先発出場したDF酒井高徳にとって広島での試合には苦手意識があった。2年前の優勝後、DAZNの番組『内田篤人のFOOTBALL TIME』に出演した際に「戦って嫌なチーム」を問われて「アウェイの広島」を挙げていた。
酒井は今節の試合後、「僕個人のことで、もちろんチームは去年勝っているので、みんなそんなこと思っていないと思うけど」と前置きしつつ、「僕は今まで自分のキャリアの中で広島のアウェイはあまり勝ったことがなかったので、そういうところだと思う」とその理由を口にした。
酒井が過去に広島でのアウェイ戦に出場して勝利したのは、ドイツに渡る前のアルビレックス新潟時代まで遡り、2009年9月26日のJ1第27節。試合終盤に途中出場した試合だった。広島が新スタジアムに移転した昨季の試合は、神戸が3-1で9年ぶりに広島の地で勝利を収めたが、酒井は負傷欠場していた。
今節が新スタジアム初出場となった酒井は、対広島戦について「記憶として負けていることが残っているので、もちろん負けるとも思っていないし、勝ちたいと思っていつも試合しているけど、やっぱりホームの広島の勢いが強いのは、今までも自分の中にあった」と難敵のイメージを明かした。
ただ、この試合は神戸が勢いを持って入り、立ち上がりから相手を押し込む展開となった。酒井は、「シンプルに前に向かうところと、取ったボールを前に運ぶところ、相手を押し込むところ、セカンドボールのところは、対広島だと絶対に大事なところになので、自分たちのやり方がどうのこうのではなく、広島とやり合うのであれば、やっぱりそこをしっかりこなさないといけなかった」と入りの意識を明かし、「それをチームが前半からしっかり出せたのはすごく良かったと思うし、全体のバランスも良かったし、(ボールを)取った時の連動も良かったし、チームとして狙いを持ったいい入りができたと思います」と胸を張った。
前半は相手を押し込む展開が続いてシュートも11本打ったが、相手GK大迫敬介の好守にことごとく阻まれて得点には結びつかない。逆に広島のチャンスもGK前川黛也の好セーブなどで阻止し、0-0で試合を折り返した。
後半は54分にFW大迫勇也が抜け出すところで広島DF佐々木翔に倒されると、VARチェックの結果、決定機阻止で相手が一発退場。
酒井は、「攻撃の形でどう起点を作って相手を押し込むかというところが上手にできなかったのは正直あったので、チームとしてもそこは終わった後も課題として話していました」と振り返り、「チームとしてどう押し込んだ攻撃ができるかというところで、試合の中でなかなか意思疎通ができなかった部分もあったと思います」と指摘した。
数的不利の広島も鋭いカウンターでチャンスを作り、どっちに転んでもおかしくない展開。お互いに強度高くやり合い続けた中で、勝利を引き寄せたのは神戸だった。87分にDF永戸勝也のCKをDF本多勇喜が頭で触ると、ゴール前の混戦からオウンゴールが転がり込んだ。
酒井は、「僕たちのサッカーはやっぱりゴールに迫っていくサッカーだと思うので、コーナーキックを取ることはもちろん1つの戦術だと思うし、自分たちが迫力を持ってゴールに向かっているからこそコーナーキックが多くなって、コーナーキックが多いからこそ得点の機会が多くなって、そこの執念だと思います」と得点の要因を語り、「オウンゴールではあるけど、やっぱりゴール前に行っていることでの必然でもあるとは思うし、コーナーを取っていないと(オウンゴールは)生まれてないので。コーナーを取りに行く動き、直線的なゴールに向かう動きをチームとして続けられたのは良かったことだと思うので、そこはまた生かしていきたいと思います」と話した。
酒井は苦手意識のあった敵地でフル出場し、個人としては16年ぶりにアウェイ広島戦で勝利。神戸も接戦を制して連敗を脱出し、優勝を争う相手から大きな勝ち点3を収めた。「今日は前半から自分たちのペースで行けていたので、トータルで苦手意識の中で勝てたのは、チームとしても僕としてもうれしかった」と喜び、「まず勝てたことは素直に喜んで、勝って修正することが間違いなく次の試合にも大事になってくる」と視線を次へと向けた。
取材・文=湊昂大
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