サンフレッチェ広島レジーナは昨シーズン、WEリーグカップで連覇を成し遂げたものの、WEリーグでは5位で終わり、またもトップ3の牙城を崩せなかった。2025/26シーズンは赤井秀一新監督を迎え、新体制でトップ3入りとその先の優勝を目指す。


 WEリーグ開幕に向けたこのインタビューを前に、「新シーズンへの熱い気持ちを聞かせていただけたら」と伝えると、MF中嶋淑乃は「そんな熱いこと言えないですよ」と笑った。たしかに、中嶋の飄々とした雰囲気に”熱”という表現はあまり似合わない。マイペースだという性格はピッチでも変わらず、プレーはアグレッシブだが、武器のドリブルで相手を抜く颯爽とした姿は、むしろ見ている方が熱くなる。

 昨シーズンは主戦場の左サイドよりも新境地のセンターフォワードでプレーする機会が多く、最前線で攻守に奮闘した。WEリーグでは21試合に出場して1ゴールを記録し、WEリーグカップでは6試合出場で2ゴールを挙げて連覇に大きく貢献。WEリーグの監督および選手の投票で決まるベストイレブンにも初選出を果たした。だが、本人は「個人としては納得いく結果を出せなかった」と決して満足はしていない。

 いよいよ幕を開ける2025/26シーズン。勝負の5年目に向けて決意を新たにする中嶋に、昨シーズンの振り返りや新シーズンにかける思いを聞いた。

インタビュー=湊昂大

――昨シーズンは個人的にどんなシーズンでしたか?
中嶋 昨シーズンは主にフォワードで1年間やりましたが、今までフォワードをやったことがなかったので、最初はあまりいい動きができませんでした。でも、徐々にフォワードの動きも覚えてきて、プレーの幅は広がったと思います。ただ、いいプレーをしても1番大事な結果がついてこず、フォワードなのに全然点を取れなかったので、今シーズンは得点のところにこだわってやっていきたいです。


――フォワードでのプレーを経験してどんな収穫がありましたか?
中嶋 最初はあまり動きがわからなかったので、まずは守備を頑張ろうと思っていて、前線からの守備でチームができるだけボールを取れるようにプレーすることを意識しました。攻撃ではもう自由に動いていいと監督に言われていて、前線にいるだけじゃなくて、(中盤に)降りてもいい感じでしたし、ポケットに抜け出したり、ボール受け入れたりしましたが、肝心のゴール前にいることができていなかった。サイドに流れる動きとかはタイミングをつかめましたが、ゴール前にいれなかったのが個人として1番残念だったポイントです。

――新しいポジションで難しさもあったと思いますが、今後に活かせることはありますか?
中嶋 普段プレーしているサイドだったら全て見えているし、囲まれることはあまりないですが、フォワードは後ろからも前からも(相手選手が)来るので、そこは難しかったです。今はサイドでやっていてフォワードにこういう動きしてほしいと思うことが結構ありますし、フォワードでプレーしていた時は、サイドの人からしたらここにいて欲しいだろうなと思うことが結構あって、両方の気持ちがわかることは発見でした。

――新しい経験をして自分のプレースタイルに変化はありましたか?
中嶋 今まではとにかく仕掛けるだけで、自分のタイミングさえ合えば仕掛けていましたが、今は割と周りを見るようになって、プレーの判断が変わったなと思います。でも、逆に周りの動きを気にしすぎるようになって、『もっと自分で行けばいいのに』とも言われるので、良くも悪くもという感じです。

――WEリーグのベストイレブンにトップ3以外で唯一選ばれました。どういったところが評価されたと捉えていますか?
中嶋 選ばれると思っていなかったので、おかしいなと思っていました(笑)。あまりシュートを決められなかったので、ポケットを取って起点を作ったり、ちょっと降りて前を向いて縦パスを出したり、そういうプレーが評価されたのかなと思います。結果が出ていない中でも、他の選手たちが投票してくれたのはすごくうれしかったです。

――7月には東アジアE-1サッカー選手権2025に出場したWEリーグ組主体のなでしこジャパンに選ばれ、全3試合に出場しました。
ご自身のパフォーマンスはいかがでしたか?
中嶋 チャイニーズ・タイペイ(台湾)戦と韓国戦は、個人的に悪くはなかったと思っていましたが、やっぱり(優勝がかかった)中国戦で仕掛けられず、消極的なプレーになってしまったのが悔しかったです。

―――「消極的」と言うと、赤井監督に初戦の台湾戦後、中嶋選手の試合での印象をお聞きしたら、「少し消極的な部分があったし、代表選手としては物足りなさを感じた」という話をされていました。
中嶋 自分もそうだと思います。もっといけるなと思いましたし、最近はプレーがちょっと消極的になっているなと自分でも思っています。

――その消極的になっている理由はどう捉えていますか?
中嶋 2年前ぐらいは全部『自分』って感じだったと思います。でも、そこから対策されたりして、自分でも自信なさげだなと感じています。なので、もっと自分でいけるようにしたいですし、今シーズンはたくさん仕掛けるので、そこは頑張りたいです。

――ピッチで相手選手を前にドリブルを仕掛ける時は、どんな意識や気持ちを持っていますか?
中嶋 よく相手を見て仕掛けるか仕掛けないかを判断しています。(自分に来る)相手の枚数が多かったら、そのぶん仲間が空いているので、ボールを持たずにすぐ渡そうと思っています。でも、あまり仕掛けられていないときは、相手が何人来ていようが、次ボールが来たら絶対自分で仕掛けようと考えている時もあります。ボールを持って相手を抜くときは、あまり考えていなくて、自分の感覚を大事にしています。

――そういったプレーをしている中で、気持ちが熱くなることはありますか?
中嶋 あまりないですね。
怒ることもないですし、割と冷静だと思います。でも、試合前はめっちゃ緊張していて、チームメイトに背中を叩いてもらったりしています。ただ、試合が始まると、感情の波は激しくないと思います。もう自分のことを淡々とっていう感じです。

―――例えば、感情が動きそうなシュートチャンスのときはいかがですか?
中嶋 調子がいい時は本当に“無”ですね。でも、調子が悪いと考えなくていいことも考えてしまって、そういうときは大体シュートを外してしまうことが多いです。なので、あまり考えすぎない方がいいプレーができると思っています。

――2022/23シーズンはリーグ戦でチーム最多の7得点を記録しましたが、直近2シーズンはそれぞれ1得点のみでした。ゴールへのこだわりや意識に変化はありますか?
中嶋 昨シーズンはあまりシュートも打てていなかったので、とにかくゴールに向かうプレーを増やしたいと思っています。(赤井)監督からも試合に入る前とかにもっと仕掛けろと言われていて、自分が仕掛けた方が相手にとっても嫌だと思いますし、今シーズンはゴールを決めてチームを勝たせるプレーをしたいので、もっと自分で仕掛けてシュートまでいけるシーンを多く作っていきたいです。

――赤井監督が新たに就任して、これまでのチーム作りや監督のサッカーの浸透度に手応えはありますか?
中嶋 これまで積み上げてきた守備は、昨シーズンのリーグ戦でも2番目に少ない失点数で良かったので、そこは継続していきたいです。今シーズンは監督が変わって攻撃の部分を結構言われてきて、ゴール前に人数をからけれるようになったので、ボールを持った選手をみんなが追い越していく動きも増えましたし、今シーズンはより得点にこだわってやれていると思います。


――S広島Rは昨シーズン後半戦初戦の三菱重工浦和レッズレディース戦で「自由すぎる女王の大祭典」を開催し、当時WEリーグ史上最多の2万156人が観戦に訪れました。改めて2万人を超える観客の前でプレーした経験はいかがでしたか?
中嶋 女子の試合で初めてあんなに入ってもらえて、すごくいい雰囲気で試合することができました。本当にいい雰囲気をサポーターのみなさんが作ってくれたので、浦和に押されて厳しい試合でしたけど、負けなかったのは本当にみなさんの応援のおかげだと思っています。

――昨季のリーグ戦ではホームゲーム1試合平均5482人の入場者数を記録し、WEリーグで初めて5000人超を達成しました。新しいスタジアムやWEリーグトップの観客数という環境でプレーできることを選手としてどう捉えていますか?
中嶋 やっぱりたくさんの方が見に来てくれるとすごくうれしいですし、試合でも気合が入ります。たくさんの方に見に来てもらえるように、私たちも結果で恩返ししたいと思っています。

――そうした環境の中でゴールへの意気込みを教えてください。
中嶋 たくさんの方が応援に来てくれますし、勝つ試合を見せたいので、私も得点を決めてみんなで笑い合えるようにしたいです。(個人的には)これまでで1番取った7点は取りたいです。

――最後にサポーターに向けてメッセージをお願いします。
中嶋 今シーズンこそトップ3に入りたいと思っているので、そのために個人的にもたくさん点を取ってチームを勝たせられるように頑張りたいです。今シーズンもスタジアムでたくさんの応援をよろしくお願いします。



編集部おすすめ