日本経済を破滅させる「六悪人」を斬る! サナエノミクスも金融...の画像はこちら >>

高市早苗総理は「責任ある積極財政」を掲げ、17の重点分野への成長投資や食品への消費減税などを進めようとしている

インフレが定着し、30年続いたデフレは脱却したと言ってよさそうだ。しかし脱却できなかった過去を、誰も清算していないのではないか!? 近著で失われた30年を冷静に分析し、鋭い切れ味で真犯人たちをぶった斬った経済学者が語る、日本経済の"失敗の本質"!!

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【失われた30年をリセットする!】

約40年ぶりといわれたインフレもはや4年目となり、統計上では給料もそれなりに上がってきた。

その中で高市早苗総理は「責任ある積極財政」の実行を宣言。産業振興と安全保障、景気浮揚の三兎(さんと)を追う「サナエノミクス」を推し進めようとしている。

こうした状況に対して、ひとりの経済学者が行なった異議申し立てが静かに注目を集めている。東京都立大学経済経営学部で教授を務める脇田成(しげる)氏の新刊『いまどうするか日本経済』から、少し長くなるが引用しよう。

「あまりに失敗続きで日本経済という患者の容態が悪化してきたのに、政策当局は『過失はなかった』の一点張りです。これまでの治療が失敗したことを説明せず、手術が必要と出し抜けに言う医者に似ています。(略)治療ミスはうやむやになってしまい、これまでの誤診はいまさら言えない状況にあるのです。

この『いまさら言えない』状況は早くリセットしなくてはいけません」

思い返せば、デフレ経済の長期化による「失われた30年」からの脱却は、コロナ禍とウクライナ侵攻のダブルショックでもたらされたもの。要はエネルギーや原材料のコストアップの結果で、日本政府や日銀の政策が奏功したわけではない。

ところがこの30年を誰も真摯(しんし)に検証していないし、政策担当者が責任を取る気配もまったくない。だから高市政権の経済政策も、日銀の金融政策も、今われわれが直面している物価高や賃金安に対して完全に的を外していると脇田氏は指弾する。

果たして誰が悪かったのか? そしてどうすればよかったか? その答えを求め、脇田氏を訪ねた。

――日本は「失われた30年」を自力で抜け出すことができませんでした。その真犯人はいったい誰ですか?

脇田 国や日銀、専門家の責任は大きいと思いますが、まずは経済状況の正しい振り返りから始めましょう。GDPの停滞が始まったのは1997年なので、実際には「失われた四半世紀」です。その97年に何があったのかといえば、金融危機です。

日本経済を破滅させる「六悪人」を斬る! サナエノミクスも金融政策も的外れ!!
日本銀行の植田和男総裁は長らく続くマイナス金利の解除を行なったが、直近の金融政策決定会合では利上げを見送った

日本銀行の植田和男総裁は長らく続くマイナス金利の解除を行なったが、直近の金融政策決定会合では利上げを見送った

――「社員は悪くありませんから!」と社長が大号泣した、山一證券の破綻がありました。

脇田 北海道拓殖銀行も同年に破綻し、翌98年には日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の破綻も相次いで、GDPは2年連続のマイナスに沈みます。

企業にとっては、景気はどん底だけど人を切って急場をしのぐことは許されない、しかしながら銀行が傷んでいるので資金繰りを頼るのも厳しいという非常事態に追い込まれました。

【諸悪の根源は消費の停滞】

――そのとき、経営者はどうしたんですか?

脇田 労働組合と手を結び、バブル崩壊後も続いていた賃上げをストップ。利益をひたすら社内にため込む体質へと変貌して、極端な防衛姿勢を固めたのです。結果、国内の資金の流れが滞り、家計は収入が増えないのでお金を使えない。

こうして、経済の最大エンジンである消費が停滞してしまいました。これこそが、日本経済における諸悪の根源です。

――賃上げはいまだにインフレに追いついていませんから、30年越しの課題を生んでしまったということですね。すると"悪人"の筆頭格は、日本企業ということに......?

脇田 この段階では、企業はバブルの撤退戦に苦しみながら、社会の要請である雇用維持に努め、国民生活の底が抜けるのを防いだ面はあります。

やはり、金融危機を抜けた後でも企業の貯蓄増大をほったらかし、消費停滞を定着させてしまった政府が、第一の悪人として責められるべきでしょう。

――なるほど。するとこのとき、政府はどうすればよかった?

脇田 資金の流れをきちんと見て、できるだけ早く手を打つべきでした。それから15年ほどたち、安倍政権に至ってようやく賃上げに対する企業への税優遇が始まります。そして同時期に、資産運用に対する税優遇制度のNISAを創設。企業から家計への、賃金以外の利益還元ルートである株式投資を強くサポートしています。

当時の政府は、こうしたお金の流れを正す政策に早々に手をつけることができなかったばかりか、よけいなことばかりに血道を上げていた。小泉政権以降の10年弱、バズりにバズった「構造改革」です。

日本経済を破滅させる「六悪人」を斬る! サナエノミクスも金融政策も的外れ!!
小泉純一郎元首相は「聖域なき構造改革」を掲げ、郵政民営化や医療・農業・教育分野への規制緩和を進めた

小泉純一郎元首相は「聖域なき構造改革」を掲げ、郵政民営化や医療・農業・教育分野への規制緩和を進めた

――言葉は記憶にありますが、中身がなんだったのかは結局、よくわかりません。

脇田 喫緊の課題である、バブル崩壊で巨額の貸し倒れを背負った銀行の救済には成功しました。

しかしその後は、政府は海外の好景気に乗っかって財政再建をしていただけ。郵政や道路公団の民営化などは環境整備に過ぎず、本丸の国民生活は気にかけてもいませんでした。

そしてこの間、企業は業績絶好調だったトヨタ自動車の「ベースアップゼロ宣言」に一斉になびき、賃金を抑制して海外投資に走り出しました。

――企業は儲かっているのにその金はわざわざよそに使い、またもや政府は傍観だったってことか。

脇田 国の経済を引きで見ると、基本的には家計と企業と政府の三者間でお金が動く構図です。それが後二者がお金を使わないのだから、家計はますます苦しくなるばかり。ここで企業を第二の悪人認定せざるをえなくなりました。

日本経済を破滅させる「六悪人」を斬る! サナエノミクスも金融政策も的外れ!!
トヨタ自動車は2002年、経常利益が1兆円を突破。ところが当時の奥田碩(ひろし)会長はベースアップゼロに踏み切った

トヨタ自動車は2002年、経常利益が1兆円を突破。ところが当時の奥田碩(ひろし)会長はベースアップゼロに踏み切った

――なぜこんなことがまかり通っていたのか、シンプルに不思議なんですが?

脇田 話は単純で、国民は状況がよくわからなかったので、文句が言えなかった。トヨタをはじめとする財界や、政府と親しい企業がこぞって大スポンサーだったマスコミが、正面切って批判できなかったのです。すなわち、第三の悪人は新聞やテレビなどの大手マスコミです。

【本当に有効な経済政策とは?】

脇田 そして第四の悪人は、経済学者です。

ここは批判にぐっと力が入ってしまいますが、そもそも、国内の資金の流れが悪くなっていたことも、企業が儲かっている、つまり生産性は上がっているのに賃上げをしていなかったことも、知っていた経済学者は少なくなかった。でも、本気で待ったをかけようとした人はごく少数でした。

――みんな知ってて黙ってたってことですか!?

脇田 そうです。偉い先生が政治家や経済官庁とつるんでいるので、ポストが欲しい、偉くなりたい学者は、政策への異議申し立てを真剣にすることはなかった。

さらに世代が下ると、大学でポストを得るには米国の有名学術誌に論文を載せなければならなくなったので、日本の経済事情なんて構いやしないわけです。どうせ論文にしたって載らないから。

こうして経済学者が日本経済を真面目に考えなくなった帰結が、ノーベル賞お墨付きのリフレ政策なんです。

――2013年に始まった異次元金融緩和、つまりアベノミクスですね。

脇田 景気後退や経済ショックが起こったときに、金融を緩和するのは当然のこと。でも、13年にはリーマン・ショックで傷んだ経済が、自律回復の軌道に乗っていました。

それなのにむやみやたらと金融緩和を10年も続けて、経済がものすごく成長したかといえばそうでもない。低金利が続いた結果、株だけが上がって経済のエンジンである消費は伸びないままでした。

日本経済を破滅させる「六悪人」を斬る! サナエノミクスも金融政策も的外れ!!
2013年に始まったアベノミクスは機動的な財政出動と黒田東彦(はるひこ)・前日銀総裁(左)による異次元緩和を組み合わせたもので、非伝統的な金融政策を採用していた

2013年に始まったアベノミクスは機動的な財政出動と黒田東彦(はるひこ)・前日銀総裁(左)による異次元緩和を組み合わせたもので、非伝統的な金融政策を採用していた

――効果の乏しい政策を長く続けてしまう病が、またしても繰り返されてしまったと。

脇田 プレイヤーの意識も、利益構造も何も変わっていませんから、そうなりますよね。

そしてこの間、一貫して財政危機をあおり続けて必要な財政支出を渋り、近年のインフレによる大増収でも国民に還元しない、財務省が第五の悪人です。政府やマスコミ、経済学者と裏でつるみ、操っているという点でも非常にたちが悪い。

そして最後に、コロナ以降の2021年から約3年半で、60円近く進んだ超円安を放置している日本銀行が、第六の悪人です。

――悪役が勢ぞろいしましたね。

脇田 今日までの約30年間、政・官(財務省・日銀)・財・報・学の六悪人がほうぼうでつるみながら、重ねてきた失策を省みることなくかばい合う「共犯関係」によって、日本経済は停滞し続けています。少子化は想定をはるかに超えて進んでおり、このままでは社会保障は持ちません。

――今、高市政権に求められる経済政策とは?

脇田 繰り返しますが、必要なのは消費の活性化です。

そのためには効果のなかった金融緩和をやめて円安を収束に導き、並の物価高に落ち着かせること。その上で企業の内部留保にメスを入れて賃上げを促したり、政府の資産を取り崩して家計の収入増につなげ消費を活性化していくことです。賃上げの旗を振り続け、税と社会保障を一体改革して、若年層の手取りを増やすことも重要。

17分野の重点投資と消費減税では、正直なところ何も解決しません。日本経済の足元を、しっかり見つめ直してほしいですね。

日本経済を破滅させる「六悪人」を斬る! サナエノミクスも金融政策も的外れ!!

■『いまどうするか日本経済』 
脇田成 ちくま新書 1155円(税込) 
1997年の金融危機から、日本の経済政策の問題点をえぐり出し、取るべき次の一手を示す。昨年12月刊

取材・文/日野秀規 写真/時事通信社

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