「次まで1週間あるし、準備の段階でスキがあるようだったら足元をすくわれると思う。勘違いしちゃいけないですし、そういう雰囲気があったら、率先して引き締めます」とキャプテン・喜田拓也も語気を強めていたが、ここで連勝できるか否かが史上最大の危機を脱する分岐点になるのは間違いなかった。
こうした中、継続して結果を出さなければいけなかったのが、浦和戦で1ゴール1アシストという目覚ましい働きを見せた植中朝日だ。「マリノスを背負うことは正直、重い。そのプレッシャーを跳ねのけられる力をつけたい」と本人も強調。10月の中断期間に大島秀夫監督のアドバイスを受けながら、自身をブラッシュアップさせていたという。「点を取れない時も『チームのために』という気持ちは持ち続けていた。それが結果的にアシストとゴールになっただけ」とも浦和戦後に話していたが、その献身性と高度な決定力を今回も示し続ける必要があったのだ。
その好機が開始早々の12分にいきなり巡ってくる。前節同様、スタートからハイプレスを仕掛けに行ったマリノスは、味方からバックパスを受けたGK大迫敬介が前に蹴り出したロングボールが甘くなったのを見逃さなかった。これを喜田がカットし、ダイレクトで前線へ。これを受け、巧みなコントロールから右足を振り抜いたのが植中だった。
直後にVAR判定となり、「オフサイドはないだろうと思いましたけど、喜田選手が『ないない』と言っていたので、本当に神頼みしました」と本音を吐露。結果的にゴールが認められ、広島に大きなプレッシャーをかけることができたのだ。
前半のマリノスはこのシュート1本だけ。相手にボールを保持され、守備偏重の戦いを強いられた。それでも、植中ら前線アタッカー陣は献身的なプレスをかけ続けた。そして広島が持ち駒を次々と投入してきた後半もハードワークを怠らず、後半41分に途中出場の天野純がPKを決め切って2−0に。さらに後半アディショナルタイムにはジェイソン・キニョーネスも右CKから3点目を叩き出した。
植中は2点目のPK奪取につながる天野へのパス出しを見せ、3点目もCKを奪取。約100分間に及んだゲームで決して足を止めることなく、3−0の勝利の原動力になったのである。「2試合連続で結果を出せたのは、やっぱり心に余裕ができたことが一番大きかった」と背番号14は神妙な面持ちで言う。
これでマリノスは勝ち点を37に伸ばし、横浜FCとは5差に。11月8日の次節・京都サンガ戦での自力残留に王手をかけた。今季2回の監督交代があり、長期間に渡って最下位に沈んでいた名門は、ついに危機を乗り越える一歩手前まで辿り着いた。苦労の連続だった今季。植中が変貌する大きなきっかけとなったのが、アンでルソン・ロペス、ヤン・マテウス、エウベルの”ブラジル人トリオ”の移籍だったという。
「強力な外国人選手がいた時は、どうしても心のどっかで『あの選手たちに任せよう』という気持ちがありましたね。サポーターも何年もずっと攻撃的なサッカーを見ていたし、点が入らなくても『どっかでケチャドバするだろう』と考えていたと思います。でも、なかなかゴールが決まらない。
その植中自身も「自分が攻撃陣を引っ張らなきゃいけない」という強い責任感をピッチ上で表現するようになった。この2試合の気迫と守備強度、ゴールへの鋭さは本当に凄まじいものがあるのだ。
「今は自分たちで残留だったり、一個上の順位、勝利を手繰り寄せることができる状態にあると思います。最下位に沈んでいた時は『一個ずつ』としか考えられなかったけど、今は名古屋(グランパス)だったり、(ファジアーノ)岡山だったりとそんなに差はない。『残留とか優勝争いをかき乱してやろう』という気持ちもあります」
少し欲も出てきた植中。ここまで強気のマインドを持てるようになったのなら、ラスト3戦は大丈夫だろう。油断は禁物だが、ここで緊張感を切らさずに前へ前へと突き進んでいければ、彼はもっと逞しい点取り屋になれる。11月8日の京都戦も期待して良さそうだ。
取材・文=元川悦子
【ハイライト動画】植中躍動!横浜FMvs広島

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