こうした中、初日から参加している中村敬斗は今回スタメンに抜擢されそうだ。「ウイングバック(WB)かシャドーで出ることが多いので、今回もそう考えていますけど、出た時に自分のやれることをやればいいかなという感じです」。本人はこう語っていたが、2試合ノーゴールに終わった9月のアメリカ遠征を踏まえると、中村をよりゴールに近い位置に置いて、フィニッシャーとしての役割を託した方が、チームにもメリットが大きいだろう。「僕も最終予選では点を取っていないので、チャンスがあれば取りたいですね」とも発言。2024年6月の2次予選・ミャンマー代表戦(ヤンゴン)以来、1年4カ月ぶりのゴールを虎視眈々と狙っていく構えだ。
ご存じの通り、今季はフランス2部での戦いを余儀なくされている。2023年夏にオーストリア1部のLASKから、当時フランス1部のスタッド・ランスに飛躍した後、欧州5大リーグで存在感を高めることに成功。24−25シーズンには11ゴールをマークするに至った。チームはまさかの2部降格となったが、目覚ましい数字を残した中村ならば、今夏上位クラブにステップアップできると自身も周囲も信じて疑わなかった。
「ハッキリ言って、移籍したかったのは事実です」と7日の代表練習後にもキッパリ語ったが、W杯メンバー入りを視野に入れ、欧州5大リーグ、あるいは同等のリーグに残ることを画策していたのは確かだろう。
その間「練習をボイコットした」「クラブから出禁になった」などという憶測も流れたが、本人は「あんまり報道を見ていないんですけど、パリ在住記者にその時の内容を聞いて、7~8割は嘘というか、事実じゃないのは確かです」と断言している。紆余曲折を乗り越え、9月20日のサンテティエンヌ戦から公式戦に復帰。続く23日のクレルモン戦で今季初ゴールを挙げた。さらに直近4日のグルノーブル戦でも得点を重ね、違いを見せつけている。「今は前向きになれてます」と毅然と語ったが、しっかりと割り切った状態でサッカーに向き合っているのは確かだ。
「今のチームは昨季主力としてやっていた選手が2~3人しか残っていない。ほとんど新しい選手で、若い人も多い。正直、自分たちがリーグ・ドゥのレベルなんで、その中に自分が入ってやるのは正直簡単ではないですね」と説明していたが、9試合終了時点でスタッド・ランスは5位。自動昇格圏内とは6ポイントの差がある。まだまだ序盤だけに、ここから急浮上できる可能性もあるが、中村が引っ張らなければならないのは紛れもない事実だ。
その活躍がW杯への道を切り開くことにもつながる。2部という逆境を跳ねのけ、心身両面でタフさを養い、勝負を決められる存在になることが中村に課された最重要命題だ。シント・トロイデンからオーストリア2部のジュニアーズへ行った経験のある男は「自分の評価を高めるのは結果しかかない」と誰よりもよく分かっているはず。その強い覚悟を今回のパラグアイ戦にぶつけ、再躍進の布石を打ちたいところだ。
「ランスで中心選手として結果を残し続けて、リーグ・アンに上げるという目標を達成するためには、自分の活躍が必須になってきますし、代表の活動に選ばれたときには、毎回何かしらの爪痕残せるように頑張ること。それが大切かなと思います。ただ、あまり考えすぎないことも大事。『突出しなきゃ』『結果を出さなきゃ』と考えてもプレッシャーになるし、エゴを出しすぎても良くないので、チームの一員として、チームが勝つために自分の役割を果たせればいい。今のところはそのくらい軽い感じで考えていればいいと思ってます」
あくまで“自然体”で取り組もうとしている中村。今夏メンタル的な問題を経験したからこそ、その重要性をより強く感じているに違いない。先輩・伊東純也も「ちょっといじってあげました」と笑ったが、そのくらいがちょうどいいのかもしれない。
取材・文=元川悦子