ひろゆき、篠田謙一(国立科学博物館長)に人類の歴史を学ぶ⑭「...の画像はこちら >>

「全然回りません。年間の運営費が約40億円、入場料その他の収入は約10億円です」と語る篠田謙一氏

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。

分子人類学者で国立科学博物館長の篠田謙一先生をお迎えしての第14回です。

今回は博物館の裏側についての話。運営はどうしているのか? 何に一番お金がかかっているのか? 今、困っているのはなんなのか?などを聞きました。

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ひろゆき(以下、ひろ) 今回は国立科学博物館(科博)の裏側について聞いてもいいですか?

篠田謙一(以下、篠田) できる限りお答えしますが、お手柔らかにお願いします(笑)。

ひろ ぶっちゃけ、入場料だけで回ってるんですか?

篠田 全然回りません。年間の運営費が約40億円で、入場料その他の収入は約10億円。差額の30億円程度は国からの運営費交付金です。

ひろ やっぱり入場料だけじゃ、賄えないんですね。

篠田 そもそもの話をすると、公立の博物館は資料の収集・保管と研究をする機関で、原則としてお金を取らない。公共のための施設は万人がアクセスできることが前提にあるためです。ただし、入館料を取ること自体は法律で認められています。一方、図書館法では明確に原則無料が規定されているので、公立の図書館は無料です。

ひろ なるほど。でも図書館は毎年新しい本を買わなきゃいけないから、むしろお金がかかりませんか? だいぶ乱暴な言い方ですが、博物館は例えば恐竜の化石を置いておけば、ずっとお客さんが来るじゃないですか。

篠田 同じものを長期にわたって展示していて博物館として成立するかといったら、少なくとも科博は無理です。科学は日々進歩していますから。さらに、うちは上野の展示場には約2万点の標本が展示されていますが、実際に所蔵しているのは約500万点です。その中から展示に適したものを出しているんです。

ひろ そういえば最近、徳川家の関連資料の受け入れを東京国立博物館が検討中というニュースがありましたが、そうやってどんどん収蔵品が増えていくと、ランニングコストも上がり続けますよね。

篠田 そのとおりです。

ひろ 博物館って断捨離しないじゃないですか。

篠田 しませんね(笑)。だから新しい収蔵庫を造るしかないんです。特に植物や昆虫標本は温湿度管理がものすごく重要なので、光熱費が莫大にかかります。

科博は茨城県つくば市に収蔵庫を持っているんですが、そこの光熱費のほうが上野の本館より高いんですよ。

ひろ そうなんですか。

篠田 しかも、それを半永久的に続けなきゃいけない。

ひろ むしろ、収蔵庫を公開したほうが、来場者にはインパクトがあるんじゃないですか。

篠田 人を入れると一緒にゴミや虫が入ってきてしまう危険性があります。特に虫が一番厄介で、標本を食べてしまう。だから保管には密閉状態でなるべく外気に触れさせないほうがいい。

ひろ 一般公開はできないけれど、やたらとコストはかかるわけですね。科博の大きな収入といえば、入館料とあとはグッズ収入くらいですか?

篠田 グッズ収入もそれほど大きくはないですから、経営という視点で見ると、博物館は構造的に厳しいんです。

ひろ そういえば、科博は2023年にクラウドファンディングを成功させて話題になりましたよね。

篠田 おかげさまで約9億円もの支援が集まって、私たちも予想以上の反響に驚きました。

ひろ どんな事情があったんですか?

篠田 大きかったのは光熱費の問題です。

コロナ禍で入館者が激減し、一時は入場料収入が落ち込みました。そこで運営費が底をつきかけたところに、今度はウクライナ戦争でエネルギー価格が倍に跳ね上がった。もう立ち行かないということで、クラウドファンディングに踏み切ったんです。

ひろ とはいえ、それは一時的なカンフル剤であって、長期的な構造問題は解決していませんよね。

篠田 おっしゃるとおりです。「またクラファンやります」なんて言ったら、さすがに見放されるでしょうしね。

ひろ 一方で、結婚式の前撮りとかユニークな取り組みもやっていますよね。

篠田 けっこう人気があるんです。

ひろ 前撮り以外にも撮影のニーズはありそうですよね。で、今調べてみたら撮影料は約5万円なんですね。もっと値上げしても払う人は多いんじゃないですか?

篠田 今はまず使っていただこうという観点で運営しているんです。そのあたりが、ひろゆきさんのようなビジネスをやっている方からすれば「経営感覚がない」と言われてしまいそうなのですが。

ひろ 立場的に難しいことも多いですよね。

篠田 ですから、最終的には入館料の値上げという話も出てくるでしょう。でも、博物館を運営している人間としては、やっぱりいろんな方に来ていただきたいんです。

ひろ すると、値上げも難しそうですね。

篠田 博物館の入館料を巡っては、ふたつの考え方がせめぎ合っています。入館料を安くしてたくさんの人に来てもらうか、高くして人数を絞って収益を上げるか。

ひろ もっとお金を稼ぐやり方はいくらでもありそうですけどね。

篠田 そこがなかなか難しいところなんですよ。研究熱心で多くの人に見てほしいという熱い思いを持ったスタッフが多いので、あまりやりすぎると「金を稼ぐためにやってるんじゃない!」と言われて、総スカンです(笑)。

ひろ 例えば、映画『ナイト ミュージアム』的な博物館に泊まれるイベントをやれば1泊20万円でも来る人はいると思いますけど。

篠田 ニーズはありますよね。でも、寝袋なんか持って宿泊させるとホテルや旅館と同じ扱いになって、旅館業法に抵触するんです。

ひろ じゃあ、22時くらいまでの夜間イベントにするとか?

篠田 小さい子供はその時間になると泊まりたがるんです。「帰りたくない」と言って(笑)。

ひろ 確かに(笑)。じゃあ、控室で待機という建てつけにすれば、「宿泊に対してお金をもらっているわけじゃない」という形にできるんじゃないですか。

篠田 そういう発想力のある人が組織の中にいてくれれば、いろんなことができるとは思います。ただ、仮にそういう人材を採用しても、組織の論理で、数年で異動させなければならない。小規模で役所的な組織は経営の専門家が育ちにくいんですよ。おそらく全国の博物館が同じ悩みを抱えていると思います。

ひろ なるほど。でも、科博がちゃんと収益を上げるためのプロジェクトがあるなら、僕は全然お手伝いしますよ。

篠田 それは心強いです。私たちも「研究だけやっていればいい」という時代ではないということは認識しています。

科博の標本や研究成果は国民の財産ですから、それを守り続けるために、外部の知恵をお借りすることはとても大事だと思っています。

ひろ 僕も子供の頃からちょこちょこ通っている場所なので、絶対になくなってほしくないんですよ。そういう思いの人は少なくないはずです。

篠田 ありがとうございます。博物館というのは、過去を未来につなぐ場所です。そのバトンを途切れさせないために、私たちもあらゆる可能性を模索していきたいと思っています。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など 

■篠田謙一(Kenichi SHINODA) 
1955年生まれ。分子人類学者。国立科学博物館長。主な著書に『人類の起源』(中公新書)、『日本人になった祖先たち』(NHKブックス)など。2026年2月23日まで、東京・上野の国立科学博物館では特別展「大絶滅展」が開催中

構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾

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