6月のFIFAクラブワールドカップでの惨敗を糧に、国内タイトル獲得に向けて、浦和レッズは力強く前進している。第24節のFC東京戦こそ苦杯を喫したが、そこから公式戦5試合無敗。
天皇杯は順当に準々決勝へ駒を進め、J1リーグでは第26節の名古屋グランパス戦に勝利し、暫定首位の京都サンガF.C.と勝ち点4差まで迫ってきた。

 上昇気流の攻撃陣を担っている一人が右MFの金子拓郎だ。背番号77は名古屋戦で持ち前のドリブル突破を前面に押し出し、対面する佐藤瑶大らを何度も剥がしてチャンスを作っていく。縦関係に位置する石原広教、その後方にいるダニーロ・ボザとのトライアングルも目を引くものがあり、金子がインサイドに絞って石原やボザの上がりを引き出すようなシーンも繰り返し見られた。

 そして最大の見せ場となったのが、前半32分のマテウス・サヴィオの2点目に至る一連の流れだ。名古屋のFKのクリアボールに反応し、高速ドリブルで一目散に前進。キャスパー・ユンカーのイエローカードを誘ってFKをゲットした。浦和はそこから最終ラインのパス回しを経て、石原から金子にボールが渡る。次の瞬間、金子は佐藤と和泉竜司にダブルマークされながら、キレキレのドリブルで突破。中央に持ち込んで、逆サイドから走り込んできたサヴィオにラストパスを送る。これを背番号8が豪快に決め切り、2−0とリードを広げた。このゴールが決勝点になったのだから、金子としてはしてやったりだろう。


「自分が進入していけば、松尾(佑介)が背後に抜けると思った。相手はマンツーマンなので、受け渡しがあまりなくて、DF3枚全員がラインを下げるなと。結果的にサヴィオがフリーになって、そこにうまくパスを通すことができた。ゴールに繋がって良かった。サヴィオがうまく決めてくれたので感謝です」と頼もしい味方を労った。

 後半9分に見せたペナルティエリア手前からの右足シュートにしてもそうだが、最近の金子は大胆な仕掛けやゴールを狙う姿勢に磨きがかかっている。原動力の一つとなっているのは、クラブW杯で修羅場をくぐったこと。浦和はリーベル・プレート、インテル、モンテレイを相手に力の差を突きつけられたが、金子はディナモ・ザグレブ、コルトレイクでの欧州経験を武器に局面打開力を披露。リーベル戦のPK奪取など、目に見える成果も残している。

「世界との差が大きいことは、みんなが痛感したと思います。ただ、差だけじゃなくて、通用した時間帯もあったので、そこを自信に変えて臨むところが大事になってくるかなと思いました」とJ1再開直後にも力を込めたが、「思い切ってチャレンジしていけば迫力ある仕事ができる」と本人も強気の姿勢を保てるようになったのではないか。

 もう一つの変化は「より自分を出そう」といい意味で割り切ったこと。
今年1月に浦和に加入した際には、同じタイミングで加わったマテウス・サヴィオや松本泰志らの良さを生かそうと考えるあまり、どうしてもプレーがこじんまりしがちだった。けれども、金子はもともとダイナミックさが売りのプレーヤー。北海道コンサドーレ札幌時代の2021年には7ゴール、2023年にも8ゴールを挙げているように、フィニッシュでも力を発揮できる鋭さを備えている。その力が浦和加入後はなかなか出せず、本人も苦しんでいたに違いない。そういったモヤモヤした状態から抜け出したのは、紛れもない事実だ。

「今年移籍してしてきて、『(周りに)合わせよう、合わせよう』っていう意識がちょっと強すぎてたかなと。やっぱり自分のプレーをどんどん出していかないといけないというところは、強く意識しています。そうすることで、流動性も生まれている。練習からお互い見ながらやれてるので、サヴィオが落ちたら、誰かがそこに入るとか、(小森)飛絢も機動力あるので、いろいろ合わせながら自分たちでできてるので、すごいいい方向に進んでいると思います」と彼自身も目を輝かせていた。

 名古屋戦を視察した日本代表の森保一監督もボールの奪い合いレベルが一段階上がったことを高く評価していたが、金子自身も守備強度のアップを実感しているという。「開幕当初はウイングがディフェンスラインに吸収されて、6バックみたいな感じで守る試合かなり多くて、なかなか前に出れないっていう状態が続いていた。でも、今はウイングとFWが連動して前からプレスをかけられてるので、より高い位置で攻撃陣がボールを奪える。
チャンスも必然的に多くなるので、そこは変わったところかなと思います」。

 浦和の右サイドとして異彩を放ち、勝利に直結するプレーが増えてきた金子。小森が負傷交代したこともあり、ここからはより目に見える仕事が求められてくる。彼ほどパンチ力のあるシュートを打てる選手がまだJ1リーグ1得点というのはあまりにも少なすぎる。ここから終盤にかけて上位陣との対決が続く上、天皇杯、YBCルヴァンカップと過密日程が続くだけに、背番号77のゴールは必要不可欠。勢いに乗るレフティの本領発揮はここからが本番と言っていい。

取材・文=元川悦子


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