一般人にも知ってほしい製造業の現実。評論家が叫ぶ「調達ルート...の画像はこちら >>

業界ごとにルールの違いはあるが、ものを製造する企業が部品などの調達先を変更するには相当厳重な手続き・審査・申請が必要となるケースが多い(写真はイメージ)

あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。
得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「調達先の多角化」について。

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イラン戦争の影響で原油関連の調達に支障が生じている。原油はエネルギー、物流、梱包、石油化学製品にかかわり、支障は全調達品におよぶ。

ネジ一本でも足りなきゃものは作れない。一般的な感覚では「入手できるもので生産すればいいだろ」と思うだろうが、調達先の多角化は想像以上に難しい。業界によってはほぼ無理とさえいえる。

私はずっと調達に従業してきた。総合電機メーカーと自動車メーカーで勤務経験がある。仕事をはじめたころ、既存品の相見積書を取得してみた。対象は電子・電気部品。形状、寸法、基本スペックがおなじで、3割安。

それを社内で提案したら「できるわけねえだろ」といわれた。

公共インフラ機器は、小部品の変更でも、全体の動作の不変、耐久性の同等性を証明せねばならない。テストの費用=スイッチングコストもかかる。自動車業界でも型式認証があり、同様に同一性を証明せねばならない。

さらに自動車メーカーは取引先との間にPPAP(Production Part Approval Process)なる承認プロセスがあり、「おなじものが作れる」だけじゃダメ。「おなじ管理状態、統計的能力で安定して生産できる」ことが求められる。取引先の変更は、不可能ではないが難しい。

なお、同一取引先内で工場を替える場合でも、4M(人、機械、材料、方法)の変更にあたるため面倒だ。

変更申請と同等証明、保安基準への影響評価を提出。その後、初品を厳格に検査し、合格してやっと切り替えが可能だ。航空・宇宙・防衛、住宅・建築、医療機器といった領域でも、それぞれ微妙に違うとはいえ、同様の型式適合認証制度がある。

究極はインテルが1990年代に確立した「Copy Exactly!」戦略だ。

半導体の新しいプロセス(微細な加工を繰り返す製造工程)をどこかの国で成功させたとする。それを他拠点でコピーするために、真空ポンプやバルブの型式を共通化するのは当然。配管の長さ、ガスの供給圧、ウエハーの搬送速度まで完璧に同じにした。「もとの工場のどこかに指紋があれば、移管先の工場にも指紋をコピーする」という冗談があったほどだ。あれ冗談だよね?

ちなみに半導体は、まったくおなじメーカー・型番でも、海外商社から購入する場合、念のためにエージング検査(高温、高電圧の負荷をかける耐久テスト)までする。これが現場での実態だ。真面目なんよ。

調達品の代替は不可能ではない。コストをかけて再試験したり再審査したり、金型費用が二重化したりしてもよければ。

また例外もある。たとえば石油精製業者が原油を調達する産地を変更しても、精製や合成のプロセスにおいてバラツキを調整し、一定のスペックになるようコントロールできるなら問題ない。ただ現実には、日本の精製プラントは中東からの原油用に最適化されている。

少なくとも、報道されるほど「調達先の多角化」はたやすくないと知ってほしい。「取引先の二重化」といわれるケースも、自動車でいえば新車種のタイミングから取引先を増やした、くらいの意味が多い。

基本は既存の調達先から入手することに全力を尽くす。調達実務を知らず「調達ルートの多角化を!」と叫ぶ評論家には、ぜひ指紋までコピーした工場の配管を掃除しに行ってほしい。

写真/時事通信社

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