ひろゆき、篠田謙一(前国立科学博物館長)に人類の歴史を学ぶ⑮...の画像はこちら >>

「トリケラトプスの標本で、おそらく世界で最も完全に近い形で残っている個体です」と答える篠田謙一氏

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。分子人類学者で、前国立科学博物館長の篠田謙一先生をお迎えしての第15回です。

「特別展は誰がどのように決めているのか?」「国立科学博物館で一番価値のあるものは?」など、前回に引き続き、今回も博物館の裏側についてですそして、篠田謙一先生との対談の最終回になります。

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ひろゆき(以下、ひろ) 博物館って、特別展などを定期的に企画しているじゃないですか。あれって、誰がどういうふうに決めているんですか?

篠田謙一(以下、篠田) 今やっている特別展は、「超危険生物展」ですが(6月14日まで)、制作には明確なフォーマットがあるわけではないんです。基本的には担当研究者がやりたいものを共催の企業とつくり上げていくスタイルです。この秋に開催する「性」の展覧会は私が提案しました。メンバーを決めて、あとは自由につくってもらっています。

ひろ ぶっちゃけ、特別展って儲かるんですか?

篠田 直球の質問ですね(笑)。実際はケース・バイ・ケースです。例えば、バレエやオーケストラなどの舞台公演の場合、最大収益はほぼ読めますよね。

ひろ 座席数とチケット代のかけ算ですからね。

篠田 ところが特別展は、10万人入ると見込んでいたけれども30万人来ることもある。

そうなると収益が一気に跳ね上がります。

ひろ 逆に言うと、入らないときにはとことん入らない。

篠田 ですから、どんな企画にするのかが重要です。そこで白羽の矢が立つのが恐竜や動物の展覧会。人気が根強く、入場者数がある程度読めるんです。

ひろ なるほど。だからやたらと恐竜展が多いんですね。

篠田 ただ、恐竜や動物ばかりやり続けるわけにはいきません。特定の研究者の負担が大きくなりますし、博物館の本来の目的は、さまざまな最新の科学をみんなに楽しんでもらうことですから。

ひろ ちなみに、国立科学博物館には恐竜の展示があるじゃないですか。例えば、ブラキオサウルスみたいな大型恐竜の骨って、買おうとするとどれくらいするものなんですか?

篠田 今はもう、とんでもない値段になっています。うちが持っている標本は、まだ今ほど高騰する前の1990年代までに購入したものが大部分ですが、当時で数千万円レベルだったと思います。

それが今では、ものによっては数十億円です。レオナルド・ディカプリオやニコラス・ケイジなどのハリウッドスターやアメリカのテック系富豪が買い始めて、市場価格が一気に上がりました。

ひろ そういう人たちは、買った恐竜の骨をどうしてるんですか?

篠田 自宅に飾っている人もいるとは聞きます。ただ最近は投機の対象にもなっているようです。研究者や博物館が新しい化石に手を出せなくなって大問題になっています。

ひろ ちなみに、国立科学博物館の展示品の中でレアというか、価値があるものってなんですか?

篠田 「レイモンド」だと思います。うちが所蔵しているトリケラトプスの標本の愛称で、半身ですがおそらく世界で最も完全に近い形で残っている個体です。

ひろ 僕も見たことあると思うんですけど、「ああ、トリケラトプスね」でスルーしてる気がします。

篠田 あれはレプリカではなく、本物の化石なんですよ。

ひろ そんな貴重なものが置いてあったとは......。

篠田 ぜひ注目してほしいです。あと展示の工夫という意味では、うちの哺乳類剥製コーナーも少し変わっています。

普通はネズミの仲間、ゾウの仲間というように分類群ごとに並べるんですが、あえていろいろな動物を交ぜています。哺乳類というグループがいかに多様かをひと目で感じることができるんです。

ひろ 展示の仕方もちゃんと考えて設計しているんですね。

篠田 もちろんです。例えば、剥製や骨格の展示でも、来館者と目線が合うように並べます。来館者からどう見えるかまで考えて配置していますが、それだけで印象がかなり変わります。

ひろ けっこう珍しい展示物もありますよね。例えばハチ公の剥製とか。ああいうのって、知らない人も多そうです。

篠田 あとは南極観測隊犬のタロ・ジロのジロの剥製もあります。ハチ公とジロ、そして甲斐犬のクロも一緒に展示しています。標本としては特定の一頭だけを英雄扱いせずに見てもらっています。

ひろ パンダの剥製もありますもんね。

篠田 はい。うちにはパンダの剥製が4頭あります。3頭は常設展示に出していて、1頭は貸し出しに使います。以前は亡くなったパンダを国内で標本として残すことができたんです。しかし現在では中国との取り決めもあって、残せなくなりました。

ひろ パンダは剥製でも貴重なんですね。

篠田 研究対象としても非常に貴重です。剥製標本の多くはうちにありますし、内臓や骨格は大学研究機関や動物園に保管されています。ゾウなどのほかの動物も、重要な部位は動物園がホルマリン標本として保管していることが多いですね。動物たちは死んでも研究用の資料として残されるのです。

ひろ へえ。

今度行ったら、だいぶ見方が変わりそうですね。で、今は特別展で「超危険生物展」を開催しているんですよね。見どころを教えてもらっていいですか?

篠田 テーマは、生物の〝攻撃〟です。動物界を分類ではなく、「攻撃する」という切り口で横断的に見てもらうというコンセプトです。例えばゾウは鼻を使って戦うし、キリンは首をぶつけ合う。その筋肉や骨格がどんな構造になっていて、どれだけの力を生み出せるのか。そうした解剖学的な話が土台にあります。ほかに毒を使う生物や電気を発する生物も扱います。

ひろ 常設展とは見せ方がかなり違うわけですね。

篠田 そうです。常設展では、「この生物はこの分類群に属していて、こういう特徴があります」という教科書的な説明が中心になります。でも特別展は、まったく違う切り口で生き物を並べて見せています。

ひろ 面白そうですね。

篠田 ひろゆきさんも機会があれば、ぜひ見に来てください。「人間にとって最も危険な動物は何か」というクイズ的な話題もありますよ。

ひろ その答えは......国立科学博物館に足を運んでみてください、ですね(笑)。

篠田 はい(笑)。

ひろ お話を聞いて、博物館って、ただ標本を並べている場所じゃないんだなと改めて思いました。展示の切り口も、収益とのバランスも、研究の価値の伝え方も、全部ちゃんと考えられているんですね。

篠田 そう言っていただけるとうれしいです。博物館は、過去のものを保存する場所であると同時に、今の研究を社会につなぐ場所でもあります。展示の裏には研究者やデザイナー、運営する人たちのいろいろな工夫がある。その面白さまで伝わればいいなと思っています。

ひろ ということで、篠田先生との対談は今回でラストになります。ありがとうございました!

篠田 こちらこそ、ありがとうございました。私はこの3月で退職しましたが、これからも国立科学博物館の活動に注目していただければと思います。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など 

■篠田謙一(Kenichi SHINODA) 
1955年生まれ。分子人類学者。前国立科学博物館長。主な著書に『人類の起源』(中公新書)、『日本人になった祖先たち』(NHKブックス)など。2026年2月23日まで、東京・上野の国立科学博物館では特別展「大絶滅展」が開催中

構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾

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