「電気国家」中国の闇、そして野望。世界的な石油危機だけど、隣...の画像はこちら >>

浙江省にある屋上分散型の大規模な太陽光発電施設

ホルムズ海峡の封鎖で、エネルギー資源の"石油頼り"に疑問符が渦巻いている。そんな中、再生可能エネルギーで世界トップとなった中国の存在は無視できなくなった。

この国が世界の電気を牛耳る時代が目の前に!? 中国のIT事情を取材するライター・山谷剛史氏が"再エネ大国"中国の今と、この先をガッツリ解説する!

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【エネルギー危機で再び高まる脱石油の機運】

2026年、イランを巡る軍事的緊張の高まりは、世界にエネルギー危機の影を落とした。ホルムズ海峡を通過する原油輸送への懸念が強まり、原油価格は上昇。それは物流や電力のコストを押し上げ、各国は石油の供給が途絶するリスクへの備えを迫られている。

浮き彫りになったのは、世界経済がいまだに石油に強く依存しているという現実だ。戦争などの地政学リスクが発生すれば、エネルギー供給はいとも簡単に不安定になる。

そんな中、世界で改めて高まりつつあるのは〝脱石油〟の機運だ。

その兆候は、ロシアのウクライナ侵攻でもあった。ロシアが誰が見てもわかる「ならず者国家」となるや、もともとロシアからの原油輸入にかなり依存していた欧州は、その依存度を大幅に減らし、エネルギー安全保障の名の下、再生可能エネルギー(以下、再エネ)や「ESS(エネルギー蓄電システム)」という巨大なバッテリーへの投資を進めた。

住宅や工場の屋根に設置する太陽光発電と蓄電池は、脱炭素を目指した単なる環境対策ではなく、「自らエネルギーを確保する手段」として現実的な選択肢となりつつあった。

アジアに目を向けると、ベトナムでは電動二輪車をはじめとした、ガソリンに依存しない移動手段が急速に浸透しつつある。

ベトナムEVメーカー「ビンファスト」は、同社の電動バイクやEVについて、「一定期間、電動バイクのバッテリー交換を無料で提供」「一定期間、車両の充電を無料化」といったキャンペーンを打ち、EV化を推し進めている。

世界の潮流からはだいぶ後れを取っているが、日本においても稼ぎ頭の自動車産業でガソリン車からEVへのシフトが少しずつ進んでいる。

ただ、重要なのは、電動化を進める理由が変わりつつある点だ。例えば自動車のEV化は、従来は環境問題として語られてきたが、現在ではエネルギー安全保障の観点から不可避の流れと認識され始めている。

つまり世界では、「どうエコに発電するか」だけでなく、「電気で動くかどうか」そのものが重視されつつあるのだ。

【何をするにも「電気」が必要な世界を掌握】

ここで考えなければならないことがある。それは、「電気で動く社会の基盤を誰がコントロールするのか」だ。

どうにも中国が世界の電気インフラを握りそうなのである。

近年、中国では5年ごとの社会と経済発展の基本方針を決める「五カ年計画」で、太陽光・電池・NEV(新エネルギー車)を戦略的産業として位置づけ、研究開発補助や低利融資、産業基金、工業団地での優遇措置などを総動員してきた。

そのイケイケぶりは相当なもので、例えば税制においては、ESSなどの研究開発の補助として、「2倍控除」を導入した。これは「研究開発費に1億元(約23億円)をかければ2億元(約46億円)が還付される」という仕組み。

あまりに度が過ぎた産業振興だと海外からも批判を受けたが、「輸出還付制度」(製品輸出の際に国内で仕入れた原材料などに対し支払った、日本の消費税に当たる「増値税」を還付する制度。今月一部廃止)も相まって、企業の製品開発をブーストさせた。

そのかいあってか、ここ十数年で、太陽光パネル、リチウム電池、ESS、風力タービン、モーター、超高圧送電など電気インフラ向け製品において、中国は世界最大規模の生産体制の構築に成功した。

例えばESSにおいては、中国勢が世界の約90%のシェアを占めるほどになった。原料から最終製品までを一貫して国内で生産する垂直統合型のサプライチェーンを確立し、コストの安さと供給量の両面で世界市場をリードする中国は、もはや単なる製造大国ではなく、「電気で動く世界の基盤」を供給する存在へと変貌したのである。

中国製の電気設備が圧倒的に安ければ、どの国も中国製を選択するようになる。世界で普及した先には、中国製品の基盤の上に各国のエネルギーやモビリティや産業システムが乗っかり、中国政府は世界で商業的利益と影響力を手にすることになる。これに対抗できるプレイヤーは、現時点で存在しないと言っていいだろう。

中国はたとえ鎖国しても世界に追いつけるよう、ロボットでもAIでもEVでも電気設備でも、西側先進国に負けない最先端の技術と生産体制を整えるべきだという考えを持ち、行動してきた。その成果が、石油エネルギーの安定性が脆弱なものであることがわかった今、改めて世界で注目されるようになったのだ。

【クリーンエネルギーを支えているのは?】

ただ、中国のなりふり構わぬ手法にはやはり問題がある。

例えば中央政府は、地方政府や企業に対して再エネの厳しい導入目標を課した。それにより表向きは普及が加速したが、その一方で現場では技術が成熟しないまま、削ってはいけない部分までコストカットが行なわれている。

その結果、起きたのが「すぐに劣化した」「安全性が不十分で爆発した」といった品質問題だ。また、「各企業が安値を争いすぎて共倒れ」といった話もある。

補助金や計画達成を優先して建設されたものの、ビジネスとして成立せず稼働が止まった「ゾンビESS」や「ゾンビ太陽光発電所」といったハリボテ案件も数知れない。

現在の中国では上海や北京などの都市が集中する東部エリア(沿岸部)の電力需要を、内モンゴル自治区、新疆ウイグル自治区などがある西部エリアで作られる電力で賄う、という構図がある。

特に再エネに関して、西部は日照時間が長く、砂漠地帯といった太陽光パネルなどを大量設置できる広大な土地があるため、大規模な開発が進められてきた。

しかし、中国は世界屈指の広い国だ。約5000kmも離れている東西を電力供給網でつなぐのも並大抵のことではなく、現地では送電網の建設の遅れが発生している。

これらによって「発電所を建設したものの、電力を届けることができないから稼働できない」事態が続発。この計画性のなさにより、大量に建設した発電設備の一定割合がゾンビ化しているのだ。

さらには建設後まもなく故障したが、運営主体が撤退して誰もメンテナンスしない農村の屋根ソーラーといった、「建ったが生かされない再エネ施設」もある。そして、それらのほぼゾンビ化した施設も、統計上は立派な再エネ容量としてカウントされているのがトホホなところだ。

さて、中国の再エネ関連で表面化したのは、こういった〝B級ニュース〟だけではない。新疆ウイグル自治区は、太陽光発電で使うポリシリコンの一大生産拠点なのだが、そこではウイグル人の強制労働や拘禁プログラムと結びついた生産が指摘され、国際機関やNGO、各国政府から厳しい目を向けられている。

電池の原材料となるコバルトやニッケル、リチウムの採掘でも批判がある。

特にコンゴ民主共和国のコバルト採掘における児童労働や過酷な労働環境への批判は大きい。クリーンエネルギーが、「汚れた仕事」に支えられているという皮肉は、今後ますます大きな国際政治の争点になっていくだろう。

欧米では、こうした人権リスクを理由に、中国製太陽光パネルや電池に対する輸入規制やトレーサビリティ(追跡可能性)要件を強める動きが出ている。エネルギー安全保障と人権・倫理をどう両立させるのか――これは、今後数年で各国が直面するジレンマになるだろう。

【電気がカギを握る世界のAI競争】

再エネの圧倒的な生産量と消費量、それを支えるインフラ、バッテリーの開発など、石油に頼らない電気技術で世界のトップランナーとなった中国は「電気国家」と呼ばれている。

そして、「電気国家」としての中国はAIの分野で世界をリードするだろう。AIは、便利の代償として、ケタ違いの電気を消費するからだ。

AIは、1990年代後半からの「パソコンでインターネットにつながる」、2010年代の「スマートフォンだけでなく、どんなモノもインターネットにつながる」に続く、IT社会の大きな転換になるといわれていて、中国にとっては、アメリカに後れを取ることが許されない重大分野だ。

さすがというべきかアメリカが「ChatGPT」など数々の製品を出せば、中国からも「DeepSeek」をはじめとしたさまざまな製品がリリースされ、アメリカのすぐ後を中国が追っている。

海外のサイトにアクセスすることを規制している〝インターネット鎖国〟の中国は、アメリカの生成AIトレンドに追随し、素早く独自の生成エコシステムを構築し、それを海外にも売り込んでいった。

米中企業が製品を研究開発し、米中を含む各国の先進的なユーザーが米中のサービスを利用している――それが世界とITの現在地だ。

しかし、先述したようにAIは大変な電気食いだ。

生成AIを動かすのに必要なGPU(画像処理装置)の電力消費は急増し、これらのIT機器が収容された大規模なデータセンターは、一施設だけでも都市規模の電力を消費するともいわれる。AIはこれまでのソフトウエアを超えた、「電力を大量に消費する産業インフラ」へと変化しているとも言える。

AIを伴う競争力というのは、それを支える電力と計算資源(AIなどのデジタル処理に必要なコンピューターの処理能力、ストレージ、ネットワークなどの基盤技術のこと)の確保に大きく依存するようになっている。

言い換えれば、AI競争に勝つためには、使いやすい新サービスをリリースするだけでなく、データセンターの計算力が必要で、その実現には大量の電力が欠かせない。そのため、〝AI覇権〟の趨勢は電力を確保する能力によっても左右される、という時代になったのだ。

この点において、中国の戦略は明確だ。それは再エネとデータセンターを一体的に整備し、「大量の電力を確保しながら、同時に高い計算力を発揮する」モデルを構築することだ。

発電→送電→蓄電→AI計算という一連のチェーンの自国内完結を目指し、電力供給が豊富な地域にデータセンターを配置、太陽光や水力や風力と直結させることで、コストと供給の両面で優位性を確保しようとしている。

実際、中国には、屋根に無数の太陽光パネルが敷かれたデータセンターは数知れず、三峡ダム(湖北省)が発電した電力を活用したデータセンターなんてものもある。

【世界の「中国依存」は避けられない?】

これは「電気国家」として自国の再エネと電池、送電インフラをフルに生かしながら、AIという次世代のデジタル産業を動かす基盤まで握ろうとする動きだ。

そして、このモデルは海外にも展開されつつある。中国企業は、太陽光発電とESSとデータセンターを組み合わせたソリューションを、新興国を中心に世界で提供しようとしている。

これが実現すれば、エネルギーとデジタルの両方の基盤を中国に依存する構造が生まれる可能性がある。

再エネの発電設備の輸出は、EV普及の足がかりというよりは、むしろ電気と計算資源という21世紀の産業基盤を同時に握る戦略である。

石油中心のエネルギー体制から、電力と電池、そして計算力を軸とした新たな構造への移行は、すでに不可逆的に進んでいる。

世界各国が再エネ・蓄電の導入を加速するとすれば、その相当部分は中国製のパネルと電池・ESSに依存することになる。石油の地政学リスクを嫌う国が増えれば増えるほど、再エネと蓄電に資金と政策が向かい、そのうちのかなりの部分を中国企業が受注する、という構図が見えてくる。

そしてその延長線上で、電気と計算資源の両方を握る「電気国家」として台頭した中国が、次の時代を主導することになるだろう。

●山谷剛史(やまや・たけし) 
1976年生まれ、東京都出身。中国アジアITジャーナリスト。2002年に中国雲南省に移住し、日本メディア向けに中国事情の紹介記事の執筆を開始。現在は日本に居住。『中国のインターネット史』(星海社新書)など著作多数。新著は日本国内の移民文化をディープに掘り下げた『異国飯100倍お楽しみマニュアル』(星海社新書)。

取材・文/山谷剛史 写真/共同通信社

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