【犯行手口を緊急リポート】「国際ロマンス詐欺」で1億円持って...の画像はこちら >>

SNS型投資・ロマンス詐欺の年間被害総額が過去最悪の1827億円に!

海外の富裕層を装ってSNSなどを通じて単身者に近づき、言葉巧みに恋愛感情を抱かせ、結婚をちらつかせながら最終的に根こそぎ金を奪い取る「国際ロマンス詐欺」。海の向こうにいる、会ったこともない人物に送金までさせるという荒唐無稽な手法ながら、その件数と被害額は増加の一途だ。

被害者が狡猾な犯行の一部始終を伝える。

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【婚活のつもりが......】

「これといった趣味もなく、友人もおらず、銀行口座に預金だけがたまっていった人生。そのお金をすべて持っていかれました。私の人生のすべてが奪われた気持ちです」

東北の地方都市に暮らす司法書士の女性A子さん(45歳)は、なで肩をさらにすぼめながら深いため息をついた。県内の国立大学を卒業後、25歳で資格を取得。同じく司法書士の父親が営む事務所に勤めてきた。

「ずっと地元で暮らしてきましたが、同級生は上京する人が多く、友人は数えるほど。父を追って司法書士になったのも、人付き合いが苦手なので、手に職を持っていたほうがよいと考えてのことです」

人口数万人の小都市で同業者は5人程度。地元の金融機関や不動産業者の発注業務を回していけば、事務所は十分に利益を上げられた。また、クライアントとの折衝は番頭格のベテラン業務部長が対応し、A子さんは受注した登記手続きを済ませるだけの孤独で静謐な日々を送っていた。

「年収は1000万円ぐらい。実家暮らしで無趣味だからほとんどお金を使うことがなく、銀行口座には1億3000万円近く入っていました」

恋人は、33歳のときに別れた地元の公務員が最後。

言い寄ってくる男はいくらかいたものの、「ひとりのほうが気楽」と生涯独身を貫くつもりだった。しかし、昨年春の人間ドックで乳がんの疑いが持ち上がり、人生観が一変する。

「再三にわたる精密検査でシロだとわかったのですが、一時は死を覚悟したことでこれまでの無味乾燥な人生を振り返る機会となり、『私をみとってくれるパートナーが欲しい』と結婚願望が募りました」

社交嫌いな性格から婚活パーティのような会合は性に合わず、テレビCMで見かけたマッチングアプリに昨年8月に登録した。コンタクトを取ってきた男性は複数いたが、目に留まったのが、プロフィール写真で白い肌と青い目がひときわ輝くドイツ人のデニスと名乗る人物だった。

「40代の投資家で、多額の資産を持っていると自称していました。安定した老後を送りたいという思いで結婚を考えていたので、相手の経済力は最重要ポイントでした。

もちろん、恋愛経験が乏しいのに国際結婚なんてハードルが高いことはわかっていました。ただ、欧米人への漠然とした憧れや、奥手で地味な私をリードしてくれるかなという淡い期待がありました」

A子さんは大学でドイツ語を専攻していて日常会話程度はこなせた。デニスもたどたどしいが日本語での文章作成が可能だったため、LINEのメッセージでやりとりするようになった。孤高の日々を送っていたA子さんに、まめに連絡を取ってくるデニスへの恋心が芽生えるのに時間はかからなかった。

「ドイツでは深夜の時間帯であっても、たわいのない連絡をすると数分後には返してくれました。しかも、長文のメッセージを。

常に私のことを大事に考えてくれている、とのぼせ上がっていました」

久方ぶりの恋愛気分に酔いしれるA子さんに、デニスは身辺の問い合わせを始める。

「『お互いの将来を真剣に考えるため』といって、私の預金額を聞いてきました。デニスも、銀行口座の預金額が載ったスクショ画像や運転免許証の写真を送ってきたので、不審には思わなかった。あと、私は親族の勤め先も尋ねられて、これも正直に答えました」

【裸の写真を撮らせて「ばらまく」と脅迫】

恋心が募るA子さんは、デニスに面会を求めた。そして、デニスは9月に来日すると快諾。A子さんは胸を躍らせていたが、デニスは家族の急病を理由に急遽キャンセルしてきた。そんなことがあっても、A子さんは不信感を抱かず、挙句に度し難い要求に応じる。

「いつもは優しいデニスが、私の返信が遅いなどとささいなことで怒り出し、3日間連絡が取れなくなった。私はどうしたらいいかと悲嘆に暮れました。

その後に連絡が来たのはいいのですが、今度は私の裸の写真を求めてきたのです。許してほしいという気持ちもあり、自宅の洗面所で撮って送りました......」

そして10月に入って、デニスはA子さんに暗号資産への投資を促す。まずは、5万円を指定された海外の口座に送ると、1週間後には10万円が自分の口座に送金された。

2度目も、10万円が20万円に。デニスの相場勘に、投資経験がなかったA子さんは舌を巻いた。最初に小口の投資を成功させて安心感を抱かせるのも、詐欺犯の常套手段だ。

その翌月、デニスは目的の実行に入る。暗号資産の大口の投資話を紹介し、A子さんにも出資を持ちかけた。その額はなんと、100万ユーロ(約1億8000万円)。法外な金額にA子さんが断ると、デニスは本性をあらわにする。

「今回の投資は、すでに出資している人がいる。あなたが金を出さないと成立せず、ほかの出資者に損害が生じる。もし降りるのなら賠償しろ。従わないなら、裸の写真を親戚の会社に送りつける」

脅されてもデニスを信頼し切るA子さんに断るすべはなかった。貯金を全額下ろし、カード会社4社から限度額まで金を借り入れ、不足分は父に「婚約相手が一時的に金に困っている」と理由をつけて借りて、耳をそろえて指定された海外口座に振り込んだ。

そして、デニスはLINEをブロックして姿を消した。

デニスと連絡が取れなくなったA子さんは、家族に事の顛末を告げる。ただ、この期に及んでもだまされた事実を受け入れたがらないA子さんを、家族は力ずくで警察署まで連れていく。対応した刑事は、即座に投資話と絡めた国際ロマンス詐欺だと判断した。

現実を突きつけられ、取調室で泣きじゃくるA子さんに、刑事は捜査を進めるため、被害届の提出を促した。しかし、消沈し切ったA子さんには、犯罪グループから金を取り戻すという望みにかける気力はなく、提出を諦めた。

失恋の痛手と多額の負債が残ったA子さんが振り返る。

「私は国家資格があって人よりも頭が良いという自負があったし、言い寄ってくる男もいました。まさか、そんな自分が恋愛で詐欺に遭うとは思ってもいなかった。

でも、私は世間に疎かった。詐欺なんてオレオレ詐欺ぐらいだと思い込んでいたし、LINEでビデオ通話ができることも知らなかった。多少の一般常識があれば、詐欺には引っかからなかったはず。

そして、私は孤独だった。心の闇をうまく突かれた。被害に遭うのは必然だったのかもしれません。被害を忘れたいのですが、ニュースで詐欺という言葉を耳にするだけで震えます」

【求人サイトで募集。臓器供出の恐れも......】

こうしたSNSなどを使った詐欺は年々、増加している。警察庁が今年2月に発表した「SNS型投資・ロマンス詐欺」の昨年の被害額は、1827億円に及ぶ。発生件数は前年比47.9%増の1万5142件で、特殊詐欺に分類されるオレオレ詐欺の1万4393件を超える。一方で検挙者は387人で、氷山の一角しか捕まえ切れていない。

【犯行手口を緊急リポート】「国際ロマンス詐欺」で1億円持っていかれた被害者の告白
特殊詐欺とは、「振り込め詐欺」や「オレオレ詐欺」など、被害者に対面せずに金銭をだまし取る方法。SNS型投資・ロマンス詐欺は、SNSなどを通じ、架空の投資話を持ちかけたり恋愛感情を抱かせたりして金銭をだまし取る方法で、2023年に新たにできた詐欺区分。警察庁公開のデータから作成

特殊詐欺とは、「振り込め詐欺」や「オレオレ詐欺」など、被害者に対面せずに金銭をだまし取る方法。SNS型投資・ロマンス詐欺は、SNSなどを通じ、架空の投資話を持ちかけたり恋愛感情を抱かせたりして金銭をだまし取る方法で、2023年に新たにできた詐欺区分。警察庁公開のデータから作成

組織犯罪事情に詳しい社会学者の廣末 登氏が解説する。

「ネット上のロマンス詐欺は2000年代から確認されています。

そして、23年に当時の岸田文雄首相が資産所得倍増を打ち出したのに合わせる格好で、投資詐欺に絡めて急増しました。大半は、欧米人を装った国際ロマンス詐欺だとみられます。被害者は男性のほうが多く、男女共に40代以上が8割を占めます」

国際ロマンス詐欺は加害者に都合が良いのだという。

「詐欺に成功するには、被害者を〝感情のジェットコースター〟に乗せて、翻弄することが大事。恋愛感情に浸らせて判断能力を失わせるロマンス詐欺はうってつけです。

また、詐欺事件で足がつきやすいのは口座からの引き出し。外国人に成り済ますことで海外口座への送金が不自然ではなくなり、ネットで完結するため受け子が防犯カメラに映るようなことがなく、リスクが減る。

さらに、LINEのアカウントを消去することで足がつかず、国際ロマンス詐欺は加害者側には都合がいいんです」

犯罪グループの国際化も指摘されているが、日本人が被害者の事件は、日本人が関わっている可能性も高いと廣末氏はみる。

「警察や他組織の攻撃をかわせる東南アジアを拠点に、中国マフィアなどのサポートを受けながら繰り広げています。

末端のかけ子はふたつのパターンに分かれます。ひとつは、詐欺の前科があって社会復帰できず、再犯に手を染める者。もうひとつは、求人サイトの『東南アジアでリゾートバイト』といった誘い文句にだまされてやって来る者。

私も実際に、ネットでこういった広告を見たことがあります。犯罪に加担させられ、その果てに待っているのは、臓器売買など悲惨な末路です」

欧米人を装った国際ロマンス詐欺だが、お目当ての人物など存在せず、犯罪グループが国際化を進める一方だ。ロマンスに神様などいない。

取材・文/武田和泉 写真/共同通信社

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