6月のFIFAクラブワールドカップ期間の未消化分として、イレギュラーな形で行われた7月27日の浦和レッズ対アビスパ福岡。1週間で3試合を消化する超過密日程を強いられている浦和に対し、福岡は1週間の準備期間を得て、良い状態で埼玉スタジアムに乗り込んできた。


 そこで注目されたのが、福岡の安藤智哉だ。ご存じの通り、7月のE-1選手権で日本の大会2連覇に貢献。190センチの大型DFは見る者に強烈なインパクトを残した。とりわけ15日の韓国戦では、荒木隼人、古賀太陽との鉄壁3バックと長身右ウイングバックの望月ヘンリー海輝で制空権を制圧。ロングボールを蹴り込まれた終盤も勇敢に跳ね返し続け、存在感を示したのだ。「ワールドカップへの距離が近づいたか。それは自分次第だと思いますし、福岡に帰ってからの取り組みが重要になる。目の前の1試合にどれだけ注力してやれるかが大事だと思います」と韓国戦後も神妙な面持ちで話していただけに、その後のJリーグでの一挙手一投足が気になるところだった。

 最初の一歩となった7月21日の京都サンガF.C.戦は2−2のドロー。これで福岡は5戦無敗となったが、順位は11位で、4月に一時首位に立ったチームとしては物足りない状況だ。だからこそ、浦和を敵地で倒して、上位再浮上の布石を打つことが肝要だった。

 序盤は浦和が良い入りを見せ、松尾佑介や安居海渡に次々とシュートを打たれたが、安藤、奈良竜樹、上島拓巳の強力3バックは全く動じなかった。
そして徐々に最終ラインでボールを保持。時間をかけてビルドアップする形にシフトする。前半の間には、1トップの碓井聖生が相手の背後に抜け出し、紺野和也も鋭いボール奪取から決定機を迎えたが、どちらも決めきれない。両者ともにスコアレスの重苦しいムードのまま、試合を折り返すことになった。

 迎えた後半。福岡は攻撃のギアをアップ。安藤も3バックの一角から左サイドを駆け上がり、攻撃参加するシーンが大幅に増え、存在感がグッと高まった。特に目立ったのが、相手CKからのカウンターで安藤がドリブルで一気に持ち上がった後半5分のシーンだ。これを名古新太郎に展開。最終的に入れたクロスに松岡大起が飛び込んだが、得点には至らなかった。

「比較的ボールは保持できましたけど、ラストパスだったり最後の質のところはまだまだ向き合っていかない。良いゲームしたとか、そういうのはどうでもよくて、本当に結果だと思う。
結果がついてきていいゲームできたら最高です」と安藤は語っていたが、こういったチャンスをモノにできず、福岡はこの日も0−0のドローを余儀なくされ、中位にとどまってしまっている。E-1という重圧のかかる国際舞台で勝ち切った安藤には、率先してその壁を破ってほしいところだ。

「試合に出てプレーで示すことはもちろんですし、自分がアビスパを引っ張っていく必要がある」と本人も語気を強めていただけに、もっと勝利に直結した仕事をしていく必要があるだろう。もう一つ、注文をつけるとしたら、守備対応にもう少し余裕を持つことだ。この日の安藤は前半終了間際の金子拓郎、後半26分のマテウス・サヴィオとPKを取られてもおかしくないシーンが2度あった。

「金子選手のところは全く違うと思いますけど、サヴィオ選手のところはレフェリーに聞いたら『足がかかってるけど……』という答えでした。ああいうギリギリの対応は少なくしないといけないし、そこは自分の課題でもある。余裕や予測、ポジショニングというのは本当に大事だし、キツい時間帯に楽をせず、細かなポジション取りをもっとやっていく必要があると思います」と安藤自身もしっかりと自分自身を客観視していた。

 そういったディテールの積み重ねが日本代表定着に直結する。9月からは欧州組フルメンバーが参戦する代表活動が再開されるが、安藤はその挑戦権を手にしなければいけない。冨安健洋、伊藤洋輝らDF陣の負傷者続出という現状もあり、今は国内組にとってチャンス。その座を荒木や古賀らと競っていくことになるだろうが、安藤の底知れぬポテンシャルには期待が高まる一方だ。


「福岡で結果とプレーの質を示さないといけないし、その先に代表があると思っています。今はチームが点を取れていないし、自分がゴールを決められれば、個人のストロングにもなる。そういうところも含めて取り組みたいし、チーム一丸となって頑張っていきたいですね」。安藤のような這い上がってきた遅咲きの選手がグングン成長し、代表定着、ワールドカップ出場という成功ロードを歩んでくれれば、多くの人々に希望を与えることになる。彼には雑草魂を前面に押し出して、ここから福岡の勝利請負人になってほしいものである。

取材・文=元川悦子


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