中国の東風日産が昨年4月に発売して話題を集める新型EVセダン・N7
経営再建を進める日産。その復活のカギはどこにあるのか。
なぜ中国で、往年の日産の走りがよみがえったのか。そして、このクルマは本当に"反転攻勢の一手"になりえるのか。自動車研究家・山本シンヤ氏が現地へ飛び、その裏側と実力を徹底検証した。
【経営再建のカギは現地にアリ】経営再建計画「Re:Nissan」を進める日産。その成否を分けるのは、コスト削減でも効率化でもない。結局、自動車メーカーを救うのは〝いいクルマ〟。その点はイヴァン・エスピノーサ社長も理解しており、筆者の取材にこう語った。
「まったくそのとおりで、いいクルマを造り、お客さまを笑顔にできる魅力的な自動車会社に戻ることです」
そんな中、日産から中国取材の提案を受けた。日産はEVの先駆者でありながら、最もホットな中国市場ではこれまで苦戦を強いられてきた。そこで従来の常識を覆し、現地の東風日産でゼロから開発されたEVセダンがN7。販売は非常に好調で、〝日産復活の切り札〟とも呼ばれる。
昨秋以降、日本のメディアは日本と中国の関係悪化をあおる報道を続けていたため、筆者も現地取材から無事に帰国できるか心配だった。しかし、実際に現地に到着すると拍子抜けするほど平穏で、やはり自分の目で確かめることの重要性を再認識した。
今回は東風日産の開発拠点がある広東省広州市の花都(ホワトウ)と、冬季テストコースがあるロシア国境付近の黒竜江省黒河(ヘイファー)を訪問した。
地域によってEVとエンジン車の普及率は大きく異なり、花都ではおよそ6対4、黒河では1対9といった具合だった。もちろん大都市部では9対1の場所もある。中国のEV普及は決してひとくくりにできない。
【噂の新型EV・N7の〝想定外〟】花都は開発機能が一体化した拠点。日本の日産でたとえると横浜本社、厚木テクニカルセンター、栃木テストコースと工場が一ヵ所に集まったような雰囲気だ。
ここでは東風日産が開発したEVセダン・N7と、同じく中国の鄭州日産が開発したピックアップトラックのフロンティアProに試乗した。残念ながら一般道での走行はできなかったが、テストコースでも十分に興味深い体験となった。
N7は戦略的価格が注目され、「中国向けの割り切ったモデル」と思われがち。
加速はパワフルで自然、ステアフィールは滑らかで芯がありFF(前輪)駆動ながらノーズがスッとインに向く操縦安定性を持ち、スタビリティ(車両の安定性)も申し分ない。思わず「これ、スカイラインでいいのでは」と口にしてしまったほど。
最大航続距離は635㎞で、中国市場向けの装備をすべて盛り込みながらも価格は240万円から300万円と手頃。この価格が可能なのは、中国の多数のサプライヤーの存在が大きい。
新型EVセダン・N7。室内には、冷温庫や15.6インチ2.5K高精細センターディスプレーなど快適装備も充実
フロンティアProのパワートレインは1.5Lターボとふたつのモーターを組み合わせたPHEV。バッテリーは荷台の下に搭載され、4WD(四輪駆動)は電動式ではなくプロペラシャフト付きのメカニカル方式を採用している。
リアサスペンションはリアマルチリンク式など、ピックアップトラックのフレーム構造とは思えない挑戦的な設計。内外装も、力強さと先進感を巧みにバランスさせたデザインで非常に魅力的だ。
試乗してみると、静かで力強い加速を見せるパワートレインにまず驚かされる。回頭性や旋回姿勢も優れており、思わず「本当にこれがピックアップトラック?」と口にしたほどの洗練ぶり。
総合的な性能は、現行のピックアップトラックの中でもトップレベルと感じられ、同時に日本市場でも通用する可能性を感じさせる仕上がりだった。
男心を刺激しまくるピックアップトラック「日産 フロンティアPro」。日産の象徴であるVモーションフロントとレーザー刻印ロゴとが男心を刺激
室内はデジタル化を前面に押し出した、高級感の漂う近未来空間に仕上がっている
【中国専用最適化のロジック】
両モデルに共通するのは、ステアリングを握った瞬間に「むしろ日産らしさはほかの先進国向けモデルより濃いのでは」と実感できること。実は、この取材の直前に3代目に進化したリーフに試乗していたが、率直に言えばN7の完成度はそれを上回っていた。
リーフはグローバルモデルであるため、どの国の市場でも平均的に走れることが求められる。一方、N7は中国市場に特化して設計されている。
これは日本の軽自動車が国内向けに最適化されているのと同じ理屈。加えて中国で求められるEVは〝未来のクルマ像〟に近い。日本や欧州の常識は通用せず、デザインの先進性は絶対条件である。
すでにBMWやメルセデス・ベンツでさえ中国では「古い」と見られるほど、その背景には歴史的な差がある。日本は黒電話からスマホまで段階を踏んで進化したが、中国は〝いきなりスマホ〟から始まった。その感度の違いが、クルマに求める性能にも表れている。
中国のユーザーはクルマの評価をスペックや装備で判断する。大画面インフォテインメント、カラオケ、冷蔵庫、マッサージシートなど、車内がくつろぎ空間として機能する工夫は必須だ。深夜まで仕事に没頭し、帰宅後も家族の世話に追われる父親が、唯一落ち着ける場所。それがクルマの中なのだ。
春節などの長距離移動も桁違い。日本では考えられない大渋滞に巻き込まれるため、高度な運転支援技術も重要。そこで日産はスペックや装備、デザインに至るまで現地ユーザーに寄り添った開発を行なった。
しかし、それだけではライバルに追い抜かれ淘汰されてしまう。では、日産にあって中国メーカーにないものは何か。それは、スペックや装備ではなく、〝走りの哲学〟と長年積み上げた〝信頼〟。
単に仕様やデータではなく、「人が乗って気持ちよく走れるか」「どんな道でもクルマを信用できるか」を追求している。この目に見えない性能こそが、日産車に熱き魂を吹き込む作業である。
かつて日産が行なった「901運動(1990年代までに技術世界一を目指す取り組み)」と同じ思想が、今の東風日産でも受け継がれている。
現地スタッフは日産出向者から熱心に学び、「なんでも吸収したい」「教えてほしい」と勉強に励む。日産のレジェンドテストドライバー・加藤博義氏も、「現地に行くと質問の嵐で驚いた」と証言するほど。
【極寒・黒河で見えた〝目に見えない性能〟】翌日、黒河へ移動した。国内移動とはいえ、日本から広州までを上回る距離の大移動で、中国の国土の広さを改めて実感する。花都では19℃だった気温も、ここではマイナス30℃。徹底した防寒対策を整え、分厚い氷で覆われたダム湖を利用したテストコースへ向かった。
街中ではテスト中と思われる偽装車を頻繁に見かけた。各自動車メーカーが、この極限環境を日常的にテストコースとして使っているという。
逆に、中国には夏場に気温が50℃近くまで上がる地域もある。欧米メーカーが国境を越えて行なう極寒・酷暑テストを、中国では国内だけで完結できる。それも開発スピードを支える理由のひとつだ。
路面環境が悪くなるほど、クルマの素性や本質が現れる。だがN7とフロンティアProの走りは、花都のテストコースで受けた印象と変わらない。いや、それ以上の驚きの走りを見せた。
ロシア国境に近い黒河の冬季テストコースへ向かった山本氏
現地は氷点下30℃という極寒の世界。この地には中国の自動車メーカー各社が連日集まり走行テストを行なっていたという
低μ路(ていミューろ/滑りやすい路面)では「クルマをどれだけ信頼できるか」が、安全で安心な走りに直結する。2台は「今、クルマがどんな状況なのか」が非常にわかりやすい。つまり、「ここまでは大丈夫、これ以上は危ない」という判断がしやすいのだ。
こうした安心感があるからこそ、思い切りドライビングを楽しめる。これは数値には表れない性能があってこそ成立する世界だ。この〝目に見えない性能〟は日産車の大きな特徴だが、N7とフロンティアProにも確かに受け継がれていた。
フロンティアProでは深雪に突っ込むような試乗も行なったが、PHEVでありながらほかの日産SUVと同様の耐久性と堅牢性を備えており、これしきの走行で弱音を吐く気配はまったくない。
もっとも、こうした日産車の強みである〝目に見えない性能〟は、中国のユーザーにはまだ十分に評価されていないという。ならば、〝〇〇コントロール〟といった形にして、中国のユーザーが好む装備やスペックとして伝えていく方法もあるのではないか。
山本氏が足を運んだ冬季テストコースには極限条件がそろう。N7は雪煙を巻き上げながら力強く疾走
フロンティアProは、ガッシガシと雪深いゾーンへ突入。深雪でもひるまず進む姿は男心がたぎる
【24ヵ月開発の舞台裏】
ちなみにN7は、企画から量産までわずか24カ月という、従来の日産の常識を覆すスピードで開発された。仕事は土日や夜間も関係なく進められ、夜中に投げた質問にも数時間で回答が返ってくる。
東風日産は開発から生産までの機能が一体化しているため、問題があれば即関係者が集まり、必要なら開発途中でも大胆な設計変更が行なわれたという。
その決断とスピードは、コンプラに縛られる現代日本の常識をはるかに超える。しかし、それほどの覚悟がなければ年間160車種以上の新車が生まれ、同じ数だけ消える中国市場では勝てないのだ。
さらにN7の導入に合わせ、ブランドイメージも刷新された。かつて中国での日産は「年配層が乗るクルマ」という印象が強かったというが、販売店の雰囲気を含めてイメージを一新。こうした戦略的な取り組みも、N7の販売を支えている。
中国メーカーはすでに「コピーの時代」から「独自進化の時代」に突入している。日本メーカーも23年の上海モーターショーでの〝上海ショック〟以降、「中国で勝つには中国で企画・開発するしかない」という現実に向き合い始めた。
地域軸での開発、現地ユーザーに寄り添う商品企画、企画から生産までを一体化したワンチーム体制。中国でのクルマづくり改革は、少しずつ成果を見せ始めている。
中国のスピードは桁違いであり、日産もそれに対応していかなければならない。ただし、スピードだけでは意味がない。日産に受け継がれる遺伝子を守りながら開発することが不可欠。つまり、ユーザーに寄り添いながらも、熱き魂は捨てないクルマづくりだ。
中国の開発手法が、そのまま日産全体に適用できるかはまだわからない。だが、このスピードと日産のDNAが噛み合ったとき、日産は再び、〝面白い自動車メーカー〟に戻る。いや、もっと面白くなる。少なくとも、その可能性を今回の中国取材で確信した。そして、その変化はすでに中国から始まっている。
撮影/山本シンヤ
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