2024年末に恒例の餅つき行事に参加した六代目山口組の司忍組長(中央)とナンバー2の高山清司相談役
国内唯一の特定危険指定暴力団・工藤会が、総裁としてトップに君臨する野村悟被告の引退を全国の他団体に通知した。相次ぐ市民襲撃事件の首謀者と目され、地元・北九州のみならず全国のヤクザ組織にその名を轟(とどろ)かせた野村被告の引退の背景に、分裂抗争にけりをつけて改めて全国侵攻をうかがう山口組への接近の可能性が業界内では指摘されている。
4件の市民襲撃事件を指示したとして、殺人や組織犯罪処罰法違反などの罪に問われている野村被告。工藤会担当の元刑事や、局部の増大手術や脱毛を担当した女性看護師を襲撃するなど無軌道な暴力を繰り返した結果、2014年に逮捕。21年の一審判決では、指定暴力団トップに対して初となる死刑が言い渡された。だが、23年の控訴審判決では1998年の元漁協組合長射殺事件への関与を認めず、無期懲役に減刑され、現在は上告して最高裁判決を待つ身だ。
【連日の面会、親族の世話が途絶】社会復帰が絶望視される野村被告の去就は、常に注目されてきた。控訴審の法廷で野村被告は、「総裁を辞め、会との関係を断ち切る」と言い切ったものの、拘留先の福岡拘置所には連日、工藤会組員が面会や差し入れに訪れ、組織内での影響力は揺らいでいないように思われていた。実話誌記者が語る。
「福岡拘置所には毎日のように工藤会幹部が訪れ、お付きの組員が駐車場でたむろするのが日常的な光景でした。野村被告のもとには組織内の情報が伝達されていて、幹部の登用や処分といった人事は、野村被告の了解を得ていたとみられます。
また、組員は野村被告の親族に対しても、送迎など身の回りの世話をしていたようで、野村被告の存在感は健在でした。法廷での引退発言は、死刑を回避するための方便だと認識していたので、今回の引退情報は率直に驚きました。他組織に通知を出した以上、あとで撤回するわけにはいかないので、正式な引退となりましょう」(実話誌記者)
高裁での無期懲役判決を受けて上告した工藤会の野村悟総裁の審理が行われる最高裁判所
九州最大の暴力団だった工藤会を四半世紀近くにもわたって支配してきた野村被告の引退。
「野村被告の引退は3月16日の執行部の会議で決まり、その日のうちに引退の通知がFAXなどで外部団体に伝達された。翌17日に幹部らが野村被告に面会して、引退を納得させたという。これまでの面会でどこまで引退の話が進んでいたのかは分からないが、工藤会を恐怖で支配した野村被告に対して、その引退を事後報告としたのだから驚いた。
社会不在になって10年以上が経過し、獄死が確実視されて、さすがに野村被告の影響力が低下したのだろう。野村被告と工藤会との関係を切ることで、裁判の好転を狙うといったことが表向きの理由のようだが、組員が減少して組織が先細る中で、野村被告や親族の世話をするのが負担になっていたようだ。
また、一連の事件を指揮したとされる野村被告と距離を置けば、特定危険指定の解除が早まるのではという思惑もあったのではないか。実際、引退通知が出てからは、組員による野村被告への面会や親族の送迎が途絶えた」(捜査関係者)
【特定危険指定解除が目下の最大目標】野村被告が引退した工藤会で危惧されるのが、山口組への接近だ。山口組と工藤会を巡っては、20年近くにわたって若頭を務めた高山清司相談役が野村被告に2回面会して、2000万円を差し入れたことが話題を呼んだ。両者の関係性について、暴力団関係者が語る。
「これまで"小倉モンロー主義"で他組織の侵攻を阻んできた工藤会だが、市民襲撃を繰り返して当局の怒りを買いまくってきただけに、特定危険指定暴力団の解除のメドが立たない。事務所に組員が集まることができず、警察の徹底マークが続き、好転材料は何もない。
昨年4月に神戸山口組やその派生組織との抗争終結宣言を出して、抗争に一区切りついた山口組は、再び全国侵攻の野望をたぎらせている。といっても、いまのご時世で抗争をしかけるのはハードルが高く、山口組の関係者をトップとして送り込むことで平和的に吸収するのが最近のトレンドだ。
今年3月に、東京の東声会の会長を山口組の中核組織である弘道会の幹部が襲名した。一昨年にも、京都の老舗組織の会津小鉄のトップに山口組の直参が就いた。千葉を本拠とする組織に対しての合併話も噂されている。
地方の独立組織はどこも組員とシノギが減って、組織を牽引するだけの人材が見つからないというのが現状。山口組の特に弘道会の幹部が「天下り」すれば、彼らは金を持っているし、他組織への睨(にら)みが利く。引退する野村総裁を含めて最高幹部が軒並み、無期懲役判決を打たれている工藤会は、"M&A"の相手先としてはうってつけなのではないか」(暴力団関係者)
そのうえで、両者の融合によって生まれる組織の意味を次のように説く。
「警察のターゲットとされやすく、また内部の締め付けの厳しいヤクザには若い不良が集まらず、半グレやトクリュウへと流れていく。実際、福岡では16年に、半グレによる7億円金塊強盗事件などが起きているし、外国人犯罪グループの跋扈(ばっこ)も強まっている。
ヤクザは、組織に入っていない者が悪さしてカネを稼ぐのは面白くないし、結局のところ毎月の会費を上納し、いざとなれば組織のためにカラダをかける組員がどれだけいるかが問われる。
野村被告の引退が、新たな社会の脅威へと変貌する転換点となるのか。今後の工藤会の動向が注目される。
文/大木健一 写真/時事通信社、photo-ac.com
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