“聖地”ウェンブリー・スタジアムで行われたイングランド代表戦。世界最高峰プレミアリーグ勢をズラリと揃えたタレント力、8万人の大観衆を含め、相手の方がかなり優位だと見られたが、蓋を開けてみると日本代表は一歩も引かずに応戦した。
前半23分の三笘薫の一撃で奪った1点を最後の最後まで守り切り、敵地で1−0の勝利。2025年10月のブラジル代表戦に続く、歴史的初白星を挙げることに成功したのだ。

 特別な闘争心を胸に秘め、この大一番に挑んだのが中村敬斗だ。『3−4−2−1』布陣の左ウイングバックに陣取ると、開始早々の3分には対面した右サイドバックのベン・ホワイトを巧みにかわしてチャンスメイク。「相手に当たって抜けたんですけど、彼が目の前に来て『ラッキーガイ』と言ってきた」と試合後に話していたが、そういったやり取りを楽しめる“心の余裕”がこの日の背番号13にはあったということだ。

 その後のパフォーマンスも光っていた。中村はシステムのミスマッチもあって、ホワイトと右FWモーガン・ロジャーズの2枚を見なければならない状況も多く、守備の負担はかなり大きかった。そのタスクをこなしたうえで、左シャドーに入った三笘薫と臨機応変にポジションチェンジ。敵をかく乱し続けたのだ。

 迎えた前半23分。自身のプレスバックからボールを引っかけた三笘が、鎌田大地、上田綺世を経由してボールを受け、ドリブルで持ち上がった瞬間を見逃さず、中村は左サイドから一目散にオーバーラップ。三笘からパスを受けると、寄せてきたエズリ・コンサの動きを見ながら絶妙なクロスを送り、背番号7の一撃をお膳立てしたのだ。


「DFと対峙して自分で仕掛けていくこともできたけど、あのシーンで完全に強引に突破してというのが難しいですし、カットインした時に三笘選手がフリーになっているのが見えたので、難しいパスでしたけど、うまく決めてくれたのでよかったです」と目を輝かせた。

 中村が異彩を放ったのは、得点アシストだけではなかった。数多くの仕掛けやコンビネーションを披露。後半24分には、鎌田からのパスを受け、左サイドでティノ・リヴラメントを巧みなフェイントで剥がして右足を振り切る決定機も作った。惜しくもシュートは枠を捉えられなかったが、このプレーはフランス2部で培った部分が大きかったという。

「リーグ・ドゥは1対1のシーンが圧倒的に多くて、今シーズンは1試合5~6回は仕掛けるシーンがあるんです。それであそこは持ち味のドリブルを生かせた。カットインシュートも得意なので、決めたかったですけど、楽しかったです」と言及。強豪相手の一戦に充実感を覚えたという。

 さらに終盤には鎌田と並んで右シャドーに入るという異例の形にもトライ。自身のゴールこそなかったものの、この日はMVP級のインパクトを残した。SNS上は「なぜ中村敬斗はフランス2部にいるのか」「2部にいてはいけない選手だ」という声で溢れ返り、類まれな能力に称賛の声が集まったのだ。


「僕は昨季リーグ・アンで2桁ゴールを取ったけど、今年は残念ながらリーグ・ドゥにいることになってしまった。今はリーグ・アンに上げるために頑張っていますけど、代表でレベルの高いチームとやって自分の存在を示すことで、『自分はやっぱりリーグ・ドゥのレベルでは満足できないんだ』ということを示さないといけなかった。はっきり言って、この試合に懸けていましたし、日頃のリーグレベルが低い分、目に見える結果を残したかったんです」と本人は悲壮な覚悟でイングランド戦に挑んだことを改めて明かした。

 アジア最終予選までの中村敬斗は「三笘の控え」という位置づけが長く続いた。だが、南野拓実久保建英の離脱によって、三笘がシャドーにスライド。今回の共存関係がついに実現した。2人の流動的なポジション取りは敵にとって捕まえづらく、脅威になっていたはずだ。

「本当に左サイドを三笘選手とやれるのは大きな喜びだし、めちゃくちゃうまい。自チームじゃありえないくらいのレベルなんで、本当にやっていてめちゃくちゃ楽しくて。パスはめちゃくちゃ来るし、申し訳ないすけど、全然レベルが違いますね」と中村自身の胸のトキメキを抑えられない様子だった。

 もちろんW杯本大会になれば、対戦相手も対策を講じてくるだろうが、逆に中村がシャドウで三笘が外という形も考えられる。伊東純也が左というオプションもあり得るし、多彩なバリエーションで戦っていける。
いずれにしても、攻撃の重要なピースとして森保一監督から認められたのは間違いない。

「W杯に向けていいアピールができたと思いますし、チームとしてイングランドに勝てたことが弾みになったとも思うので、本戦に向けて頑張りたいですね」とW杯本番を見据えていたが、イングランド戦を機に自身の立ち位置や役割も大きく変わりそうだ。主力級の一人として挑む中村は大舞台で一体、何を見せてくれるのか。今から2カ月後が楽しみで仕方ない。

取材・文=元川悦子


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