってきた。
中でも本木雅弘さんが納棺師の役を演じた映画『おくりびと』は、こうした認識の変化に大きな影響を与えたといわれています。
一方で、火葬が差別や偏見から解放され、社会にとって不可欠な仕事と認識されたことは、それがひとつのビジネスとして、資本主義の原理の中に投げ込まれることも意味します。
東京博善の親会社である廣済堂(現広済堂ホールディングス)の株式を巡り、19年に米投資ファンドのベインキャピタルがTOB(株式公開買い付け)を仕掛け、村上世彰氏のファンドや、麻生グループも交えた激しい争奪戦を展開。
最終的に家電量販店のラオックス買収でも知られる中国籍の実業家・羅怡文が東京博善の経営権を獲得したことも、そうした流れの中で起きたことだと言えるでしょう。
――一方で火葬が〝普通のビジネス〟として扱われることに、やや抵抗も感じるのですが。
伊藤 中国資本による買収後、東京博善の火葬料金が値上がりしたことから批判的な報道も多いです。ですが羅怡文が取り組んでいるのは、これまで狭い世界の中で予定調和的に〝ブラックボックス化〟されていた葬儀や火葬のシステムと料金体系を、普通の仕事として〝見える化〟することだと言えます。
その結果、火葬や葬儀に関してセット料金だけでなく個別料金も公開され、利用者がそれぞれのニーズに応じてサービスを選べるようになったことは、むしろポジティブな変化ではないかと考えています。
その上で、火葬料金の値上がりや地域格差の問題に関しては、自治体や国という〝公〟も加わった形で考えることが必要で、東京都などでも今後そうした議論が進んでいくと思います。
――もうひとつ、本書で印象的だったのは、震災や近年のコロナ禍など、この国が大きな厄災に遭遇したときに弔いの形が大きく変わっていることでした。
伊藤 例えば1923年の関東大震災は、日本で火葬が一般化する大きな契機となりました。カロートと呼ばれるコンクリートの納骨室の上にお墓を立てるという、現在のお墓の形が定着したのはこの震災以降のことです。
また、11年の東日本大震災とそれに伴う津波では多くの方が亡くなり、一時的に土葬にせざるをえないケースもあったのですが、一度埋めたご遺体を掘り出して火葬するという大変な作業を希望されたご遺族が多かった。これも日本人の火葬に対する〝執着〟を象徴するような出来事だと思います。
そしてコロナ禍以降、小規模な家族葬など葬儀の「薄葬化」が進み、かつてのような通夜、告別式の形を取らずに1日で済ませる葬儀が広がり、直接火葬して埋葬する(直葬)だけで葬儀をしない人も増えている。
ただ、私は遺体とは処理するものではなく弔うもので、葬儀によって故人の生きてきた証しを後世に残す意味があると思います。
社会の「無縁化」が進む中、葬儀や法事は故人をきっかけに人が集まる貴重な機会でもあります。弔いという行為が持つそうした意味を改めて考えてほしいというのも、私が本書を書いた大きな理由のひとつです。
■伊藤博敏(いとう・ひろとし)
1955年生まれ、福岡県出身。東洋大学文学部哲学科卒業。ジャーナリスト。編集プロダクション勤務を経て、84年からフリーに。経済事件をはじめとしたノンフィクション分野における圧倒的な取材力に定評がある。『黒幕 巨大企業とマスコミがすがった「裏社会の案内人」』(小学館)、『鳩山一族 誰も書かなかったその内幕』(彩図社)、『同和のドン 上田藤兵衞 「人権」と「暴力」の戦後史』(講談社)など著書多数
■『火葬秘史 骨になるまで』
小学館 1980円(税込)
神話の時代から現代に至るまで、日本人の葬送文化がどのように変化してきたかを調べ、火葬の知られざる歴史をひもといた一冊。神道に基づく「ケガレ」の概念から忌避されていた火葬という仕事を商売に転化して東京博善を創立した明治時代の政商・木村荘平に始まり、現代の中国人実業家・羅怡文によって同社が「経済合理性」の名のもと近代化されていき、火葬がビジネス化していく様までがスリリングに描き出されている
『火葬秘史 骨になるまで』小学館 1980円(税込)
取材・文/川喜田研 写真/佐々木里菜
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