キックオフ前に左胸のエンブレムをトントンと叩いて戦いに臨む。サンフレッチェ広島レジーナのDF藤生菜摘が仲間やサポーターの思いを胸に刻むために始めたルーティンだ。
広島で3年目を迎え、チームに欠かせない存在となった左サイドバックは、エンブレムの重みを知っている。

 兵庫県出身の藤生は、東洋大学に在籍していた2023年8月に「JFA・WEリーグ/なでしこリーグ特別指定選手」として広島に加入し、同26日に行われた2023/24 WEリーグカップ・グループステージ第1節のマイナビ仙台レディース戦に途中出場してデビューを飾った。

 1年目の2023/24シーズンはWEリーグ公式戦で20試合に出場し、2ゴールを挙げる活躍を見せて左サイドバックで台頭。2024/25シーズンはWEリーグで全22試合に先発出場してレギュラーの座をつかみ、WEリーグカップ戦も7試合出場2得点でチームの大会2連覇に貢献した。

 今シーズンもこれまで負傷欠場の3試合を除き、公式戦のほぼ全試合にフル出場している。皇后杯では準決勝のセレッソ大阪ヤンマーレディース戦で決勝点となる豪快なミドルシュートを叩き込んでチームを初の決勝進出に導き、決勝もフル出場で先制点に絡むなど初優勝に貢献。3シーズン目ですでに不動の左サイドバックの地位を築いている。

 さらに、3月28日に行われるSOMPO WEリーグ第17節のちふれASエルフェン埼玉戦で開催される『自由すぎる女王の大祭典2025/26』では、サポーター共同委員会のリーダーに就任。仲間と協力しながらチームの魅力を伝える活動に奮闘してきた。

 ピッチ内外で広島に欠かせない存在となった藤生に、今シーズンの戦いや大祭典への取り組みなどについて聞いた。

インタビュー・文=湊昂大

――まずは今シーズンのこれまでの戦いを振り返ってください。
藤生 リーグが開幕した前後にケガ人がたくさん出てしまいましたし、新監督も就任して初めてのことが多かったと思いますが、シーズン初めから積み上げてきたものが、皇后杯で出せた結果が優勝だったと思います。
(前半戦で)リーグ戦は結構落としてしまいましたし、リーグカップ戦は大宮戦で負けてしまいましたが、チームとして試合を重ねるたびに改善して良くなっている印象です。

――今シーズンはミーティングなど選手主体の取り組みも増えていると思います。
藤生 キャプテンのモモさん(左山桃子)、年上のエリさん(呉屋絵理子)、チームを引っ張ってくれていたチセさん(瀧澤千聖)がケガで離脱していない分、みんなの中でチームとして良くなっていこうという意識が増えたと思いますし、自分たちがやっていかなきゃいけないっていう自覚や責任が少しずつ大きくなっていると思います。

――今シーズンから指揮を取る赤井秀一監督のサッカーをどう捉えていて、その中で個人的に成長していると感じ部分はありますか?
藤生 ハイプレスかつ主導権を握りながらゲームを進めるサッカーだと思います。ゴールに対しての人数のかけ方やハイプレスの守備で前線でのボール奪取にすごくこだわりを感じます。個人的にはポジショニングをすごく考えるようになりました。自分が運ぶのか、自分が引くことで相手を引き出して味方にスペースを使ってもらうのかをより考えるようになりました。

――今シーズンのこれまでの個人のパフォーマンスを振り返ってください。
藤生 シーズンが始まった当初と今までチームとしてやろうとしていることが変化している中で、自分の役割と自分の出したい特徴に少しギャップがあるので、自分を表現するプレーの幅を広げないといけないと考えています。以前、シュウさん(赤井監督)から練習の前に『武器を増やそう』という話がありましたが、自分もそうだなと思いました。みんなが武器を増やせれば、チームとして出せる色が増えたり、選手が違うことでその色が変わったりすると思うので、自分ももっと特徴を出すために引き出しを増やしていきたいと思っています。

――求められる役割と自分の特徴をどう捉えていますか?
藤生 自分自身は4バックのサイドで攻撃に関わるところを特徴にやってきましたが、今は3バック気味でビルドアップすることが多くて、シノさん(中嶋淑乃)と距離が離れてしまう分、自分が攻撃参加できない場面が増えている印象です。
それでも、チームとして前進するために、自分が加わって何か攻撃にプラスになるようなパスやポジショニングをもっと考えてプレーしなきゃいけないと思っています。

――不動の左サイドバックの地位をつかんで、試合に出続けていることをどう受け止めていますか?
藤生 監督から信頼して使ってもらっているので、自分の自信にもつながりますし、それに対して期待に応えたいと思っています。試合に出ているからこそ得られる課題や自分自身を見つめ直す瞬間はたくさんあるので、その出場機会をいただいている分、自分はチームに貢献したいと思っています。

――左サイドバックはそこまで競争が激しくない印象もありますが、どう捉えていますか?
藤生 大学時代に競争があった時も、あまり誰かと競うことを考えていなくて、自分自身が何をできるかだと思っています。試合で出た課題を振り返って自分自身すごく悩むこともありますけど、そういう時にはトップチームの存在や見本になる選手がたくさんいて、例えば、塩谷(司)さんのプレーが好きで『そこ見えているんだ』と思うので参考にしています。そうした目指しているところを基準にして、出場しているからオッケーじゃなくて、チームが勝つために自分が左サイドバックとしてどう起点になるか、どうプラスアルファになるかを考えています。

――自分の中での理想のサイドバック像はありますか?
藤生 攻撃参加ももちろん大事ですけど、やっぱり守備で負けないサイドバックがいいなと思っています。世界で見ると、あまり身長が高くないサイドバックは珍しいかなと思うんですけど、でもチェルシーの(マルク・)ククレジャ選手みたいな熱い部分は自分に足りないなと思うので、すごく見て勉強しています。

――広島の武器である左サイドにおいて中嶋選手との関係性でどんなことを意識していますか?
藤生 シノさんがいい状態で仕掛けられることがチームとして1番強い時だと思うので、そこに対してのボールの供給や、シノさんが消された時でもマミさん(上野真実)とかトップ下の選手とつながって最終的に攻撃できればいいと思っています。最近は試合中もよく話しますし、どんなボールがいいとかの要求もできているので、少しずつ良くなっていると思っています。

――エースの中嶋選手が警戒されることで逆に藤生選手のゴールやアシストのチャンスも増えそうです。
藤生 シノさんのところが警戒されればされるほど、やっぱり自分のところも空きますし、シノさんは自分で仕掛けるだけじゃなくて、周りも上手く使ってくれるので、そういう部分ではすごく助かっています。
個人的に本当はもっと点を取りたいですけど、最近はちょっとゴールが遠いので、自分の中では起点になれるプレーをまずは狙っています。

――自分でゴールを取る上でどんなイメージを持っていますか?
藤生 皇后杯の時(C大阪戦)のゴールがイメージ通りでした。右サイドからのクロスのこぼれ球を自分が振り抜くイメージはありますし、右サイドから逆に展開されてきた時にシノさんか自分のどっちかが空いていると思うので、そこは常に狙っています。ただ、最近は少し遠くてあまり絡めていないので、そこはもっと改善したいと思います。

――試合前や後半開始前にユニフォームのエンブレムを叩いていますが、理由やきっかけを教えてください。
藤生 最初は特別指定で加入したので、試合に出られない人の気持ちがわかりますし、選ばれたからには試合に出られない人の分まで頑張らないといけないという思いが強くありました。でも、それをすごく考えてしまうと、自分に責任を背負わせて思い込んでしまうので、頭であまり考えないようにするために、ファン・サポーターの方を含めたみんなの思いを背負って戦いたいという思いを、頭じゃなくて体に叩き込むために始めました。サンフレに入ってから、キンさん(近賀ゆかりアンバサダー)とフクさん(福元美穂)がずっとこのエンブレムを背負う意味を考えようと言っていたので、このエンブレムを背負えることは本当にありがたいことだし、いろんな人の思いに感謝して、自分はピッチで表現しなきゃいけないと考えた結果でした。

――『自由すぎる女王の大祭典2025/26』に向けて、リーダーを務めるサポーター共同委員会の取り組みを教えてください。
藤生 レジーナは選手1人ひとりがいい個性を持っていて、それプラス、みんながみんなを生かせるので、雰囲気を含めてすごく自由だと思います。そうしたレジーナの魅力やチームの存在をTikTokやInstagramを通じて多くの人に知ってもらって、試合を見に来てもらおうと取り組んでいます。

――サポーター共同委員会のリーダーとして苦労したことはありますか?
藤生 昨年はチセさんがリーダーをやってくれたので、今年はチセさん以外でじゃんけんをすることになって、じゃんけんで勝ってリーダーにならせていただいました。
でも、初めてのことだし、あまり得意ではないので、”助手”の柳瀬(楓菜)選手がすごく助けてくれて、チセさんもすごく動いてくれて、私は何もしてないんじゃないかぐらい、みんなに助けてもらっています(笑)。

――サポーター共同委員会の取り組みで印象に残っていることはありますか?
藤生 自分たちでtiktokを撮っていた中で、「選手の中で姉か妹にするなら誰?」みたいな質問を選手たちにしたら、自分たちも意外な答えがあったので、そういう部分を知れて面白かったです。あとは、今までレジーナを見たことがなかった人から「インスタで見たよ」と言ってもらえて、「なんか楽しそうだったね」とか「バレーとコラボしたんでしょう」とか言ってもらえたので、そこはやりがいを感じました。

――『自由すぎる女王の大祭典2025/26』ではWEリーグ史上最大規模となるコレオグラフィーに挑戦します。選手にとってコレオグラフィーとはどんなものですか?
藤生 自分自身がピッチに立って見たことはないんですが、男子の試合とかで見た時に本当にすごいと思っていました。みなさんの協力や思いがあってこそですし、1人ひとりがチームのためにやってくれていると思うと、すごくありがたいことですし、うらやましい気持ちで見ていました。

――藤生選手は海外サッカーをよく見るらしいですが、海外のサポーターの行動で印象に残っていることはありますか?
藤生 ドルトムントが試合に負けたときに、サポーターがブーイングじゃなくて『次頑張れ』みたいな歓声だったっていう動画を見た時にすごいなと思いましたし、ドイツではそんな感じなんだと思いました。自分が知っているレジーナのファン・サポーターのみなさんもそういう感じで、どんな時でも応援してくれて、どんな時でも前を向かせてくれる存在なので、本当にありがたいと思っています。

――昨年の大祭典では2万人を超える観客の中でプレーしましたが、改めて振り返って感想を教えてください。
藤生 あの時は半年前ぐらいからすごく準備をして、ピースウイングにたくさん人を呼んで、あまり勝てていないイメージのある浦和を相手に試合をするという状況でした。なので、試合前は「負けたらどうしよう」とか、「しょうもないプレーをしたらどうしよう」とかすごく考えましたが、2万人の前にいざ立ってみると「もうやるしかない」、「こんなにたくさんの味方がいる」っていう強い気持ちを持ってプレーできたので、その時はすっごく楽しかったです。

――今年はコレオグラフィーもあってまた違った雰囲気になると思います。
今回の大祭典への期待を教えてください。
藤生 自分たちだけでは作れない雰囲気をファン・サポーターのみなさんに作っていただいているので、そこに対しての期待はすごくありますし、コレオグラフィーができるのをすごく見たいです。それに対して自分たちも絶対に恩返ししたいですし、勝利を届けたいという思いがすごくあるので、そこに向けてチーム全員で勝つ準備をしないといけないと思っています。やっぱりお祭りなので楽しんでいただきたいですし、これを機にまた来たいと思ってもらえるような面白いサッカーを自分たちは見せたいです。

――『自由すぎる女王の大祭典2025/26』を通じて、広島の人たちにどんな女子サッカー選手の姿を見せたいですか?
藤生 やっぱりサッカー選手である以上、ピッチで見せたいですし、ピッチで表現してこそだと思っているので、勝つことや面白いと思ってもらえるサッカーをすることが自分自身はすごく大切だと思います。それプラス、ピッチの外で地域の人とつながることで、広島をもっとスポーツで盛り上げたいですし、サンフレッチェだけじゃなくてレジーナも応援してもらえるように頑張りたいです。
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