日米交渉で対米投資のひとつに選ばれた人工ダイヤモンド
日米交渉で対米投資のひとつに選ばれたのは「人工ダイヤモンド」だった。なぜ、ダイヤモンドが? 何に使えるのか? そんな疑問を世界トップクラスの人工ダイヤモンド合成会社に聞いた!
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【人工ダイヤモンドが半導体になる!?】
2月18日に日米両政府は約85兆円に上る対米投資の第1弾として、「ガス火力発電所」「原油輸出施設」「人工ダイヤモンドの製造施設」の建設を発表している。
火力発電所や原油輸出施設の建設はわかるが、なぜ人工ダイヤモンドの製造施設が重要視されているのか。いったい何に使われるのか。
その疑問について、以前「産業技術総合研究所(産総研)」でダイヤモンドを研究し、現在は人工ダイヤモンドの合成技術で世界トップクラスを誇る企業「株式会社イーディーピー(EDP)」社長の藤森直治氏に聞いた。
――早速ですが、人工ダイヤモンドはどうやって作るのですか?
藤森 ダイヤモンドの人工合成ができるようになったのは1955年。約70年前です。「超高圧法」といって、プレス機の中に圧力容器を作り、その中にニッケルやコバルトなどの金属と炭素を入れて、5万気圧かけて、1500℃にする。
ダイヤモンドは炭素でできた結晶ですから、そこに圧がかかるとダイヤモンドがプチッとできてきます。ただ、この方法だと大きさや数が不安定です。
また、1960年代に発明された「爆発法」というのもあります。容器の中にニッケルなどの素材を入れて、火薬を爆発させる。するとその瞬間に高圧・高温になり、ダイヤモンドができる。
でも、この方法だとものすごく小さなダイヤモンドしかできず、爆発後にダイヤモンドだけをより分ける作業なども大変です。
そして私たちが使っている方法が、1981年に発明されたガスを使った「気相合成法」。これは容器の中に炭素と水素でできたメタンガスを入れて放電現象を起こすと、分解されてダイヤモンドができるという仕組みです。
超高圧法や爆発法と気相合成法の大きな違いは、前二者はダイヤモンドの粒になるのに対し、気相合成法だと膜や板が作れるということです。
――そうして作られた人工ダイヤモンドは何に使われているのですか?
藤森 ひとつは宝石です。日本ではあまり普及していませんが、米国などでは50%くらいのシェアがあります。また人工ダイヤモンドは不純物がほとんどないので、一般的に天然のものよりきれいに輝くともいわれています。
そして、何より価格が安い。天然のものの半額から10分の1程度で販売されているのではないでしょうか。それから、これは世の中でたくさん利用されているのですが、道路や石を切ったりするカッターなどです。
下水管工事のときなどに、道路に水をかけながらアスファルトやコンクリートを切っていますが、あのグルグル回っているカッターに小さな人工ダイヤモンドが貼りつけられています。
また、最近の墓石はピカピカですが、あれは人工ダイヤモンドで磨いているからです。ビルの壁に張ってある石の板なども同様に磨かれています。
産業的に大事なのはシリコンを切る用途。シリコンはとても硬いので、ダイヤモンドで切ったり、磨いたりしているんです。
そして、最後が半導体です。まだ少ししか実用化できていませんが、人工ダイヤモンドは半導体としても使えます。
――でも、ダイヤモンドは絶縁体では?
藤森 実はダイヤモンドには4種類あるんです。
まず天然のダイヤモンドの多くが「Ⅰaタイプ」。これは窒素が0.2%超含まれている無色のものです。2つ目が「Ⅰbタイプ」で、窒素が0.005~0.03%含まれている黄色のもの。3つ目が「Ⅱaタイプ」で、不純物がまったくない無色のもの。これら3つは電気を通しません。
しかし、4つ目の「Ⅱbタイプ」はボロン(ホウ素)が0.05%未満含まれている青い色をしたダイヤモンドで、電気を少し通します。
電気を通すのが導体で、通さないのが絶縁体。
――なるほど。その半導体に使えるダイヤモンドを人工的に作れるんですね。
藤森 そうです。気相合成法なら、ガスの中にボロンを入れれば半導体の人工ダイヤモンドができます。
しかし、実際に半導体として使うにはウエハーという円盤状のものにしなくてはいけない。超高圧法や爆発法では粒状のものしか作れませんが、気相合成法なら板状のものも作れます。私たちは、それを積極的に作っているんです。
【自動車の軽量化や量子センサーに使える!】――ところで、人工ダイヤモンドが半導体に使えると、何がどう変わるんですか?
藤森 例えば、ハイブリッド自動車。エンジンを動かすモーターは一般的に交流です。しかし、電池に蓄えられる電気は直流です。
シリコンは120℃を超えると働きが悪くなるので、例えば85℃以上にはならないように水で冷やしている。水で冷やすにはラジエーターも水も必要になる。しかも、そのシリコンのデバイスが数十個入っているクルマもあります。
では、ダイヤモンドの半導体ができるとどうなるか。ダイヤモンドは500℃でも作動するのでラジエーターがいらず、その分軽量化されて燃費が良くなる可能性があります。さらにラジエーターを収めるスペースも必要なくなり、とても効率が良くなります。
ほかにも、福島第一原子力発電所の廃炉作業を行なう際、原発内は放射線量が高いためロボットが機能不全になる場合があります。しかし、ダイヤモンドは極めて高い放射線耐性があるため、廃炉作業にも適しています。もちろん、放射線が多い宇宙空間に送る人工衛星などにも使用できます。
それから、微弱な磁場を測るのにダイヤモンドは優れており、量子センサーとして使おうという話も出ています。例えば、血液にはヘモグロビンという鉄分が含まれているので、ダイヤモンド量子センサーで脳や心臓などの血液の流れを感知することができる。
また、地球の磁場を直接測ることができるかもしれないともいわれていて、将来GPS代わりに使える可能性も出ています。
地球の磁場を使ったGPSは電波障害を受けないので、トンネルの中や太陽の黒点の活動が活発なときにも安定して位置確認ができます。
――すでに気相合成法による人工ダイヤモンド合成ができているということは、もうすぐダイヤモンド半導体は実用化されるんですか?
藤森 それが、そうでもないんですよ。現在、シリコンの半導体は12インチ(直径約30cm)の円盤状のものが主流なので、ダイヤモンドで同じ大きさのものを作ればいい。しかし現在、私どもで作れるのは30mm×30mmのものが最大です。
――何が問題なのでしょうか。
藤森 簡単に言うと、シリコンでは小さな結晶から大きな面積の結晶を作れるのですが、ダイヤモンドでは現在の方法で面積を大きくすることができていません。面積を大きくするために単結晶のダイヤモンドを接合してモザイク結晶にすると反りが発生します。
しかも、削る作業もシリコンなら簡単にできるのですが、ダイヤモンドは最も硬い物質のため、1mm削るのも大変な作業なんです。
それでも、私たちの計画ではもうすぐ2インチ(約50mm×50mm)のものが開発できます。これを次に4インチ(約100mm×100mm)まで大きくする。
とにかく世界に先駆けて、大きな人工ダイヤモンド半導体ウエハーを作りたいと思っています。
人工ダイヤモンドで作られた直径1インチ(約25mm)のウエハー。これを直径4インチ(約100mm)まで大きくできると、ダイヤモンド半導体作りが一気に加速する
メタンガスを入れた容器に放電現象を起こして、人工ダイヤモンドを作る気相合成法に用いる装置。この方法だと、粒ではなく板状のダイヤモンドができる
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現在、人工ダイヤモンドの世界シェアは中国が約9割を占めているという。その中国は2025年10月に「人工ダイヤモンドの輸出規制を行なう」などと発表した。
アメリカはこれに危機感を持ったのか、自国での人工ダイヤモンド製造を進めようとしている。そのために日本に投資を要求したのだろう。
日本は人工ダイヤモンドの合成技術で世界のトップクラスにいる。もし、アメリカの人工ダイヤモンド製造施設に投資する約900億円の10分の1でも日本の企業などに出すことができれば、日本は中国やアメリカに負けない人工ダイヤモンド半導体生産国になれるかもしれないのだ。
高市早苗首相には、本当の意味での〝日本ファースト〟を進めてほしい。
取材・文/村上隆保 写真/時事通信社(トランプ、高市) EDP(ダイヤ、ウエハー)
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