新シーズン、チームを率いることになったのは2019~20年にかけて横浜F・マリノスでコーチを務め、2021年には鹿児島ユナイテッドで指揮経験を持つアーサー・パパス監督。新たな陣容でタイ、宮崎キャンプを消化している。
指揮官にとって心強い存在と言えるのは、横浜FM時代に共闘経験のある29歳の経験豊富なDF畠中槙之輔だ。トリコロールの看板選手の一人であり、2019年、2022年のJ1制覇を経験した男は新天地で恩師と再会。自らを高めるべく、リスタートしたのである。
「監督の求めているサッカーを今のところ誰よりも理解しているのは自分だと思っています。それをしっかり周りに話して共有していくのが自分の役目。それをやろうと思ってセレッソに来ました」と本人も言う。
今季初実戦となった1月24日の徳島ヴォルティスとの練習試合(45分×3本)でも、畠中は主力組が出場した1、2本目でプレー。最後尾に陣取るキム・ジンヒョン、センターバックの進藤亮佑らとコミュニケーションを取りながら、守備陣を力強くリード。ビルドアップの際にも周りに指示を出し、ポジションを細かく修正していた。
新スタイル構築中のC大阪は全ての攻撃がスムーズに行ったわけではないが、守備は畠中を中心に危ない場面を阻止。
「実際やってみて、周りとの感覚的なギャップはいくつかありました。パスの出しどころ、受けたいところのポジショニング、パスの強弱、スライドの感覚などは詰めていく必要がありますね」
昨季のC大阪は総失点48で、最少失点だった町田の34よりも10以上多かった。2024年に21ゴールを挙げたレオ・セアラが去り、新外国人助っ人も未知数という状況だけに、失点減が上位浮上のカギになってくるのは確か。そういう意味でも畠中の役割にかかる部分は大なのだ。
畠中自身も国内では4クラブ目となり、自分を大きく変えたいと意気込んでいる。6年半過ごした横浜FM時代は2度のリーグタイトル、日本代表入りなど輝かしい時期もあったが、2022年8月の左ハムストリング付近の大けが、2023年8月の右ひざ前十字じん帯損傷と半月板損傷の重傷と長期離脱も強いられている。
直近の2024年も8カ月の空白期間を乗り越えて3月末に復帰したものの、リスク軽減のために連戦回避が続き、トップパフォーマンスに戻らないままシーズンを終えた印象が強い。強い苛立ちと焦燥感を抱えた1年だったのではないだろうか。
「マリノスは慣れ親しんだ場所だったけど、これも一つのチャレンジだと捉えています。“慣れ”というのは、いい部分もありますけど、自分の弱さも出てしまった。
昨季も“何かが足りない。このままじゃいけないし、自分を変えたい”と思っていたであろう名古屋グランパスからガンバ大阪へ赴いた中谷進之介がフルタイム出場を果たし、チームの大躍進の原動力になっているが、同じ“シンノスケ”の畠中もそれができるはずだ。
「彼はすごく評価を上げたと思いますし、僕も同じことが可能。チャレンジしたいです」とギラギラしたところを見せていた。
「セレッソに来た以上、チームとしてはもちろん優勝目指してやりたいですし、個人としてはマリノスで優勝した2019年みたいにフルタイム出場もしたいですし、より攻撃に参加して、点に絡む、点を取るというプレーも増やしていきたい。あとはリーグ最少失点を目指してやりたいです」
畠中の求める領域は非常に高い。幸いにしてC大阪にはそれを共有できるチームメイトがいる。香川真司はドルトムント時代に数々のタイトルを手にしているし、登里亨平も川崎フロンターレの黄金期の一員となっている。若い世代でも、松本凪生のようにヴァンフォーレ甲府で天皇杯制覇を経験した人材が戻ってきた。それぞれの力を結集し、チーム全員の視座を引き上げることができれば、近年の停滞感を払拭できるかもしれない。
“パパスの伝道師”である畠中は率先してその仕事を担っていく必要がある。
「みんなまだ日が浅いので迷いながらやっている部分もあると思いますけど、監督が示すところを信じてプレーすれば、間違いなくいいサッカーができると思います。同じ方向を見て、しっかり意思統一を図れるようにしていきます」
静かに闘志を燃やす畠中がC大阪躍進請負人として異彩を放つ姿を楽しみに待ちたいものである。
取材・文=元川悦子