ひろゆき、篠田謙一(国立科学博物館長)に人類の歴史を学ぶ⑫「...の画像はこちら >>

「各地の古墳の被葬者のDNAを比較すれば、推定できる可能性があります」と語る篠田謙一氏

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。分子人類学者で国立科学博物館長の篠田謙一先生をお迎えしての第12回です。

日本人のルーツを探った後は、ちょっと趣向を変えて「邪馬台国と卑弥呼」問題。「邪馬台国がどこにあったのか」、「卑弥呼の墓はどれなのか」がわかるかも!?

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ひろゆき(以下、ひろ) 今回は邪馬台国について聞きたいんです。ぶっちゃけ、邪馬台国ってどこにあったんですか?

篠田謙一(以下、篠田) これは日本古代史最大のミステリーのひとつですよね。所在地については大きく「畿内説」と「九州説」に分かれていて、今なお論争が続いています。

ひろ 奈良県周辺とする説と、福岡県など北部九州とする説。

篠田 そうです。私の専門である分子人類学、つまりDNAから直接「ここだ」と示せるかというと、現時点ではそこまでの決定打はありません。ただ、DNAには別の強みがあって、古墳に葬られた人の血縁関係や出自を明らかにできるんです。各地の有力者がどういう婚姻のネットワークでつながっていたかが見えてくれば、当時の権力構造を推定する大きな手がかりになる。その意味では、邪馬台国問題にも間接的に切り込める可能性はあります。

ひろ 場所じゃなくて、権力の広がり方をDNAで読み解くわけですね。今は畿内説のほうが有力なんでしたっけ?

篠田 ここ十数年で畿内説が優勢になっています。

というのも、弥生時代後期になると日本列島の各地にあった地域勢力が次第に統合されていく動きが見えてくるんです。その中心が近畿地方、特に大和盆地周辺だったのではないかという見方が強まっているからです。加えて、弥生時代の早い段階で列島に入ってきた人々が、短期間のうちに東海地方、愛知辺りまで広がっていますから、その中間に政治的な中枢があっただろうと。

ひろ 逆に、九州ではないという根拠は?

篠田 ポイントになるのは「古墳」です。特に前方後円墳ですね。

ひろ 教科書にも出てきた鍵穴みたいな形の古墳ですね。

篠田 考古学的には、初めて前方後円墳が造られた時期をもって「古墳時代の始まり」とするのが定説です。それは統一的な権力、つまり「クニ」と呼べるものが成立した証拠だと考えられているからです。近年、放射性炭素年代測定などの分析技術が進歩して古墳の造築年代が正確にわかるようになり、その起源がかなり古い時期であることが明らかになりました。畿内の古墳の年代が、卑弥呼が中国の魏に使者を送ったとされる時期の直後に当たる3世紀後半までさかのぼるんです。

ひろ へえー!

篠田 代表的なのが奈良県桜井市にある「箸墓古墳」です。全長約280mともいわれる巨大な前方後円墳で、年代が卑弥呼の没年とほぼ一致するのです。

ひろ それが卑弥呼の墓である可能性もあると。

篠田 現時点で断定はできません。ただ、「時代が合う」「規模が突出している」「後の大王墓につながる形式を持つ」といった点から、邪馬台国の畿内説を支持する材料になっています。一方、九州にも弥生時代の有力な遺跡はありますが、前方後円墳の出現という意味では、大和のほうが早い。そうした時間軸の問題が、畿内説を後押ししているわけです。

ひろ でも、古墳自体はもっと昔からあったわけですよね。

篠田 弥生時代にも大きな墳丘墓はあります。ただ、前方後円墳という統一された形式が広域にわたって共有されるようになる点が重要なんです。これは単なる大きな墓ではなく、共通の政治理念や権威の象徴と考えられる。そこに国家形成の萌芽を見るわけです。

ひろ 邪馬台国や卑弥呼の存在は、『魏志倭人伝』以外に裏づけられるものはあるんですか?

篠田 直接的に示す文献はほとんどありません。3世紀の中国の史書『三国志』の中の『魏志倭人伝』が最大の手がかりです。

そこには卑弥呼が朝貢し、親魏倭王の称号と金印、銅鏡を授けられたことが記されています。

ひろ 日本にも中国みたいに文献が残っていたら大きな手がかりになるんでしょうけどね。

篠田 そうですね。しかし、中国でも4世紀以降になると日本に関する記録が急に少なくなるんです。

ひろ 今後、先生が専門としているDNAがわかれば、〝邪馬台国がどこにあったのか問題〟は解決できるかもしれないですね。

篠田 先ほどお話ししたとおり、「邪馬台国は何県にありました」とDNAから直接答えるのは難しいんです。ただ、各地の古墳の被葬者のDNAを比較して、例えば大和の権力者と九州の有力者が血縁関係にあったのか、それとも別系統だったのかがわかれば、統一権力がどこを中心にどう広がったのかを文献に頼らず推定できる可能性があります。骨さえ出てくれば、分析は可能ですから。

ひろ 前方後円墳を発掘して中の遺体のDNAを調べれば意外なことがわかるかもしれませんよね。

篠田 古墳に埋葬された人骨のDNAを分析できれば、血縁関係や出自の推定が可能になります。実際、いくつかの古墳で解析が行なわれていて、けっこう面白いこともわかっているんです。例えば熟年の男女が同じ石棺に一緒に埋葬されていた例があります。

これを聞いてひろゆきさんは、このふたりはどんな関係だと思いますか?

ひろ 普通に考えたら熟年夫婦ですよね。長年連れ添ったふたりが同じ墓に埋葬されている。

篠田 そう考えるのが一般的ですよね。事実、最初は「夫婦だろう」と考えられていたのですが、DNAを調べると実は親子だった。お父さんと娘だったんです。

ひろ へー、見た目や状況だけではわからないわけですね。

篠田 埋葬の順番も分析すると、父親が先に葬られ、後から娘が追葬されたとわかる。埋葬人骨のDNAを詳しく調べてみると、従来の推測が覆る例は少なくありません。こうした分析を各地の古墳で積み重ねていけば、当時の社会の全体像が少しずつ浮かび上がってくるかもしれない。

ひろ じゃあ、関西のほうにある巨大な前方後円墳から女性のDNAが出てきたら、それが卑弥呼という可能性はあるんですか?

篠田 理屈の上ではゼロではありません。ただ、「卑弥呼だ」と断定するには決定的な証拠が必要です。例えば、魏から授かった金印が一緒に出てくるとか。

DNAだけで個人名までは特定できませんから。

ひろ ということは、すでに分析済みの中に、ひょっとしたら卑弥呼が含まれている可能性もある?

篠田 それは否定できないと思います。ただ、箸墓古墳のような大型古墳はまだ本格的には発掘されていません。だから「わからない」というのが正直なところです。

ひろ 邪馬台国の場所も、卑弥呼の実像も、まだ確定していない。でも、古墳やDNAの研究が進めば、見えてくる可能性はある。

篠田 はい。「この時代、誰と誰が血縁でつながっていて、どこに権力の中心があったか」という問いには、将来的にはDNAは正確なデータを生み出すでしょう。文献と考古学だけでは埋められなかった空白をDNAが補完していく時代がもう始まっています。

ひろ 邪馬台国論争も感覚やロマンだけでなく、データで語る時代に入りつつあるんですね。

篠田 そのとおりです。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。

近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など 

■篠田謙一(Kenichi SHINODA) 
1955年生まれ。分子人類学者。国立科学博物館長。主な著書に『人類の起源』(中公新書)、『日本人になった祖先たち』(NHKブックス)など。2026年2月23日まで、東京・上野の国立科学博物館では特別展「大絶滅展」が開催中

構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾

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