五輪マスコット最大の成功例"イーグルサム"の謎を市川紗椰が解...の画像はこちら >>

五輪キャラマニア垂涎、謎のイーグルサム時計

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。

今回は「イーグルサム」について語る。

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2回にわたって、歴代五輪&パラリンピックのおもしろ公式マスコットを語ってきました。最後は王道、1984年のロサンゼルス大会の公式マスコット「イーグルサム」。

オリンピック史の中でも特に成功したキャラクターですが、不思議なことに、日本では本国アメリカ以上に記憶されている存在です。アメリカ育ちの私も、大人になってから日本で知りました。普通、五輪のマスコットは大会が終わると忘れられていくのに、なぜかサムだけは80年代ポップカルチャーの象徴のように今でも語られることがある。その理由を考えてみた。

サムはアメリカの国鳥であるハクトウワシがモデルで、星条旗柄のシルクハットをかぶっています。名前の「サム」はアメリカの国家を象徴するUncle Sam(サムおじさん)から来ているので、冷静に考えると、かなり愛国的なキャラクターである。しかし日本では、そんな背景はほぼ忘れられ、「星の帽子をかぶったかわいい鳥」として受け入れられたのかと思います。ここがおもしろいところ。

しかも、日本とアメリカではサムの描かれ方が微妙に違うことがわかりました。

アメリカの公式イラストでは、くちばしが長く、眉がきりっとしていて、体もやや細身。ワシらしい精悍(せいかん)な顔つきで、走ったりジャンプしたりと、スポーツマスコットらしいポーズが多い。

一方、日本の商品に描かれたサムは、頭が大きくて、目が丸く、くちばしも短く、体もふっくらしている。線も柔らかく、表情は笑顔やウインクなど、どこか愛嬌(あいきよう)のある「キャラクター顔」になっている。猛禽(もうきん)類が日本のキャラ文化によって少し「かわいい鳥」に変換されてしまったのがわかります。

80年代の日本は、キャラクター商品文化が爆発的に広がった時代でもありましたね。文房具や日用品にサンリオやアニメキャラがあふれ、「キャラ=商品」という感覚が定着しました。そこに登場したイーグルサムは、五輪の記念マスコットというより、普通のキャラクターのように扱われた印象です。

筆箱、シール、水筒、ぬいぐるみはもちろん、目覚まし時計や卓上ライト、ラジオといった家電グッズまで登場し、まるでひとつのキャラクターブランドのように広がっていった。ライセンス商品として出していたのか、メーカーごとにサムの顔が微妙に違うのもまたいい。

一番驚いたのは、『イーグルサム』という日本で制作されたテレビアニメも放送されていたこと。サムがスポーツに挑戦したり、子供と交流したりする数分のショートアニメで、オリンピックの精神を伝えるプロモーションの一環だったようです。

LAの人もびっくりだと思います。海外の五輪コレクターのブログにも、「サムの珍しいグッズが日本にある」と書かれており、半分日本のキャラのようになってておもしろいです。

ひとまず五輪マスコット話はここまで。ロンドン五輪の「ウェンロック」(ひとつ目の金属生命体。未来都市+産業革命という、イギリスらしい理屈系デザイン)や、東京2020五輪&パラの「ミライトワ」と「ソメイティ」(瞬間移動やテレパシーなど、五輪マスコット史上、最も設定が強いキャラ)、モスクワ五輪の「ミーシャ」もいつか。

●市川紗椰
米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。東京五輪&パラのマスコット「ミライトワ」と「ソメイティ」がロシア語の名前に聞こえる。公式Instagram【@its.sayaichikawa】

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