高市首相の必殺二分法とは、必ず自分が勝つ方の案と、もう一つの2案目を提示して、国民に信を問うというやり方(写真:時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
* * *
――高市首相は衆院解散の際に「国論を二分する政策に挑戦する」と仰っていました。
佐藤 現時点で「国論を二分する政策」なんてないんですけどね。高市さんは二分することで国論を自分で作っていくんですよ。だからこれは、胴元がいつも勝つ賭場を開帳するということです。
――恐るべき「総長賭博」ですね。高市さんが政策を作り、勝つ前提で国論を二分させると。たとえば、いまならどんな政策を作りますか?
佐藤 今度、対外情報機関を作りますよね。
――はい。いまの内閣情報調査室の名前を変えるだけのようなJCIAでありますね。
佐藤 本来はいまのままで全然問題ないんですよ。ウクライナ戦争でもG7の中で、日本は唯一深入りしませんでした。それは、日本はウクライナが負けることがわかっていたからです。
それに、007のような対外情報機関を作ると、やる気があって能力のない人間が集まり面倒臭くなりますからね。ちゃんと動いている時計を見つけた子供が「もっといいのを作る」と分解しようとしているのと変わりません。
――壊して終わり、じゃないですか。
佐藤 だから、時計を分解せずにいまのままでいいんです。しかし、それを進めているのです。高市さんはこの情報組織を作ることで、二分法を用いようとしているんです。
――どういうことですか?
佐藤 「スパイを野放しにしますか?」と問いかけます。そうすると、「野放しにしたほうがいい」「取り締まったほうがいい」というふたつの意見で国論が分かれます。
――そりゃ、スパイをちゃんと取り締まらなければいけないですよね。
佐藤 それから、通信傍受制度も同じです。
――普通の人なら「困る人は犯罪者。困らない人はあたしたちね」と、その制度に賛成してしまいます。
佐藤 沖縄の普天間基地移設問題でも二分法は使えます。一方は「長さ2700mの滑走路がないと十分な訓練ができないから、確保できるまで普天間を維持したほうがいいと思う人」で、もう一方は「中国の脅威はあるが、それでも返還を急いだほうがいい人」と分けられます。
このように二分法で常に国論を二分する事態を作っていくわけです。
――そうすると「2700mの滑走路をお使いください」と、普天間基地はそのままになりますね。なんと狡猾で頭のいい二分法。汚ないやり方じゃないですか。
佐藤 それで何かあったら、多数決で決めることとなります。
「A君が一ヵ月間、ずっとトイレ掃除当番でいいと思う人」と問えば、A君以外の全員が手を上げます。次の月も同じやり方でA君をトイレ掃除当番にすることもできますね。
――誰も感動しない映画『パーフェクトデイズ』ですね。清掃員役の役所広司が主演の。
佐藤 そうですね。
――自民党の支持率は3月時点で26.9%。およそ1/4の国民だけが幸せになってるんですね。
佐藤 いや、権力を持っている人だけがホクホクなんです。これを"ホクホクの日本"と言います。
――そりゃ、ホクホクでしょうね。
佐藤 それから、小峯さんが頑張って働いて働いて働いて働いて働いて、1年で2500万円稼ぐんですよ。税金はいくらだと思います?
――わからないです。そんな額を稼いだ事はないですから。
佐藤 個人事業主としては税率4%、それから所得税、住民税が10%ずつで、復興税が2%です。加えて預かりで消費税が加算されて、62%課税されます。
――1550万円が税金で、手取り950万円......。
佐藤 たとえば5億円の株を親から引き継いだ人がいるとします。運用率5%で毎年2500万円稼げます。しかし、それは分離課税が約2割なので税金は500万円です。働くより働かないほうが、お金がどんどんと溜まっていく仕組みなんですよ。
――5億円以上の資産がない者には、パーフェクトデイズはやって来ない。
佐藤 だから結局、生まれた場所で決まるわけです。
――泣いてもいいですか?
佐藤 どうぞ。働くよりも資産を持っている者のほうが勝ちですから。それから、5億円お持ちの方々は人間が大らかですね。
――余裕があるからガツガツ、ぎすぎすしない。
佐藤 で、そういった人のほうが人望も集め、リーダーになっていきます。そういう時代になっていくんです。だから、そんなホクホクの人たちが出てくる時代、ホクホク日本になります。
――すげえ嫌な時代が!!
佐藤 ホクホクの人たちがいると同時に、もう一方は人民の楽園コースです。
――それは何ですか?
佐藤 欲望の水準を下げた我々の目標は、コメの飯を腹一杯食べ、肉のスープを飲み、雨漏りのしない家に住むことです。これで共産主義が実現すれば、これが楽園になります。
――以前の北朝鮮の楽園の話ですね。
佐藤 そうです。
――もうひとつのホクホク。"北北の楽園"。
佐藤 簡単な話ですよ。
私はそれを旧ソビエトで経験しています。1年に2回、ひとり10個しかトイレットペーパーは買えませんでした。買ったトイレットペーパーを紐で繋ぎ、たすきがけにしてみな歩いている。あの幸せ感はいまも覚えています。
――それが幸せ!?
佐藤 それから旧ソ連時代にビールなど買ったりすると、全部太陽にかざして確かめないといけないんですよ。
――なぜですか?
佐藤 ネズミのウンコが入ってないかどうか見るんです。瓶を洗浄する際にネズミのウンコがそこに潜んでいるんです。だから、ウンコが沈んだビールができるんですね。ネズミのウンコのないビールを買ったときの幸せがわかりますか?
――そんな時代が来るわけですね。
佐藤 はい。だから、あの旧ソ連時代の幸せ、きれいなビールが手に入っただけで、国民はどんどん幸せになっていきます。周りを見ても、みんな貧乏だから心配ありません。
――皆、同じ。ホクホクな五億円以上の資産家は、日本の人口の0.2%。だから、日本国民のほとんどは北北ですから。
佐藤 そう、みんな一緒です。
――佐藤さん、泣けてきましたよ、うれし涙です......。
次回へ続く。次回の配信は4月17日(金)を予定しています。
取材・文/小峯隆生
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