音楽業界は訴訟、その一方でプロ野球界は提携‥‥。「大手チケッ...の画像はこちら >>

かつては暴力団の専売特許だったダフ屋行為だが、SNSやチケット転売サイトの登場により手軽になり、裾野が広がりつつある

ライブチケットの不正転売を仲介したとして、芸能事務所「STARTO ENTERTAINMENT」所属タレントのライブを主催する企業が、チケット転売サイトの運営会社に仲介で得た手数料の返還を求める訴訟を東京地裁に起こした。

ライブなどのチケットを主催者の同意なく定価以上で転売する行為は、2019年に施行された「チケット不正転売禁止法」によって禁止されているが、取引を仲介する転売サイトの責任を問う裁判が起こされるのは異例である。

「訴訟を起こされたのは、1999年にサービス開始以来、1000万件以上のチケット転売を仲介してきた国内最大手の『チケット流通センター(以下、チケ流)』を運営するウェイブダッシュ社です。同社は2023年にはNASDAQに上場する米企業の傘下に入るなどブランド力を高める一方、人気アーティストのライブチケットの場合、定価の数十倍から100倍近い価格での取引も横行するなど、不正転売の温床になっているとして非難も浴びていました」(大手紙社会部記者)

【機能不全に陥る「公式リセール」】

チケット不正転売はかねてからの社会問題であり、その撲滅が国民のコンセンサスであることに異論の余地はない。しかし、チケットを購入したものの、急用などで行けなくなった人から、一時販売でチケットを購入できなかった人に座席を回すための「リセール」というシステムは確保される必要がある。業界もこれまで、不正転売の対策を進める一方で、公式リセールプラットフォームの整備を進めてきたが、うまく機能しているとは言い難い。

例えば、2017年に日本音楽制作者連盟ほか、複数の音楽業界団体が「不正転売対策」を掲げて立ち上げた「チケトレ」は、2025年6月30日をもってサービス運営を終了している。定価価格での取引が原則とされていたうえ、出品者と購入者の双方が購入価格の10%超を手数料として支払う仕組みが不評で、利用者が定着しなかったことが敗因の一つとされている。

音楽業界は訴訟、その一方でプロ野球界は提携‥‥。「大手チケット転売サイト」への対応が分かれる理由
「ファンへのサービス」という側面もあるライブのチケットの価格決定を市場原理に委ねるべきか、興行側にとっても悩みどころだ

「ファンへのサービス」という側面もあるライブのチケットの価格決定を市場原理に委ねるべきか、興行側にとっても悩みどころだ

現在でも、電子チケットサービスのチケットプラスは「チケプラトレード」を、ローソンチケットが付加機能としてリセールプラットフォームを運営しているが、定価を超える出品は認められていないうえ、双方に取引手数料がかかる仕組みはチケトレと同様で、さかんに取引が行われているとはいえない状況だ。転売事情に詳しいフリーライターの奥窪優木氏が話す。

「コンサートに行けなくなった上に、定価から手数料を負担しないといけないのは、まさに泣きっ面に蜂。かたやチケット転売サイトやSNSでは、人気チケットは定価以上の価格で転売されている。しかもチケット不正転売防止法も、あくまで『業として』行われている転売であり、反復性が認められない転売は処罰の対象ではない。

となると、人一倍正義感が強い人以外は後者を選んでしまうでしょう。

購入者にとっても、在庫がほとんどなく、あったとしても高倍率の抽選をくぐり抜けなければいけないサイトを当てにする人は少ない。せめて出品者の手取りが定価と同額程度になるようにしなければ、二次流通プラットフォームとしては流動性が確保されず、市場としてうまく機能しません」(奥窪氏)

【転売サイトと手を組むプロ野球業界】

一方で、音楽業界と同じく、チケット不正転売問題の当事者であるプロ野球業界は、異なる動きをみせている。

2020年からは埼玉西武ライオンズが、翌年からは北海道日本ハムファイターズ、千葉ロッテマリーンズ、オリックス・バファローズが、チケ流にチケットの二次流通を委託。公認リセールサービスとして機能しているのだ。

チケットの出品価格の上限は個別に設定されるが、定価を一定程度上回る価格で出品できることも多く、その場合は出品者は手数料を差し引いてもチケットの購入金額を回収することも可能だ。

「音楽業界が不正転売の撲滅を掲げているのとは対照的に、これらの球団は転売市場と共存し、さらに介入していこうというスタンスを打ち出しています。チケ流での出品価格の上限は球団側が自由に設定し、変更もできる仕組みになっていることもポイント。不正転売のインセンティブを過度に高めず、かつ、行けなくなった人にとっても売り安い価格に上限を調整することで、転売市場をコントロールしようという考え方です」(奥窪氏)

ただ、この手法を音楽業界が同じように取り入れることは難しそうだ。国内コンサートプロモーターの関係者が明かす。

「数年に一度しか行われないような人気アーティストのライブは、シーズンを通して開催されているプロ野球の試合と比べてチケットの希少性が高く、転売市場も過熱しやすいのでコントロールが困難。現状、一時販売でチケットの定価を上げるなどして需給の不均衡を調整することくらいしか、なす術はなさそうです。とはいえ、アーティストのライブは『ファンへのサービス』という側面が強く、価格決定を市場原理に任せてしまうことは憚(はばか)られる。

悩ましいところです」(関係者)

音楽業界の転売ヤーとの戦いはまだまだ続きそうだ。

文/吉井透 写真/123RF、 photo-ac.com

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