「令和」のはじまりは目前。
元号が変わり、時代が大きく変わるムードが漂っている。
その一つが「お金」だろう。「買い物は現金で」という人はもちろん「現金を持ち歩くのは時代遅れ」という人も、今のままの知識では時代に取り残されてしまうかも。
「令和は『お金革命』の時代である」と語るのが『いま知っておきたい「みらいのお金」の話』(アスコム刊)の著者、松田学氏だ。この本では元・財務官僚で経済と金融のプロである松田氏が、仮想通貨と電子マネーは何が違うのかといった素朴な疑問から、そもそもお金とは何かという本質論、そして今後のお金の可能性まで、対話形式で極めてわかりやすく解き明かしている。
今回はその松田氏に、キャッシュレス化が進む今、現金だけを信用することの危険性と、松田氏の言う「お金革命」の中身となる「仮想通貨」と「ブロックチェーン」の持つ可能性についてお話をうかがった。
今知っておかないとヤバいお金の話、前編をお届けする。
■デジタルマネー時代に「日本人が有利」な理由――電子マネーがあちこちで使えるようになり、仮想通貨がしきりに話題となっている今、「お金」というものが変わりつつあるのを感じます。たとえば「現金を使うのは不便である」というような価値観が生まれつつありますが、現金のみを信用することのデメリットはどんな点にあるのでしょうか。松田:家に大きな金庫がある人は別として、現金には物理的棄損のリスクが常にありますよね。先日の「アポ電強盗殺人」も、家に現金を置いていたからこそ起きたことですし。日本人は世界の中でも現金への信頼が篤いといわれますが、あまり現金にこだわりすぎるのも考えものです。
また、現金は脱税などの不正の温床になりやすいという面もあります。これからブロックチェーンの技術が発達して、あらゆる経済取引が現金を介さずに行われるようになれば、脱税などは難しくなるでしょう。その意味で通貨のデジタル化やキャッシュレス化によって公平な世の中に近づいていくのかもしれません。
――昨年、コインチェック事件が大きく報道されるなど、仮想通貨に対して怪しいイメージを持つ人も多いと思います。実際、仮想通貨は投資対象として取り上げられることがほとんどで、仮想通貨が根づくことによって私たちの生活はどう変わるのかについてはよくわからないところがあります。松田:現在主に流通している「ビットコイン」や「イーサリアム」といった仮想通貨で一般の方々の日常生活が劇的に変わることはないと思います。
ただ、今ものすごいスピードで情報技術が進歩していますから、今後まちがいなく現在の仮想通貨を超えるさまざまな通貨が出てくるはずで、それによって私たちの社会が変わっていくことは考えられます。
――どのような通貨が登場すると考えられますか?松田:日本でもキャッシュレス化が進んでいますが、この流れの行き着く先が仮想通貨なのだろうと思います。極端なことを言えば、私たち一人ひとりが仮想通貨を発行できる時代がくる。そうなれば一般の人の生活にも変化が生まれるでしょうね。
たとえば、ある特定の人たちや特定の団体の間で流通する仮想通貨が出てきて、そのコミュニティの中で仮想通貨を通じて価値のやり取りが生じる。あるいは芸術活動をやっている人が仮想通貨を発行して、自分の活動に共感したり感動した人にそれを買ってもらうことで生活が成り立っていくということが考えられるわけです。
松田:そうなると、小さな経済圏が日本のあちこちにできてくる。遠い将来の話のように思えるかもしれませんが、案外早いうちに実現するかもしれません。
これまでは、「お金」というと中央銀行が発行した貨幣しか選択肢がなかったので、私たちは国家をバックにした中央集権の仕組みに縛られざるをえなかったわけです。しかし、仮想通貨によって同じ価値観や同じ趣味嗜好を共有する人同士のコミュニティが多くできてくれば、それらが経済的に自立していく可能性がある。そうなるとより多様で面白い世の中になるのではないかと思っています。このあたりは『いま知っておきたい「みらいのお金」の話』でも詳しく述べています。
――多様な仮想通貨が出てくる可能性についてお話しいただきましたが、そうすると「円」を使わなくなる可能性もあるということでしょうか。松田:仮想通貨にはいくつか種類があるので、そこからお話しさせてください。
一つは「ペイメントトークン」といって、広く決済に使われる仮想通貨です。「ビットコイン」などはそういうものとしてもみられていますが、価格の変動が大きすぎると決済通貨としては使いにくい。ですから今、大手銀行各社は法定通貨とのレートが固定された仮想通貨を発行しようとしています。
二つめが「ユーティリティトークン」といって、先ほどお話ししたような特定の団体や集団の中で取引される仮想通貨です。現在すでに存在する「ポイント」のようなものをイメージしていただけるとわかりやすいと思います。
三つめが「セキュリティトークン」なのですが、これはそれ自体が金融商品です。電子的な形をとった証券で、価値が変動しますし、保有していれば配当もうけられることになります。これから法改正があって金融商品取引法のもとで、株式ほどではないにせよ、それと似たような規制を受けることが考えられます。
これらのうち、資金調達の主流となって、これからの金融の姿を大きく変える可能性があるのがセキュリティトークンだとすれば、未来社会を大きく変える可能性があるのがユーティリティトークンです。これが特定の価値とひもづくかたちで発行されれば、その価値を価値として認める人々の間で流通することになります。そうした共通の価値のもとに、そこにはお金で結びついたコミュニティが形成されることにもなります。価値としては、金や石油のような実物資産がバックになることも考えられますが、企業が発行する場合は、その企業の時価総額かもしれませんし、宗教団体なら宗教的な価値、芸術家が発行するなら、その芸術家が生み出す芸術的な価値かもしれません。
松田:そこがすごく大事な点です。ブロックチェーンには「改ざん不可能な電子データ」「スマートコントラクト」「トークン(暗号通貨=仮想通貨)」という三つの面があります。
「改ざんされない電子データ」という面についてはすでによく知られていて、複数の人が同時にデータの真正性(正しさ)を認証できるようになったことで改ざんができなくなったということです。これによって二重使用や偽造の問題が発生することなく、インターネットで送れるようになったということで誕生したのが、最初の仮想通貨であるビットコインでした。
しかし、ブロックチェーンの特性はそれだけではありません。二つ目の「スマートコントラクト」はブロックチェーンに様々な契約や手続きを内装する技術です。ブロックチェーンの世界で今後、最も大きなイノベーションをどんどん起こすのは、この技術でしょうね。
三つめが「トークン」で、要するに仮想通貨と考えていただいてよいものですが、たとえばブロックチェーンを地方自治体が取り入れて独自の仮想通貨を発行することで、住民税などの納税手続きや、いろいろな手数料や公共料金などに関する支払い手続きが、ワンストップでできるようになります。
松田:電力・エネルギー分野や土地の登記、物流など、様々な分野でブロックチェーンを応用しようという動きは出てくるでしょうね。
ただ、ブロックチェーンという確立した技術がすでにあって、それを実装さえすればすぐに利便性が高まってみんなハッピーになるわけではありません。それぞれの分野ごとにブロックチェーンの技術を進化させる必要があります。現場ですりあわせをしながら技術を進化させていくというのは、日本人の得意技です。たとえば、課題先進国といわれる日本がさまざまな社会的な課題の解決でブロックチェーンを進化させていけば、それぞれの分野で世界標準になるようなすばらしい仕組みが日本から出るのではないかと期待しています。
(後編につづく)
■松田学氏プロフィール
松田政策研究所代表、バサルト株式会社社長、社団法人ドローンシティ協会理事長などを務める。
ブロックチェーンなどの情報技術や暗号通貨を活用した新しい日本の社会を構想し、ジュピタープロジェクトリーダーをはじめ様々な立場で、情報発信や政策提言活動を展開している。
著書に『TPP興国論』(kkロングセラーズ、2012年)、『国力倍増論』(創藝社、2014年)、『サイバーセキュリティと仮想通貨が日本を救う』(創藝社、2018年)、『米中知られざる「仮想通貨」戦争の内幕』(共著、宝島社、2019年)など多数。
最新著作は『いま知っておきたい「みらいのお金」の話』(アスコム刊)
※5月31日まで無料電子版公開中:https://amzn.to/2GALiL0