日本代表のコーチを務める名波浩氏が13日、コーチ就任後初となるメディアの囲み取材に応じ、就任から2年8カ月の思いを振り返った。

 かつては日本代表の10番を背負い、初めて日本が出場した1998年のFIFAワールドカップ(W杯)フランス大会にも出場した名波氏。
現役引退後は、ジュビロ磐田、松本山雅FCで監督を務めると、2023年1月に森保一監督率いる日本代表のコーチに就任。第二次森保政権の新顔としてチームに加わった。

 攻撃面を任されている名波氏は、2年8カ月を振り返り「僕自身がポンコツなのが一番印象に残っています」とコメント。「ポンコツで言ったら、点が取れない試合があったり、攻撃が流暢にいかない時があるのは全て僕の責任だと思います。監督に任されている仕事を全うしているかと言ったら、という意味でのポンコツです」と、満足できないことの方が多くあり、反省しきりだと明かした。

 カタール・ワールドカップ後に熱烈なラブコールを受けてコーチに就任した名波氏だが、「代表OBとして代表チームに携わるということは、何にも変え難い名誉だと思うので、相当な熟考はしましたけど、最後はポイチさんに返事させてもらいました」とコメント。「一番大きなポイントがあって、そこが合わなかったら僕はやりませんと先にポイチさんに伝えました」と内情を明かした中で、「その後に2人で食事をする機会を作ってもらえて、その時に答えはどうですか?と聞いたら、僕と全く同じ答えだったので、『じゃあちょっと考えます』と。そこで初めて考える方に行った感じですね」と、思いを受け止めて悩んだ末に受諾したと明かした。

 現役時代も日本代表で共にプレーした森保監督と名波氏。近くで共に仕事をしたことで見えたものについては「日々凄さも、人間味も感じていますし、ポイチさんが率いるチームがなぜ強くなっていくかとか、なぜ我慢強いかとか、なぜ粘り強いかというのが凄くわかった気がします。答えは言いませんが(笑)」と、改めて凄さを感じたとのこと。一方で、「コーチとして、反省材料はいっぱいあるゲームはたくさんあります。
なぜ、あそこでこういうふうに言えなかった、動けなかったというのは毎回感じています」と、役割を全うできていないと感じることがまだまだ多くあると反省した。

 現在の日本代表は史上最速で8大会連続8度目のワールドカップ出場を決め、FIFAワールドカップ26(北中米W杯)の本大会までは残り1年を切った状況。海外組が主軸の大半を占めており、史上最強とまで言われる選手たちについては「まず、いの一番にリスペクトがありますし、自分より、自分たちより凄いキャリアを積んでいるので、個人昇格、ステップアップを続けていって欲しいと思っています」とコメント。「個人昇格に一役買えたら良いななんて大それたことは言うつもりはなくて、彼らがヘルプを求めてきた時に、10個アドバイスがあるとしたら、1つでも身になることを言えたら良いなという感覚です」と、自身の経験から何か少しでも力になりたいと考えているという。

 一方で、選手たちを近くで見守る中で感じるのは“メンタル面”の変化。「一番は選手個々が自クラブで出続けたり、試合で結果を出すという成功体験をしたり、タイトルを獲った選手が何人もいて、その中でシーズンの間、シーズン終了後に個人昇格した選手が複数人いるということは、チームとしてのモチベーションを高い位置で維持できている大きな要因だと思います。ボス(森保監督)がいつも言っているワールドカップ優勝という明確な目標を毎回の活動で口にすることで、選手たちも自然とそういった流れになっていると感じる時が多々あります」と、日々自信を掴み、目標に向かって邁進する姿を見ているとのこと。そして、先日行われていた東アジアE-1サッカー選手権では、国内組の選手たちの変化を目の当たりにしたと明かした。

「この間のE-1の時は、居残りのシュート練習をやっている時に、垣田(裕暉)、(山田)新、大関(友翔)、(宮代)大聖…5人ぐらいの練習の時に、ヨーロッパとか有名な選手で誰が好きなの?と聞いたらどんどん名前が出てくる。その名前が挙がった選手が、対象とする選手なんだよと。それを言われてハッとなった瞬間を僕自身は感じました。まだまだ名前を出した選手は天井人で、自分たちはまだ凄く下にいると思っていたところが、『このグループはワールドカップ優勝を目指しているんだから、天井人たちに追いつくために努力するグループなんだぞ』というのを認識させられたかなという点では、メンタル面の向上は日々あるかなと感じました」

 日々選手たちの意識も変化している日本代表。
この2年半で最も反省しているのは2023年のアジア杯とのこと。「監督が求めるサッカー、やりたいサッカーの具現化を目指して、自分の語彙力と映像の力、ピッチでの絵合わせ等々で擦り合わせが上手くいかなかったら結果が出ないんだなというのは、アジアカップで痛い目を見ました。その反省は、最終的にはワールドカップ予選に活きたかなと思います」と語り、選手たちへのアプローチの仕方など、スケジュールとチーム状況を考えて伝えていくことの難しさを痛感したと明かした。

 人一倍、日本代表への熱い想いを持つ名波氏は「(コーチに)就任する前にポイチさんとご飯を食べた時に、代表チームへの想いというのは強く伝えさせてもらったり、ポイチさんが就任する前も含めて、代表の試合を見逃したことはほとんどないので、代表チームへの想いは人一倍強いのかなと思います」とコメント。現役時代を振り返りながら、「加茂(周)さんや岡田(武史)さんは、そこまで日本代表への想いというのを伝えてくる方ではなかったですが、そこにいた哲さん(柱谷哲二)や井原さん(井原正巳)はドーハを経験していて、過去にどれだけ暗黒の代表があって、今自分たちがどれだけ煌びやかな舞台でやれているかというのを22歳の僕にちゃんと伝えてくれていたので、それが後の(中村)俊輔とか、(香川)真司とか…過去の代表の話をしてくれている松井(大輔)とか、原口元気とかの想いが伝わっているのを感じると、爽快な気分になるというか、自分が言ってきたこと、やってきたことは良かったかなと思います」と、しっかりと後輩たちにも伝承されていると感じるとのこと。「今それを選手たちに伝えているかというと、ボスが伝えているので、特段僕がということはないですが、選手たちは我々の時以上に感じてやっていると思いますし、(吉田)麻也が(カタールW杯の)ドイツ戦の前のロッカーで話した歴史に関する話は、今の選手たちも次に歴史を変えるのは自分たちの番だと肝に命じていると思うので、その波に僕は乗ろうと思っている感じです。その方がナチュラルかなと思います」と、しっかりと同じ熱量を持って日本代表を感じられていると語った。

 1998年のフランス大会で日本代表にとってのワールドカップの初陣でピッチに立った名波氏は、2026年に再びワールドカップの舞台に戻ってくる。再び日本国歌である『君が代』を聞くことになるが「それはヤバいですね。まさか自分が、またワールドカップで国歌を聞けるなんて思っていなかったです」とコメント。「ポイチさんいつも泣くんですけど、僕の隣で泣いていてズルいんですよね。貰いそうになってもギリギリで耐えてます。
そういう感情にいつもなっているから、感慨深いという言葉では言い表せないですね…ヤバいと思う。ついに泣くかもしれないです」と、1年後に訪れる瞬間は今でも想像できないものの、想いが込み上げることは間違いなさそうだ。

 そして一足先に9月にはワールドカップ開催地でもあるアメリカで開催国のメキシコ代表、アメリカ代表と対戦する。2年ぶりにアジア以外の国との対戦となるが、「年明けの3月シリーズ、6月シリーズにも選手たちにはアプローチしていて、この2カ国(メキシコ、アメリカ)とやれるのはここ1年以上アジアとしかやっていないので、物凄い財産になると思います」とコメント。「1つは現状を測る物差しになると思いますし、開催地、開催エリアでやれることも感じられるので、ネガティブな要素はないかなと思います。アメリカやメキシコに対してということよりも、別大陸のチームとアウェイでやれるということは、選手たちも強く感じていると思います」と、久々のアジア以外の対戦が楽しみだと語り、「3月シリーズから呼ばれていなかったり、ケガでしばらく呼ばれていない選手たちは、この9月シリーズを凄く楽しみにしていると思うので、そういう付加価値もついてくるような2試合になると思います」と、1年後の本番に向けて良い準備ができる2試合になるだろうと語った。
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