「自分のゴールで勝つことが1番気持ちいいと思うけど、どんな形であれチームが勝つことが1番なので、その思いが全て出てきました」
サンフレッチェ広島レジーナは17日、SOMPO WEリーグ第2節でINAC神戸レオネッサをホームに迎えて対戦し、激闘の末に2-1で今季初勝利を収めた。これでホームでのI神戸戦は3連勝。今季2試合を終えて、2位に浮上した。
立ち上がりはI神戸に押し込まれた中で、S広島Rにアクシデントが発生。キャプテンのDF左山桃子が開始8分に相手との接触で負傷し、一度はプレーを再開させたものの、17分にピッチを後にする事態となった。
S広島Rは開幕直前に同じくセンターバックの呉屋絵理子が右ひざの大ケガで長期離脱となったばかり。ホーム開幕戦でキャプテンも負傷交代となったが、右センターバックで先発したDF市瀬千里は、「まさか守備の要のモモさんが前半でケガしていなくなるとは思っていなかったので、若干焦りはありましたけど、逆にモモさんに頼ってきたところを全部自分がやるっていう責任感はすごく増しました」と奮起した。
左山に代わって出場したDF塩田満彩は右サイドバックを務め、センターバックのコンビは市瀬が昨季と同じ左に移り、右サイドバックで先発したDF嶋田華が右に入った。市瀬はハードな守備で相手の起点となるFW吉田莉胡を封じ、32分には渾身のシュートブロック。「絶対やらせないっていう気持ちがありましたし、あのシーンはゆっくりに見えて、ゾーンに入っていました」と笑みを溢した。
嶋田は、「モモさんがいなくなって負けるのは絶対に嫌だったので、モモさんのためにプレーしました」と気を引き締めて、緊急事態でも安定したパフォーマンスを披露。相方の市瀬も、「華を引っ張れるようなプレーをしたいと思っていたけど、華に引っ張られるシーンも多くて、自分の想像以上に華がセンターバックを全うして、リーダーシップを張ってやってくれました」と後輩を称えた。
S広島Rは前半途中からアグレッシブな姿勢で主導権を握り返すと、42分に先制に成功した。CKの流れでMF小川愛がペナルティエリア左で競り合うと、ボールはファーポストに飛び上がる。翌18日に24歳の誕生日を迎えるDF藤生菜摘が待ち構えて「コースだけを狙った」とセカンドボールを右足ボレー。惜しくも相手GK大熊茜の好セーブに阻まれたが、「こぼれてくると感じてた」とゴール前に動いていた上野が右足で押し込んで先制点を奪った。
昨季最終戦のPK失敗で悔し涙を流したエースストライカーが今季のチームファーストゴールをマーク。「もう自分が決める気持ちでいました」と笑顔で話し、「GKが弾くと思ったので、ナツがいいシュートを打ってくれて、こぼれてきたボールをしっかり決め切ることができました」と得点シーンを振り返った。
1点リードで迎えた後半は立ち上がりに再びI神戸に攻められたが、相手のCKでGK木稲瑠那が立て続けの好セーブで得点を許さず。56分には「積極的にシュートを打ってリズムを作っていこうと思っていた」という古賀がピッチに入り、果敢に裏へ抜け出し、前線で駆け回って攻守に奮闘。チームに前への勢いをもたらした。
58分には古賀が完璧なタイミングで抜け出したはずだったが、オフサイドの判定でゴールは認められず。76分にも再び抜け出して1対1のチャンスを迎えたが、今度はGK大熊のファインセーブに防がれた。それでも、広島出身の23歳は「ああいう判定になったこともサッカーなので、その次のチャンスの時にしっかり決めきれるかどうかが大事だった。
72分には、2日前に2027/28シーズン加入内定とJFA・WEリーグ特別指定選手認定が発表されたばかりのMF伊藤凜莉がいきなり初出場。9677人が見守るホームスタジアムでデビューを飾った21歳は、「出るときは緊張していたけど、ピッチに入ったら周りの選手が声をかけてくれました」と明かし、MF柳瀬楓菜からは「全部仕掛けろ!」と発破をかけられていた。
白熱の試合でI神戸も譲らず、82分にはCKでDF太田美月にヘディングシュートを叩き込まれて同点。太田にマークを外された市瀬は、「前節を見ていてもすごくキーマンになってるという話があった中でマークを託してもらったけど、前半からブロックされて自分がフリーで打たせてしまうところが多くて、結果的に最後にしっかりゴールを決められてしまった。そこは自分の弱さだと感じましたし、次につなげないといけないと思いました」と悔しさを口にした。
終盤に追いつかれる苦しい展開。I神戸とのタフな戦いの中で、不可解なジャッジに悩ませられるシーンも多かったが、それでも熱気を増すばかりの手拍子と声援を力に変えて、S広島Rは最後まで勝利へのこだわりを見せた。
後半アディショナルタイム5分、最後のチャンスだった。FW李誠雅のパスを受けた古賀がペナルティエリア左へ持ち上がり、中央には「無我夢中でゴールに向かって突っ走った」という伊藤凜莉。古賀が「リリに届け!」と気持ちを乗せて折り返すと、ボールは相手DFに当たってオウンゴールとなった。
劇的な勝ち越しにスタジアムの歓喜が弾けた。
古賀の奮闘が実ったシーンを見ていた市瀬は、「ハナノとは仲良くて、昨季苦しい思いをしていたのは近くで見て知っていたので、結果を残せて自分がうれしかったです。(古賀は)本当にどんな立場であろうと100パーセントで練習からやってくれていたので、もう本当に神様が味方してくれたんだなと思います」と感慨にひたった。
直後に試合終了のホイッスルが鳴り、激闘を終えた古賀はピッチの真ん中で歓喜を叫んだ。試合後、「昨シーズンは悔しい思いもたくさんしてきたので、もう悔しい思いはしたくないという気持ちでした」と今季にかける思いを明かし、「エリさんや今日ケガしたモモさんとか、今までチームのために頑張ってきた人たちが試合に出れなくなってしまうのはすごく悲しいけど、そこを自分が代わりにチームのためにという姿勢をどんどん出していきたいです」と身を引き締めた。
試合後、スタンドには約1万人の観客が劇的勝利を喜ぶ姿があり、ピッチには悔しさが報われた古賀をはじめ、メンバー外の選手も含めて全員で喜び合うチームメイトの姿があった。その光景を見渡した市瀬の目には涙が溢れてきた。
「(失点シーンの)申し訳なさもありますけど、前節から2人メンバー外になったり、ケガをしたり、いろんな思いがある選手がいる中で、みんなが本当に喜んでるところ見て泣いちゃいました」(市瀬)
S広島Rは昨季終了後に創設時からチームを引っ張ってきた近賀ゆかりさん(現役引退、現アンバサダー)とGK福元美穂(岡山湯郷Belleに移籍)の2人が退団して転換期を迎えた。今季から赤井秀一監督が就任し、攻守に主導権を握るコンセプトを掲げ、「REBORN REGINA」のスローガンとともに新たなスタートを切った。
これまでは、2万人以上の観客が入った「自由すぎる女王の大祭典」の試合や近賀さんの現役ラストマッチなど大事な試合で勝ちきれないことも多かったが、今季のホーム開幕戦は大歓声を後押しに、最後まで全員で勝利への執念を燃やして白星をつかみ取った。
「チームのみんなが体張って泥臭く戦っている姿をベンチからも見ていたし、ピッチに入ってからも後ろの選手たちが頑張って(ボールを)奪ってくれたので、それをゴールという形で恩返ししたいと思っていました。最後はオウンゴールという形にはなったけど勝ててよかったです」
そう話す古賀の魂の叫びとサポーターの熱い声援が響いたホーム開幕戦。
取材・文=湊昂大