日本の介護の現場で活躍するアジア人介護士
今、日本で働く外国人介護士は約5.5万人。国はその受け入れ上限を2029年末までに約16万人と設定しており、今後も急速に増え続けるだろう。
しかし、現場はいまだ深刻な人手不足だ。どうやらその需要の高さゆえ、介護業界では水面下で外国人介護士の"引き抜き工作"も行なわれているようで......。そのエグい実態を取材した!
* * *
【消えた6人のネパール人介護士】「1年間で6人が全員、いなくなってしまったんです」
山梨県内の介護関係者Aさんはそう嘆く。運営している介護施設と系列の病院で介護士として雇用していたネパール人女性が6人、こぞって転職してしまったのだという。
「もともと技能実習生として来てもらったんです。うちとしても外国人の受け入れは初めてだったので、書類にふりがなを振ったり、日本人のスタッフが食事に連れていったりと、仕事場になじめるようずいぶん気を使いました。日本人用の寮を改装してきれいにして、家電や食器までそろえて迎えました」
そんな施設側の気持ちを受けてか、ネパール人女性たちもよく働いてくれたという。
「礼儀正しいし、入所者にも優しい。日本語もどんどん上達しました。非の打ちどころがないくらいで、本当に助かっていたんです」
しかし、雇用がスタートしてからちょうど3年が経過したとき、異変が起きる。
「まず、ひとりが東京の施設に転職。それから次々に別の施設に移ってしまいました」
技能実習生は3年間働くと「特定技能」という在留資格を得ることができる。
Aさんが「監理団体」(技能実習生を国外から受け入れ、施設側との調整や実習生のサポートに当たる)に払っていた監理費などは、3年間で1人当たり160万円。本人に支払う給料のほかにそれだけのコストをかけたのだ。特定技能を得てからも引き続き戦力として定着してほしかったが、残念な結果に終わった。
2019年の制度開始以降、特定技能「介護」で就労する外国人の数は年々増加し、2020年末時点で約1000人だったのが、2025年6月時点で約5.5万人にまで達している
こうしたケースが今、日本全国で急増している。3年間で介護スキルと日本語能力を高め、技能実習から特定技能に移り、転職の自由を得た外国人は「引く手あまた」だ。
そして、多くの外国人はより高い給料を得て、母国に仕送りをしたい。そのため条件のいい職場があればどんどん転職していく。そこに大小の派遣会社が群がり、今や"外国人介護ワーカー争奪戦"の様相を呈している。
その草刈り場となっているのは地方だ。沖縄県の介護関係者Bさんは、都市部の業者の"タダ乗り"にこう憤る。
「一部の派遣会社はSNSで『地方の介護の現場で育成された人材を紹介できます』などと、堂々と都市部の介護施設向けに発信しているんです」
地方ほど高齢化と過疎化、介護人材の不足が深刻だ。だからこそ外国人労働者を呼び込み、コストや労力を注ぎ込んで育ててきた。それを、都市部の介護施設が派遣会社などを通じて、地方よりもいくらか良い給料で刈り取っていくのだ。
外国人のほうも、便利でモノが豊富な都会を好む傾向がある。秋田県で働いていたあるベトナム人の介護士も東京の施設に転職したひとりだ。
「秋田は寒すぎました。それに不便で。自転車しか与えられず、どこにも行けなかった。電車がたくさん走り、アニメショップなども多い東京が、憧れていた日本の姿でした」
最低時給の高い東京や大阪なら、そのぶんだけ給料が上がる(地方に比べて生活費が高くつくデメリットはあるが)。加えて、東京では介護従事者を対象に居住支援特別手当が月1万円(勤続5年以内の介護職員は2万円)が支給される。これらはもちろん外国人の介護職員も対象だ。こうした支援制度が整っている財政の豊かな自治体に、外国人も流れていく。
「某県のある介護施設では、介護士として特定技能のミャンマー人を10人雇っていたのですが、そのうち7人が別の施設に転職しました。現場から『もう外国人は信じられない』という声も上がっています」(前出・Bさん)
【「登録支援機関」の闇】介護人材はカネになる、とばかりに地方を荒らす業者もいる。とりわけ、特定技能の外国人の生活相談や入国のサポート、日本語学習機会の提供、入管(出入国在留管理庁)との書類のやりとりなどを請け負う「登録支援機関」には問題が多い。一般的に介護施設は登録支援機関に委託して、特定技能の外国人を受け入れる。派遣会社が登録支援機関を持っている場合もある。
「しかし、その中には悪質な機関もあるんです」
そうBさんは言う。登録支援機関は東京や大阪、名古屋といった大都市に集中している。そこから地方に進出し、人手不足に悩む介護施設に海外の送り出し機関と組んで外国人を紹介していく。
ところが、一部の機関は単に外国人を日本に送り、その際に入管との書類仕事をするだけで、コスト削減のため地元にオフィスを構えることもしない。すると、どうなるか。
「外国人が仕事や生活で困ったときに相談できる場所がない。オンラインでは限界があるし、どうしても介護施設のほうで支援業務まで行なう必要が出てくる。
そうなると、現場の負担が増えます。支援委託料(月2万~3万円が相場といわれる)を払っているのになぜ登録支援機関は本来の仕事をしないのかと施設は不信感を持つし、外国人にとっては登録支援機関から受けられるはずのケアが何もないことが、転職の要因のひとつになる」
こうした登録支援機関を、行政書士がサイドビジネスとして運営している場合もある。その一部は、入管などに提出する書類作成は行政書士として請け負う(登録支援機関が特定技能の書類作成をするのは違法)が、登録支援機関としての仕事の多くは現場に丸投げする。そのぶん支援委託料を値下げして、100人、200人と"支援"する外国人を増やすのだ。
そして、登録支援機関の中には、外国人介護士を現在在籍する施設からほかの介護施設にあっせんすることで、儲けようとするところもある。
北陸地方のある介護施設の職員Cさんは嘆息する。
「登録支援機関には、特定技能の子たちが母国語で相談を受けられるようにとの配慮から、外国人スタッフが在籍していることが多い。
ところが、うちは委託していた登録支援機関の外国人スタッフに介護士たちを引き抜かれたんです。相談のたびに『もっといい給料の職場がある』とそそのかしていたらしい。どうも大阪の派遣会社と組んであっせんを働きかけていたみたいで、この外国人スタッフには、派遣会社からリベートが支払われたそうです」
外国人介護士への"誘惑"にはSNSでの宣伝もひと役買っている。インドネシア人介護士のDさんはこう話す。
「日本に住むアジア系のインフルエンサーがいます。
いわゆる「案件」である。インフルエンサーは、転職をあおるようなショート動画をSNSにアップし、その情報に興味を持った外国人とDMでやりとりをして、登録支援機関に紹介する、というのが仕事の一連の流れだ。
「登録支援機関からインフルエンサーには、1人当たりの紹介料として2万~3万円が支払われるそうです。
悪質なインフルエンサーは、転職した外国人からもお金を取ります。『あなたは私の紹介でこれからいい給料をもらうんだから当然でしょう』と言いくるめるらしく、ひどいケースだと10万円から15万円を徴収することもあるそうです」
TikTokやインスタグラムには、外国人向けに日本での介護の仕事を紹介するだけでなく、時には現地の外国人に転職をあおるようなショート動画も
さらに悪質な事例もある。東南アジアで送り出し機関を運営する日本人のEさんはこう言う。
「転職を考えている外国人を『お祝い金』といった名目のお金で誘う登録支援機関もあり、だいたい10万円といわれています。実際にはお金の出どころは転職先の介護施設で、後に支援委託料に上乗せされる仕組みです」
しかし、これは不健全な転職を誘発し、人材サービスの質が低下するとして職業安定法によって禁止されている。違反すれば事業者許可の取り消しもありえる。
「だから募集要項には明記しません。面接などのときに口頭で本人に伝えるんです。
もちろんこうしたお金も介護施設が負担する。それほどまでに介護業界は人がいないのだ。
【「神への冒涜」とまで言われて......】「だったら、初めから高い給料を出して日本人を雇用すればいい」という意見もあるかもしれない。しかし、介護業界は提供する介護サービスの報酬が国によって決められている。施設が独自に報酬を設定するわけにはいかない。
つまり収入の上限が見えているし、その額は極めて安い。もし介護サービスを値上げしようとすれば、国民が支払う介護保険料が上がる。いわば国民の負担を、介護施設が肩代わりしているといえるのだ。
しかも、介護施設には「人員配置基準」がある。例えば特別養護老人ホームなら、入居者3人に対し最低1人の介護職員を配置しなくてはならず、多くのスタッフを必要とし、そのぶん、ひとりひとりの給料は低くなる。そのため、日本人は敬遠し、結局は外国人頼み......という構造があるのだ。
そして、外国人の獲得競争が激化すればいさかいも起きる。三重県の介護施設から特定技能のインドネシア人女性3人を引き抜いた、東京にある登録支援機関のFさんは語る。
「その介護施設に『転職に必要な書類を送ってほしい』と頼みましたが無視されました。スタッフを引き抜かれたことを根に持っているのでしょう」
引き抜きは海外の送り出し機関にとっても重大事だ。
「インドネシア側の送り出し機関から彼女たちに執拗(しつよう)に連絡が来るんです。『おまえたちを日本に遣わせてくれた神への冒涜(ぼうとく)だ』『おまえの親を呼び出して、不義理なことをしていると話すぞ』とか。ほとんど脅迫です。彼女たち、おびえて泣いていました」
送り出し機関からすれば、提携先の登録支援機関に送った人材が転職してしまったら今後のビジネスに支障が出る。だから必死に引き留めるのだ。
その送り出し機関があるアジア各国も、争奪戦の舞台となっている。前出のEさんはあきれながら言う。
外国人介護士は「より良い給料」だけで働く施設を決めているわけではない(撮影/室橋裕和)
「インドネシアの首都ジャカルタの日本人向け歓楽街『ブロックM』には、日本から来た介護関係の登録支援機関や派遣会社の人々が本当に多い。人材の面接ついでに夜遊びもしていく」
Eさんによると、フィリピンでは違法な人材募集が横行しているという。
「日本の派遣会社がフィリピン国内に日本語学校を設立し、介護や飲食、建設など特定技能の人材を日本に送っている。しかし、ベトナムやインドネシアでは日本語学校が送り出し機関を兼ねているところが多いものの、フィリピンでは認められていません。教育機関が就職活動をさせてはならないという法律があるからです。その学校は、日本で働けることをうたい文句に生徒を集めており、業界内では問題視されています」
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高齢化が進む日本では今年すでに25万人の介護職員が不足している。この数字は2040年に57万人にまで膨れ上がると厚生労働省は試算した。今後、介護業界で外国人の争奪戦は避けられないだろう。
しかし、「外国人だってお金だけで動くわけじゃない」と前出のインドネシア人Dさんは言う。
「働きやすい職場か、人間関係は円滑か、キャリアパスを考えてくれるのか、住む所は快適なのか。少なくとも私の場合、待遇はその次です」
外国人も日本人と同じ大事な社員として扱えば、そうそう転職するものではない。都会よりも給料が安い地方であっても、そこに居心地の良さを感じて10年以上も同じ施設で働き続け、リーダーとして日本人を取りまとめるまでに成長した外国人も珍しくはないのだ。
●室橋裕和 Hirokazu MUROHASHI
1974年生まれ。週刊誌記者を経てタイに移住。現地発の日本語情報誌で、10年にわたりタイとその周辺国を取材する。帰国後は「アジアに生きる日本人」「日本に生きるアジア人」をテーマにジャーナリスト、編集者として活動。著書に『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』(角川文庫)、『ルポ コロナ禍の移民たち』(明石書店)、『カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」』(集英社新書)など
取材・文/室橋裕和
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