まるで「ワニ」の口!? 都心マンションの売り出し価格と取引価...の画像はこちら >>

持病の再発を理由に退任する直前の安倍晋三元首相。長期政権の最後の仕事として推し進めた政策のひとつが、コロナ禍での200兆円規模の経済対策だった

今、東京の不動産業界では疑心暗鬼が渦巻いている。
「いつ、マンションの暴落が始まるのか」と、誰もが固唾を飲んで見守っているのである。

東京でマンションの価格が上がり始めたのは、今から13年も前。第二次安倍内閣が「アベノミクス」を打ち上げたころである。

2013年の3月に、日本銀行の総裁は温厚な印象の白川方明氏からイケイケ感を帯びた黒川東彦氏に変わった。その黒川氏が就任早々「物価を2%上げる」とぶち上げた。当時は平成バブル崩壊から始まった「失われた30年」の真っ最中。物価が下がり続けるデフレの時代だった。

彼が打ち出したのが「異次元金融緩和」だった。金利はほぼゼロ%かマイナスで、銀行融資は審査がユルユル。当時は今よりも手厚かった「住宅ローン減税」も加わって、リーマンショックで停滞気味だった東京のマンション価格が力強く上昇し始めた。

【「消えた200兆円」の行き先】

上がり続けたマンション価格も、東京五輪が開催される予定だった2020年あたりをピークに沈静化すると見られていた。ところが、その2020年初頭からにわかに勃発したのが新型コロナのパンデミック。

慌てた世界各国は、それこそ「異次元」な景気対策を打ち出した。

日本では安倍元首相が退任後に盛んに吹聴していた「真水100兆円に加え事業規模100兆円」の緊急景気対策を2020年とその翌年に執行。合わせて200兆円の資金を日本経済に注入したとされる。

当時のGDPは540兆円規模だから、1年に100兆円も流動性が投入されれば経済成長率は10%近くに達するはずだった。ところが、実際には2020年がマイナス4.8%で翌21年がプラス3.6%程度。安倍元首相がおっしゃった「200兆円」はどこに消えたのか。

まるで「ワニ」の口!? 都心マンションの売り出し価格と取引価格の乖離が示すものとは?
売り出し時には平均15倍以上、物件によっては100倍以上という高倍率も話題となった晴海フラッグだが、現在の中古市場では買い手が付かない在庫が累積している

売り出し時には平均15倍以上、物件によっては100倍以上という高倍率も話題となった晴海フラッグだが、現在の中古市場では買い手が付かない在庫が累積している

GDPは新たに生み出された付加価値の総計である。土地や中古マンション、既存ビルの売買、あるいは預貯金の増額はGDPにカウントされない。つまり、幻の「200兆円」の大半は不動産の取引と預貯金に消えたのであろう。あるいは、多くの人の生活費の補填に回った。すなわち、GDPの増額に寄与しなかった。

その結果、2022年ころからまたぞろマンションの価格が力強く上がり始めた。

今度は東京の都心だけでなく、全国の主要都市でも顕著な値上がり傾向がみられるようになった。流動性が全国にバラまかれたから、当然の変化である。

さらに、異様な低金利が続く日本に2000年代に見られたような海外のファンドマネー流入も始まった。加えて、中国の不動産バブルの崩壊や政情不安から、逃避的な「潤日」マネーによる東京都心や湾岸タワマンの購入も目立ち始めたのが2024年。あれやこれやのマネー流入で、2023年から24年にかけてのマンション価格の値上がりはちょっと異様だ。

【不動産バブルの行き詰まりを示す「ワニの口」とは】

それを象徴するマンションが東京都港区で分譲された三田ガーデンヒルズと、東京五輪選手村跡地にできた同中央区の晴海フラッグではないか。現在、東京の不動産業者の間ではこの2物件の価格動向が最も注目されている。

三田ガーデンヒルズはすでに下落傾向が顕著。新築分譲時の平均坪単価は1200万円と言われるが、分譲引き渡し後の流通市場での取引価格は最盛期で坪単価4000万円前後の事例も見られた。今はほぼ2000万円を切っている。今後は新築分譲時の1200万円を割るかどうかが焦点だ。

晴海フラッグは新築分譲時の倍率が数百倍になったことでも話題となった。

一時期、中古での売り出し価格の坪単価は1000万円を超える物件も珍しくなかった。新築分譲時の3倍前後、という急騰。今でも、そういう価格で表示されている売り出し物件もある。ただ、成約はほぼ絶望的なのが現況だ。

特に晴海フラッグは、昨年末あたりから成約に勢いが失せた。売れなくなったのだ。逆に、在庫は積みあがる一方である。現状は売り出し物件がかなりダブついている様子だ。

こうした傾向は、都心の中古マンション市場全体を見てもはっきりしている。売り出し価格は上がり続ける一方で、取引価格は頭打ちになりつつあり、両者の乖離が広がってきている。ふたつの価格の推移を折れ線グラフに表すと、2022年の後半あたりから両者の方向性の違いが顕著になっており、大きく開いた「ワニの口」のようになっている。その様はまるで、不動産バブル崩壊の激震によってふるい落とされる"獲物"を待ち構えているかのようだ。

折しも、アメリカのイラン攻撃によるホルムズ海峡の実質封鎖で、世界経済の先行きには暗雲が立ち込めている。過去の事例を見れば、バブル的に上昇した不動産バブルが弾ける原因はふたつ。それは金融引き締めと経済不況である。

日本は2025年に遅ればせながら「金利のある時代」に戻った。そして、世界経済はどうやらホルムズ海峡の封鎖による不可抗力な同時不況に突入しつつある気配だ。

かなり異様だった異次元金融緩和や突発した新型コロナパンデミックの景気対策で膨らんだ日本のマンションバブルも、いよいよ「精算の季節」に入った可能性がある。そのことを敏感に察した多くの不動産業者が「バブル崩壊」に脅え始めたのかもしれない。

2013年に始まった東京マンション市場の「長い春」は今、終わろうとしている。

文/榊淳司 写真/首相官邸HP、photo-ac.com

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