サンフレッチェ広島は10日、明治安田J1リーグ第25節で清水エスパルスをホームのエディオンピースウイング広島(Eピース)に迎えた。被爆80年を迎えた8月6日にも両チームはEピースでの天皇杯4回戦で対戦し、広島が3-0の快勝。
中3日で再び同じ舞台で激突した。

 今節は広島が2018年から毎年行っているピースマッチとして開催され、試合に先駆けて広島の久保雅義代表取締役社長と清水の山室晋也代表取締役社長らがスタジアム近くの平和記念公園を訪れ、原爆死没者慰霊碑に献花した。

「(今年は)被爆80年と節目の年ではありますが、それに関係なく8月6日というのは広島にとって特別で大切な日です。サッカーは全世界でプレーされ、国籍や人種、文化関係なく、みんなが共通のルールで楽しめるスポーツです。そのサッカーができるというのは平和だからこそ。スポーツ、サッカーを通して平和の大切さを発信するのが我々の使命であり、未来永劫続けていかなければいけないと思っています」(久保社長)

「初めて献花と慰霊碑参拝をさせていただきました。(慰霊碑に刻まれている)『安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから』という言葉は私の胸にも深く刻まれました。平和な状態でサッカーをみんなで楽しめるという、素晴らしい時代をずっと続けていかなければいけないと今日改めて思いました」(山室社長)
 
 試合のキックオフ前には黙祷と両チーム選手代表による「平和宣言」を実施。なお、両チームの選手は、元日本代表の釜本邦茂氏の訃報を受けて喪章を着用してプレーした。清水はゲームキャプテンを務めたDF住吉ジェラニレショーンが平和宣言を担当した。

「戦後80年を迎える今、こうしてサッカーができる平和にあらためて感謝し、これからも多くの人に勇気や感動を与えることができるよう、平和への思いを胸にプレーすることを、ここに宣言します」

 元広島所属の住吉は試合後、「ピースマッチで自分が平和宣言をできたことはすごくありがたいことだと思います。2年半ですけど、この地でサッカーができたことをすごく誇りに思っていて、キャプテンという形で、リベンジマッチということもあって自分の中では思いが詰まった試合になりました」と心境を明かした。


 広島は地元出身のMF中島洋太朗が平和宣言を行った。「被爆80年の今を生きる、私たち若い世代が平和への思いを受け継ぎ、広島で育った選手として全力でプレーすることで、サッカーを通じて、広島から日本へ、そして世界へと、その思いを発信し続けていくことを、ここに宣言します」

 被爆地を拠点とするチームを代表した19歳は試合後、「広島は日本の中でも平和に対する思いが特別な地域だと思うし、小さい頃から原爆や平和について学びながら育ってきたので、自分たちがサッカーを通して少しでもそういったところに貢献していきたいです」と思いを明かした。
 
 中島は6月に約2カ月半の負傷離脱から復帰し、公式戦8試合目の今節はベンチスタートだった。0-0で迎えた60分に途中出場し、「ホームで勝ちにいくために、ボールを持ったら前を見て、どんどん運んでいこうと思っていた」と全力プレーでチームを前進させた。

 出場から2分後、さっそく中島らしさが輝いた。最終ラインに下がった相手ボランチに中島がプレッシャーをかけると、味方も連動してMF中野就斗がボールをカット。中野のダイレクトパスを中島が左サイドを背に半身で受けると同時に、左サイドではFW中村草太が走り出し、前線ではFW木下康介が住吉を引きつけながら相手の裏へ飛び出す。

 すると、中島は背を向けていたはずの左サイドにパスを送り、木下の動きで空いたスペースに走り込んだ中村に合わせて絶好のチャンスを演出。予想を遥かに超えるプレーだったが、背番号35にはすべてが見えていた。試合後、当たり前のように淡々と話す。

「まず草太くんが見えて、その後に草太くんが裏に走るのが見えたので、裏にどうやって出そうかを考えた時に、そのパスコースが見えたので(パスを出した)っていう感じでした」

 圧巻のパスで決定機を作ったが、中村のシュートは惜しくも決まらず。得点にはつながらなかったものの、中島は「ケガから復帰して今日みたいなパスをまだ出せていなかったので、ああいったパスが1つできたのはいい感覚だった」と胸を張った。


 左ひざのケガから復帰して以降、思うようなパフォーマンスが出せずに苦しんでいた。若き司令塔は、「これだけ長い期間、サッカーをしなかったことがないので、頭の中のアイディアが出てくるスピードが遅かったり、アイディアの数がちょっと少なかったりっていうところはあったと思う」と振り返る。

 それでも、この試合では89分にもスルーパスでチャンスを演出するなど、持ち前のクオリティを発揮。「ゲームの流れはもちろんあると思うけど、後半から出たことでいいリズムを持ってプレーできた。そういったところから少しずつ感覚を取り戻していくのは大事だと思う。こういった形で少しずついいプレーが増えていけば、感覚はもっと良くなってくる」と復活の兆しを見せた。

 ただ、大雨の試合は激闘の末にお互い譲らずスコアレスドローで終わった。約30分間ピッチで戦った中島は、「プレー自体は悪くなかったと思うけど、こういう出場の仕方をした時にチームを勝ちに持っていける力がもっと必要だと思う」と悔しさを滲ませ、「自分自身も納得できるようなパフォーマンスはできていないので、もっと上げていかないといけない」と完全復活へますます意欲を燃やしている。

 勝ち点1をつかんだ広島は、16日のガンバ大阪戦、20日のヴィッセル神戸戦とホームでの連戦が続く。中島は、「落とせない試合が続くし、夏での連戦という厳しい状況だけど、チームみんなの力でしっかり勝ち点を積み重ねていきたい」と意気込んだ。

取材・文=湊昂大
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