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昨年の春闘の賃上げ率は5.25%。歴史的な高水準だが、中小組合は目標に掲げた6%に届かず。
実質賃金プラスはいまだに定着していない

インフレが始まった2022年から実質賃金は約4%のマイナス。そこにアメリカによるイラン攻撃が加わり、さらなる物価高は必至。ところが高市さんは賃上げにはあまり興味なさそう......。総理、今年の春闘が歴史的な分水嶺になること、把握されてますか!?

【賃上げ促進税制を廃止するだと!?】

春闘が佳境を迎えている。3月5日に発表された、連合傘下の労働組合が要求した平均賃上げ率は5.94%。前年と比べて0.15ポイント下回ったものの、額面では月額1万9506円と、262円上回った。

また、アパレル・食品・流通など幅広い分野にまたがる、国内最大級労組のUAゼンセンによると、3日までに交渉妥結した傘下の8組合で満額回答が出ており、平均賃上げ率は昨年を上回る5.89%だという。

常勤・パートタイムを含めた日本の雇用者のうち、労働組合に加入している人はわずか16%にとどまる。ただ、8割を超える非加入労働者の賃金にも玉突き式に影響が及ぶため、春闘の結果は非常に重要なのだ。

高市さん、本当の"責任ある積極財政"は賃上げ政策ですよ!
日立労組は2月19日、過去最高を上回る月1万8000円のベアを要求。同社の滝本晋執行役常務(右)は「前向きに検討したい」と回答した

日立労組は2月19日、過去最高を上回る月1万8000円のベアを要求。同社の滝本晋執行役常務(右)は「前向きに検討したい」と回答した

2022年からインフレに火がつき、追いかけるように賃金上昇も続いてきた。しかしこの間、給料から物価上昇分を差し引いた実質賃金は多くの月で伸び悩んでおり、25年までの4年間で、実質賃金は約4%低下している。

つまり給料の額面は増えていても、実質的には4年前より4%分、生活が苦しくなっていたのだ。

ただ、今年はいい兆しが見えている。実は、インフレは昨年から収束傾向に転じているのだ。そのため、年内には日銀が目標に掲げる物価上昇率2%程度に落ち着くとの観測もあった。

そうなれば実質賃金のプラス転換が実感でき、家計は消費を増やす。つまり〝物価と賃金の好循環〟がついに始まろうとしていたのだ。

ところがここにきて、一気に雲行きが怪しくなってきた。財政学者で東京経済大学教授の佐藤一光氏が解説する。

「イスラエルとアメリカによるイラン攻撃で、原油価格が猛烈に乱高下しています。戦闘が早期に終わっても、しばらくは原油の供給は元どおりにはならないという見方が強く、そうなれば物価上昇は再燃。26年度も春闘が実質マイナスに終わってしまうと、賃上げムードがしぼむとともに、われわれの生活もかなり苦しくなってしまいます。

つまり今年の春闘は、この先の賃上げ機運、ひいては日本経済を左右する分水嶺なのです」

高市さん、本当の"責任ある積極財政"は賃上げ政策ですよ!
高市政権はインフレ対策に積極的で、イラン情勢の悪化に伴って、ガソリン料金の高騰対策も検討している。果たして、物価高を抑えていいのか?

高市政権はインフレ対策に積極的で、イラン情勢の悪化に伴って、ガソリン料金の高騰対策も検討している。
果たして、物価高を抑えていいのか?

それなのに、〝責任ある積極財政〟を掲げる高市政権からはどうも、賃上げに関する具体案がさっぱり聞こえてこない。

施政方針演説では「物価上昇に負けない賃金上昇を実現します」と口にしたものの、その行動を見れば、岸田政権時代に始まった賃上げ促進税制(従業員の給与総額を増やした企業の法人税額を一部控除する制度)を廃止する始末!

大企業向けは3月末に廃止され、中堅企業向けも適用条件を引き上げた上で、来年3月末に終了する予定だ。これでは歴史的転換点の春闘を乗り切ることは難しいだろう。

【賃金が上がらない理由】

では、どうすれば賃金は上がるのか? 首相が真に打つべき策は後ほど詳しく聞くとして、まずは構造的な問題を整理しよう。

日本は30年前から、賃金と物価が横這いを続けていた。特に賃金については、大きな原因は労働組合の交渉力の弱さにある。物価研究の大家である東京大学名誉教授の渡辺努氏は、「労組が会社と交渉する手法はインフレの時代に合っていない」と指摘する。

「問題の本質は、過去の物価上昇率をベースに要求を決めていること。失われた30年では賃金が上がらなかったわけですが、この数年は物価上昇率が年々上がっており、前年のデータを見て要求していては追いつけるはずもありません。

私を含む研究者6人は連合の依頼を受けて春闘の評価委員会で検討を重ねましたが、翌年度の物価上昇を見越した要求水準で交渉すべきだと提言しました。

目減りした分を翌年に補填してもらうのではなく、前もって分捕り、結果的にもらいすぎになれば翌年調整するくらいでいい。加えて、不測の事態で物価が上振れた場合は翌年にその分を埋め合わせると、企業に約束させるべきです」

くしくもイラン攻撃が、埋め合わせが必要となる事態を早々に引き起こすかもしれない。

その上で、実現には労働者の後押しが必要だと渡辺氏は語る。

「物価は今後も上がっていくわけですから、労働組合はこれまでよりギアを一段上げて交渉に臨むべきです。イランで起きていることのとばっちりを日本経済が受けるとして、企業が賃上げを渋れば、そのダメージを最も受けるのは労働者ですから」

佐藤氏も渡辺氏の指摘に賛意を示した上で、さらに日本の賃金が上がらない理由をふたつつけ加えた。

「日本は製造業が強いという昔ながらのイメージがありますが、実際には約6割の労働者がサービス業で働いています。この多くが低賃金になってしまっている点が大きな問題です」

小売り、飲食・宿泊、運輸、福祉などの産業がサービス業に当たり、製造業や情報通信、金融などに比べて賃金が抑えられているのは確か。そこでカギとなるのが、高市首相のかじ取りなのだが......。

「賃上げ促進税制を廃止した代わりに、昨年12月に通した補正予算で多くの予算を振り向けたのが先端技術や産業の振興・安全保障など17分野への重点投資。

私の読みでは、高市首相は旧来の自民党よろしく、政府の投資によって製造業や土木・建設などに広くお金を行き渡らせて、それが経済全体に波及していくイメージを持っており、こちらのほうが優先順位が高いと思っているのでしょう」

だが、これはかつての公共事業から、AIや防衛産業に受け皿が変わっただけという話だ。

「ごく基本的な経済の話で、GDPの半分以上が個人消費なので、ここを伸ばさないと経済は活性化しません。そのためには賃上げに全力投球することが必要なんだということを、高市首相にぜひお伝えしたいですね」

【物価高は必要。問題なのは賃金安】

責任ある積極財政の問題点はまだある。高市首相は補正予算を組む際に、物価高対策を強調した。

電気・ガス料金の補助延長に加え、直近では食品の消費減税など、生活への支援に前向きな姿勢を示しているが、両氏ともこの点に異議を唱える。かねてインフレ経済の優位性を主張し続けてきた渡辺氏に解説してもらおう。

「まず、インフレは日本経済が復活するための重要な条件です。物価を下げれば実質賃金は上がると、短絡的に考えるべきではありません。

例えば、物価が上がり続けて賃金上昇が追いつかないので、日銀は利上げをして物価を抑え込むべきだという議論があります。しかし、これは明らかに誤りです。ポイントはふたつで、ひとつはインフレ経済のメリットは非常に大きいということです」

過去4年の物価上昇によって、企業は値上げができるようになった。そこで、以前のようなコストカットや値下げ競争でなく、新しい商品開発や設備投資といった、前向きな動きが顕著になったという。それが賃上げにつながるとともに、好待遇による転職オファーが増加。人材が動いて効率的に配分され、経済活性化にもつながっているというのだ。

「また利上げは企業の資金調達コストを上昇させますから、賃上げに回す余力を減らしてしまいます。つまり、利上げは賃上げを潰してしまう可能性が高いのです。

賃金と物価の好循環が回り、実質賃金のプラス成長が定着するまで、利上げは待つべきです。

日本の問題は物価高ではなく、賃金安なんだということを日銀は理解して、根気強く待っている。インフレだから、円安だからといって安易に利上げを求めないよう、政府や企業、消費者にも理解してほしいと思います」

高市さん、本当の"責任ある積極財政"は賃上げ政策ですよ!
連合の発表によると、今年の春闘の要求水準は加重平均で5.94%と、昨年比でマイナスとなった。写真は会見する芳野友子会長

連合の発表によると、今年の春闘の要求水準は加重平均で5.94%と、昨年比でマイナスとなった。写真は会見する芳野友子会長

佐藤氏も、賃金が上がるなら物価高でも問題ないと口をそろえる。その上で、賃上げにブーストをかける積極財政のアイデアを披露してくれた。

「先ほど、サービス業の賃金が低いことが問題だとお話ししました。ここを政府が戦略的に動かしていけばいい。現状でも最低賃金アップや診療・介護報酬の臨時改定は進めていますが、より大幅な医療・介護分野の賃上げを提案します。これは政府が予算を決めている分野ですから、やると決めれば実現可能です」

この政策によってほかのサービス業から人が動けば、人手が足りなくなった分野でも連鎖して賃上げが起こる。最低賃金アップが下から持ち上げる動きなら、医療・介護の賃上げは上から引っ張り上げる動きだと、佐藤氏は語る。

「例えば小売りや飲食・宿泊で人材が払底すれば、AIやロボットへの投資が出て、その分野も効率化して利益が拡大し、給料も上がるでしょう。同時に、思うように働けず困っている人は給付付き税額控除で支える。

そうすれば、国民が一丸となって成長していくことが可能なんです」

政府をはじめとして、労働組合から企業、そしてわれわれ労働者まで、賃上げのためにできることはまだまだあるのだ。週プレはこれからもニッポンの賃上げを応援します!

取材・文/日野秀規 写真/時事通信社

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