日本代表のコーチを務める齊藤俊秀氏が13日にメディアの囲み取材に応じ、第二次政権の森保ジャパン、そして1年後に迫るFIFAワールドカップ26(北中米W杯)について語った。

 日本代表が初めて出場した1998年のFIFAワールドカップ(W杯)フランス大会のメンバーでもある齊藤氏は、清水エスパルスでプロキャリアをスタート。
その後、湘南ベルマーレでプレーすると、当時静岡県リーグ1部の藤枝MYFCに移籍。地域リーグやJFLでのプレーを経験するとともに、選手兼監督として活躍。2013年に現役を引退した。

 2014年にはU-15日本代表のコーチに就任すると、2018年には東京オリンピックを目指すU-21日本代表のコーチに就任。2019年からは日本代表のコーチに就任すると、2022年のカタール・ワールドカップを経験。森保一監督の下で、第二次政権でもコーチとして従事している。

 日本では史上初となる2大会連続でのワールドカップ指揮となる森保監督。第二次森保ジャパンの印象については「今こういった形で日本代表活動をやらせてもらえていることが、決して当たり前じゃないなと」と語り、「皆さんに応援していただいて今に至っているので、この先も何が起こるか分かりませんが、準備と『人事を尽くして天命を待つ』じゃないですけど、しっかり引き続きやり続けていきたい」と意気込み。「僕はたまたま2回目もやらせてもらっていますが、普通はあり得ないかなと思います。森保監督もいつも言っているように、日本のために、選手のために。僕の立場で言えば、さらに監督のためにということだと思うので、残り1年も貫きたいと思います」と、FIFAワールドカップ26(北中米W杯)へも意気込んだ。

 カタールW杯までの第一次政権と現在の違いについては「年月の積み重ねというか、森保監督になってから7年以上経っていると思いますし、東京五輪世代からやっている選手と森保監督の時間軸も積み上げてきているものがある」と、監督と選手の付き合いの長さが良い影響が出ているとコメント。
また、齊藤氏は現在のチームの中心となっている東京オリンピック世代の選手たちを以前からよく知っている状況もあり、居残り練習や個人トレーニングでも選手たちをよく見ている。選手の変化についても「育成年代の2016年から一緒にやってきた選手もいて、当時からの人となりも理解していますし、伸び代も見てきています。全体だけではなく個にもフォーカスして二人三脚でやっていきたいなと。『ベストキッド』の師匠のような、組み手もちゃんと取れるような、練習台にもなれるような存在になりたいなと常々思っています」と語り、ただ指導するだけではなく、近くで関わってやっていきたいとした。

 日本代表では守備を任されている齊藤氏。指導する選手のほとんどがヨーロッパでプレーしており、一時期に比べてセンターバック陣の充実ぶりが顕著だ。自身も現役時代にセンターバックとしてプレーしてきた中で、当時との変化について「日本人のきめ細かさというか、日本人を知れば知るほどヨーロッパの指導者たちも起用したいとなると思います」と日本人選手の特徴について語り、「デュエルという言葉があって、単純に外国人のフィジカルの強い選手と対峙する時は、フィジカルレベルを上げれば対応できるんじゃないか。『ドラゴンボール』のスーパーサイヤ人1、2のイメージみたいに強くなればなるほど抑えられる。でも、ある領域に行くと、それだけではダメだと。ナチュラルな状況でも予測も含めた準備が、日本人選手はできると思うので、戦わずして勝つ駆け引きもできます」と、フィジカル勝負ではない形でデュエルを制することができる能力があるとした。

 さらに、現在の代表メンバーはフィジカルレベルも上がっているとコメント。「サイズが上がっているのもあります。
マチ(町田浩樹)が190cm、トミ(冨安健洋)が187cm、コウ(板倉滉)も187cm、ヒロキ(伊藤洋輝)も189cmとかある。高井(幸大)に至っては193cm以上あると思うので、サイズだけでもヨーロッパの選手に引けを取らない」と語り、「駆け引きとかだけでなく、ベースの部分のサイズも大きくなっている。両輪で成長して来ているので、鬼に金棒だし、向こうに行ける所以になっていると思います」と、大きく成長していっている段階だとした。

 また、これまでの選手たちがヨーロッパで残してきた実績も重要だとコメント。「(吉田)麻也や(長友)佑都などパイオニアもいます。ハセ(長谷部誠)然り。時代が変遷して、第3世代、第4世代、第5世代と選手たちも常にアップデートされている。ただのアップデートではなく、彼らがヨーロッパで力を示してきた歴史もあるので、そこは忘れてはいけないと思います」と、多くの日本人選手たちが積み上げてきた信頼と実績が、現在の環境をもたらしていると語った。

 現在の日本代表は森保監督や齊藤氏を始め、名波浩氏、前田遼一氏、下田崇氏、長谷部誠氏と日本代表経験者が多くコーチを務めている状況。各々が多くの経験を持っている中で「個々が分業ではなく“共働”という感じで交わり合っている。忌憚なく日々確認しあっているので、そこは森保監督の凄さだと思いますけど、良い意味で仲良く、変な壁なくやれていることがより広がっているのかなと思います」と、コーチ陣も良い関係が築けているとのこと。特に現役生活を終えて間もない長谷部の入閣は大きかったようで「監督の世代がいて、僕ら世代がいて、遼一の世代がいて、ハセがいることでより縦軸が決まる。
ある世代だけいないということがない。そして、(長友)佑都がいることで、世代が繋がっていって、隙がない縦軸が決まっているなと思います」と、各世代の経験を還元できる体制が整っていると述べ「一気通貫で上から若い世代までという組織作りは、監督が凄いなと思います」と組織作りについて語った。

 1年後には優勝を目指して臨む北中米W杯がスタート。その中で、守備面での大きな特徴の1つがカウンターを受けた際の帰陣の速さ。これは「SSBK(サムライ・スプリントバック)」と名付けられているが、「『SGGK』スーパーグレートゴールキーパー若林源三に勝手にあやかりました」と『キャプテン翼』からもじって命名したと言及。「出発点はドイツ代表に4ー1で勝った親善試合」と、きっかけとなったのはカタールW杯後の2023年9月9日に行われたドイツ代表との親善試合。アウェイの地で4ー1で日本が勝利した試合だが、「4ー1で勝っている中で、93分のアディショナルタイムにコーナーキックからカウンターを受けたんですが、10人全員が一気に戻ったのを見て、これは凄いなと。アディショナルタイムで4ー1でリードしているのに。時間もそうだし、スコアもそうだし、0ー0だろうが1ー0だろうが、これをやる選手たちは凄い」と齊藤氏は当時を振り返り、さらには選手たちが日頃プレーするクラブの映像からもヒントがあったとコメント。「アーセナルやリヴァプールがそういった戻りをしていて、トミ(冨安健洋)が所属していたからそういうシーンが見られるし、(遠藤)航がいるから見られる。彼らの日常から紐解いています」と、ハイレベルなものを取り入れていきやすい環境も今はあると語った。

 さらにすでに優勝を目指す上での調整は日頃の活動で行えていると言及。
「紅白戦が一番レベルが高い」と、アジア予選の最中も相手の対策ではなく、紅白戦の反省を多く行っていたとし、「ドイツやスペインとやっているような現象が起こる。次のミーティングではその修正の話になります」とコメント。「対戦相手への準備の積み上げではなく、そこからワールドカップ本大会、この9月からの戦いに向けて、去年の6月ぐらいからやっています」と、アジアではなく、世界レベルの戦いに向けた反省を積み上げてきたとした。齊藤氏は「1回1回の活動の中で、ワールドカップ本大会を見据えた、自分たちよりランキング上位の国を見据えた、同レベル同士の相手を見据えた準備が進んでいて、これからもそこを追求することで本大会の糧になるかなと思います」とコメント。残り1年でのさらなる成長に期待が膨らむ。
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