7月20日のJ1第24節 柏レイソル戦を3−2で勝ち切り、2位で中断期間に入っていた鹿島アントラーズ。ここから“常勝軍団復活”へと突き進むためには、8月の快進撃が必要不可欠だ。


 8月に入り6日に行われた天皇杯ラウンド16では、アビスパ福岡との死闘を制した。雷による中断、120分間の長丁場の試合を乗り切ったことでチーム全体の士気は上がったが、消耗度は間違いなく高かった。そこから中3日で10日のJ1再開となる第25節 FC東京戦に向かうのはコンディション的に厳しかったのは確か。それでもタフに戦い抜くしかなかった。

 福岡戦は途中出場で体力を温存した左サイドバック小川諒也は満を持してスタメンに復帰した。6月新加入の小川にとって、FC東京は2015~22年まで7年半過ごした古巣。味の素スタジアムも慣れ親しんだ場所だ。「アウェイのロッカーに行くのは初めての経験で新鮮でしたし、久しぶりに東京の観客や応援を聞いて、こみ上げてくるものがありました」と本人も神妙な面持ちで言う。

 鹿島の左SBに陣取った小川に託されたのは、対面する佐藤恵允、大外から駆け上がってくる長友佑都を封じること。特に長友の動きは神出鬼没で、たびたびフリーになっていたため、小川もヒヤリとさせられたシーンがあった。「東京が結構、攻撃的に来たんで、どうしても外の佑都君がフリーになってしまう場面が何回かありました。佑都君とは練習や紅白戦でしかマッチアップしたことはなくて、本番で2人ともガチというのは初めて。
すごく楽しかったですし、さすがだなと思う部分もありました。来月39歳? そう考えると本当にすごいですよね。全然まだまだ走れていると思います」と小川は敵となった大先輩の個人能力の高さを再認識。大きな刺激を受けたという。

 そうした猛攻をキム・テヒョンや植田直通、早川友基らとともにガッチリと守った上で、積極果敢に攻めにも参加した。特に目についたのは、前半15分のレオ・セアラの決定機。鈴木優磨からのパスにタイミングよく上がり、左クロスを上げるというのは、小川の真骨頂。これが相手守護神のキム・スンギュに防がれたのは残念だったが、鹿島移籍当時に比べると着実に状態が良くなっている様子だ。

 こうして小川は攻守両面で90分間奮闘し、チームのクリーンシートに貢献。そのうえで、かつて同じくFC東京に在籍していた田川亨介が値千金の決勝弾をマークした。1−0で勝ち切ったのだから、背番号7とっては最高の古巣への恩返しになったに違いない。

「今日は内容ではちょっと相手に負けてるかなっていうくらいの試合でしたけど、そういうゲームを勝っていくことがすごく大事。
自分たちのサッカーをやりつつ、自信を持ってプレーできれば、いい選手も揃っているんで、優勝に向かっていけるかなと思っています(小川)」。「しぶとく勝ち切る」という鹿島の文化に着実に馴染みつつあるようだ。

 リーグ再開初戦を白星で発進し、首位に再浮上を果たした鹿島。ここからシーズンラストまでトップを維持し、2016年以来のJ1タイトルを奪還するためには、守備陣の安定感が必要不可欠だ。安西幸輝というキーマンが左ひざ前十字じん帯損傷で長期離脱に陥っているだけに、後を託された小川の存在は非常に重要なのである。

「僕は『責任を託される』という枠には入らないですね(笑)。安西君も僕が天皇杯(3回戦・Vファーレン長崎戦)で点を取った時も『お前が点取ったのか、最悪』みたいな感じで言ってきましたし(笑)。それでも彼はいつも明るくて、チームのムードメーカーだし、6~7月に負けが続いた時にも安西君が声をかけてくれた。それでみんなが前向きになれたと思います。その安西君が大ケガをした直後に、鹿島が『優勝するために必要だ』と評価して僕を取ってくれたのはすごく嬉しいこと。自分はその期待に応えられるようにしたいですね。鹿島は今、優勝できる位置にいるんで、そこに貢献したいという思いは強いです」と小川は頂点を目指して全力で戦っていく覚悟だ。


 FC東京時代を振り返ってみると、優勝経験は2020年のJリーグYBCルヴァンカップだけで、リーグタイトルは手にしていない。その後、赴いたポルトガルのヴィトーリア、ベルギーのシント・トロイデンでも大きな成果を残せなかった。だからこそ、鹿島で大輪の花を咲かせる必要がある。第一次森保ジャパンの2021年に日本代表5試合に出場しているレフティも現在28歳。ポテンシャルを大きく花開かせるにふさわしい時期に来ている。同い年の盟友・鈴木優磨、三竿健斗との相性も良く、お互いに力を引き出し合える関係性を築いているのも力強い材料だ。彼らが軸となり、鹿島を頂点へと押し上げられれば理想的。小川にはそのけん引役になってほしいものである。

取材・文=元川悦子


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