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ABSチャレンジシステムについて語った山本キャスター

今季からMLBで採用されたのが「自動ボールストライク(ABS)チャレンジシステム」です。

日本では「ロボット審判」という呼び名で浸透しそうなこのシステムですが、先日は試合終盤でも活用され、判定が覆ったことで即座に試合終了となったシーンが話題になりました。

仕組みとしては、選手や監督が審判のストライク・ボールの判定に納得いかない場合、異議を申し立てることができるというものです。ABSチャレンジシステムは2022年からマイナーリーグで正式導入され、完全自動判定とチャレンジ制度の両方が試されてきました。

サッカーでは別室のビデオ担当審判がジャッジをサポートするVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)というシステムがありますが、ABSは完全に機械が判断するアシストシステムです。それでも、基本は人間の審判が判定をする形にしたのは、エンタメ性が担保できるという判断からでしょう。

当初は全球の判定をロボット審判に委ねる案もありましたが、ファンの多くはそれを望みませんでした。審判のジャッジ自体もエンタメとして楽しまれていたため、チャレンジシステムという折衷案に落ち着いたのです。

チャレンジ権は、失敗が2回に達するまで行使し続けることができます。チャレンジは投球直後に申請しなければなりませんが、プレーが続いた場合はその終了後に申請することも可能です。チャレンジ申請後も、判定がプレーに影響していない場合はランナーの進塁(盗塁)が有効です。

チャレンジ権を持つのは投手・捕手・打者の三者のみ。元投手のアダム・ウェインライトさんが解説で語っていましたが、投手にも権利はあるものの、感情が入りやすいため、冷静な捕手が行使したほうがいいとのこと。そこは、今後に試合を重ねていく中で傾向がわかってくるでしょうね。

「ABSチャレンジシステム」がMLBの野球に与える影響を考えてみた【山本萩子の6−4−3を待ちわびて】第212回
野球づけの日常が戻ってきました。幸せです!

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審判が見逃し三振と判定した後にABSチャレンジで判定が覆り、その後にホームランが生まれたシーンもありますが、システム導入による影響をさらに考えてみました。

・際どい球が投げづらくなる

ピッチャー視点で、ボールと判断されそうな厳しいコースへの投球は、見逃される可能性が高くなるでしょう。相手のチャレンジ権が残っていない場面では、あえてそういった攻め方をすることもできますね。チャレンジ権の有無が、配球の組み立てに影響してくるかもしれません。

・ストライクゾーンの厳格化

MLBには"1年目の洗礼"という風潮があり、新人選手は投打ともに判定が厳しめになることも。しかしシステム導入によって、その慣習が変わる可能性があります。

・チャレンジ権を誰が行使するのか問題

先ほど「捕手のほうが」という話もしましたが、限りあるチャレンジ権を誰が行使するかは、チーム内の序列も関わってくるんじゃないかと。大事な権利をむやみに失うわけにはいかないため、実質的にチャレンジできる選手が暗黙のうちに決まってくる可能性があります。

・ABSを逆手にとった配球戦略

ストライクゾーンに入ったと思われる球がボールと判定された時、あえてチャレンジをせず、勝負どころのカウントで同じようなコースに投げるとバッターは見送る可能性がありますよね。それもボールと判定されるかもしれませんが、そこでチャレンジして判定を覆し、三振を奪うといった駆け引きが生まれるかもしれません。

・審判のジャッジがより厳しく問われる

判定が何度も覆ると、審判の権威や尊厳にも関わってきそうです。

審判の評価制度にも影響してくるかもしれません。なお、村上宗隆選手によれば、全選手の身長・体重をあらためて計測し、個人ごとのストライクゾーンデータを新たに作成したとのこと。より正確な判定基準が求められる時代になっています。

MLBへの導入初年度から、チャレンジが試合の行方を左右する場面が生まれています。審判のジャッジというドラマを残しつつ、テクノロジーを組み合わせるというアメリカらしいエンタメの進化と言えるでしょう。日本のプロ野球に導入される日は、果たしてくるのでしょうか。

それでは、また来週。

「ABSチャレンジシステム」がMLBの野球に与える影響を考えてみた【山本萩子の6−4−3を待ちわびて】第212回

構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作

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