FIFAワールドカップ26の前哨戦とも言える9月のアメリカ遠征、その初戦となったメキシコ代表戦がオークランド・コロシアムで行われた。日本代表は序盤から守備強度やシュート本数で上回ったが、最後までゴールを奪えず、スコアレスドローとなった。


「局面局面での戦いという部分では、選手個々が頑張ってくれて、勝利していてもおかしくない内容だったかなと思いますが、もっと攻撃のクオリティを上げてシュートの本数を増やさないといけない。ゴールネットを揺らせるようにチーム力を引き上げないといけないと感じています」と日本代表を率いる森保一監督。手応えを覚える一方、決め切る部分の物足りなさも痛感した様子だ。

 指揮官と同じような感想を抱いたのが堂安律だ。右ウイングバックで先発したエースナンバー10は、序盤から凄まじい勢いで寄せ、対面に位置する左SBヘスス・ガジャルドにプレッシャーを与えた。守備強度に関しては申し分のないレベル。本人も「完全アウェイの地で圧で負けないことが大事だった。前半はそこで圧倒したことは大きな収穫だった」と胸を張った。

 実際、強気の守備が日本にとって最初のビッグチャンスを生み出す。堂安の寄せによってガジャルドの中途半端な縦パスを出し、遠藤航がこれをカット。堂安から久保建英につながり、久保が鋭い左足シュートを放ったのだ。これは枠を捉えることはなかったものの、チームに勢いを与えたプレーだった。
堂安の次なる見せ場は前半15分、渡辺剛のロングフィードに素早く反応し、右サイドから一目散にゴール前へ飛び出す。うまくシュートは打てなかったものの、虎視眈々と得点を狙っている堂安らしいシーンだった。

 0−0で折り返し、迎えた後半8分、日本にとって最大の決定機が訪れる。ボランチの鎌田大地が縦パスを出し、上田綺世がタメを作って左サイドに展開。堂安が受け、縦に侵入した久保に絶妙のボールを送ったのだ。次の瞬間、久保はマイナス気味のクロスを供給。ファーで待ち構えていた南野拓実が右足を振り抜いたが、惜しくもクロスバーの上。これが決まっていれば、日本は来年のW杯開催地で大きな白星を掴んでいただろう。

「あれが日本の理想の崩し方。タケ(久保)のクロスが拓実君に合ったところは、俺とタケのところで2対1ができたので、ああいう仕掛けをもっと出していくことが課題なのかなと。もっとアイディアが必要だと思います」と背番号10は攻撃面の物足りなさをストレートに語っていた。

 スコアレスの停滞感を打破すべく、森保監督が打って出たのは、堂安と三笘薫のシャドー起用だ。
1点を取りに行くため、決め切る力を持つ2人をよりゴールに近い場所でプレーさせた方が得策だと判断したのだろう。今夏移籍したフランクフルトでは右シャドーに近いエリアでプレーする機会が多く、ブンデスリーガ第2節のホッフェンハイム戦では華麗なミドルをお見舞いしている。この日も研ぎ澄まされた得点感覚を示す機会が訪れれば良かったのだが、後半24分以降の時間帯は残念ながら相手ペース。結局シュートも満足に打てないまま、ベンチに下がることになり、背番号10の得点は次戦以降にお預けになってしまった。チームも無得点で引き分けという苦い結末を余儀なくされた。

「もちろんシャドーの方が自分の一発、シュートの精度を出せるので、それは隠さずに監督にも伝えています。ただ、チームのために必要ということでウイングバックで使われているのも幸せなこと。そこはコミュニケーションを取りながらやっていきます」と本人もシャドーに色気を見せつつも、右ウイングバックとして守備強度やボール奪取力を出すことが第一だと割り切っているようだ。ただ、今回のメキシコ戦のように「決め手が足りない一戦」では、もう少し早く堂安を前で使ってもいいはず。カタールW杯のドイツ代表戦、スペイン代表戦で値千金のゴールを叩き出した男は今、誰よりも得点感覚に自信を持っている。その伝家の宝刀を抜かずハードワークばかり求めるのは、あまりにももったいないし、チームの損失になりかねない。

 メキシコ戦で80分間プレーした堂安が次戦のアメリカ代表戦に連続出場する可能性は低いだろうが、できることならシャドーで長い時間使ってほしい。
それが“決め切れない日本”から脱出する大きな一歩になるかもしれないのだ。「勝ってないので残念ですし、もっと賢くプレーできれば勝ててるゲームだったと思います」と背番号10は悔やんだが、ここから先の強豪国との対戦で堂安自身がチームを勝たせる男になればいい。そのためのベストな起用法を指揮官にはより真剣に模索してほしい。ここからの前向きな変化を期待したいものである。

取材・文=元川悦子
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