勝者と敗者を分けたのは、単純な勢いの差ではない。
3月28・29日に大分スポーツ公園クラサスサッカー・ラグビー場で行われた「JA全農杯全国小学生選抜サッカーIN九州」は、サガン鳥栖U-12がスマイス・セレソンを7-2で下し、3連覇を果たした。
だが決勝の40分は、同じ切符を手にした2チームが、まったく異なる強みをぶつけ合う濃密な内容だった。
大会を通じての鳥栖U-12は、ただ強いだけのチームではなかった。1、2回戦は重圧もあって本来の動きが出し切れなかったというが、準決勝から輪郭がくっきりした。荒木亮次監督が大切にしているのは、技術だけでなくプレーの強さも伴わせること、そして攻守で主導権を握ることだ。自分たちから仕掛けて攻め、自分たちから奪いに行く。その考え方が、決勝のピッチでしっかりと表れていた。
先手を取ったのは鳥栖U-12だった。前半4分、相手陣内でボールを奪うと古賀瑛麻が力強く右足を振り抜いて先制。スマイスは地元・大分の声援を受けて前から圧力をかけ続け、同11分に諸冨巧真が強烈なミドルを突き刺して追いつく。だが、鳥栖U-12は慌てなかった。1分後に勝ち越すと、13分、19、20分にも加点する。
その中心にいたのが鳥栖U-12の古賀だ。決勝では5得点と大暴れし、試合を支配した。だが印象的だったのは、単に点を取ったことではない。162センチ、51キロの体格を生かしつつも、無理に1人で打開しようとしない。相手の視線が自分に集まれば、迷わず味方を使う。その判断があるから、司令塔の筒井大琥が自由を得る。筒井が前を向けばスルーパスが通る。古賀を止めにいけば筒井が生き、筒井を消しにいけば古賀が前を向く。決勝の鳥栖U-12は、この連動が実に滑らかだった。
■九州勢初の王者になるために
スマイスもまた、敗れたからといって価値が薄れるわけではない。準優勝で全国切符をつかんだ。決勝まで進んだ歩みは十分に称賛に値する。このチームは5年生だけでなく4年生、3年生も多く含む。フィジカルで押し切るタイプのチームではないからこそ、アンドレ・ルイス・パラッチョコーチは「全員で攻撃し、全員で守る」サッカーを育ててきた。決勝でも、前からボールを奪いに行く姿勢は最後までぶれなかった。プレスが外される時間があっても、引いて耐えるのではなく、もう一度前へ出る。その素直さと勇気が同点弾につながったのである。
ただ、決勝はスマイスにとっても学びの多い40分だった。鳥栖U-12のように相手を引き出し、その背後を使う完成度を持つ相手に対し、前進の強度だけでは押し切れない。誰が出て、誰が残り、どこで奪い切るのか。攻撃的な姿勢を貫くためにも、守備の整理と試合運びの精度はさらに必要になる。
そして両チームの視線は、すでに5月の全国大会へ向いている。全国大会は九州大会と異なり、12分×3ピリオド制で行われ、原則として1人の選手が3ピリオドすべてに出場することはできない。第1、第2ピリオドで戦力をどう配分し、第3ピリオドでどう勝負をかけるか。選手層だけでなく、育成力と采配力が問われるレギュレーションだ。荒木監督が下級生の底上げを口にしたのも、アンドレコーチが「どんなに強い相手でも引いて守ることはない」と語ったのも、その難しさを見据えているからである。
九州王者の鳥栖は主導権を握るサッカーの完成度を示した。準優勝のスマイスは攻撃を貫く勇気と伸びしろを示した。決勝の7-2は大差である。だが、小学生年代の大会として見れば、この1試合がそのまま実力の差を決めるものではない。いま持っている完成度の差と、これから広がる成長の余白である。5月の横浜で、この日の経験がどう形を変えるのか。
■試合後コメント
▼荒木亮次監督(サガン鳥栖U-12)
1、2回戦は、選手たちのこの大会に懸ける思いが強かった分、それが少し過緊張という形で裏目に出てしまいました。ただ、そこをしっかり乗り越えてくれたことが、準決勝、決勝の2試合につながったと思います。この2日間で目の前の課題にしっかり向き合い、チャレンジしてくれた。その結果として3連覇を成し遂げてくれたことは、彼らにとって非常に大きな経験になったと感じています。
決勝では点を取り合う展開の中でも攻め続ける姿勢を示すことができました。1、2回戦がどちらも追う展開だったので、「たとえ先制されても慌てる必要はない」ということは伝えていました。大事なのは自分たちのプレーモデル(大枠としては「攻守において主導権を握る」こと)を冷静に実行できるかどうか。試合が難しくなったときにこそ、原点に立ち返れるものがプレーモデルだと思っています。どんな状況でもそこをベースにプレーしてくれたことが、今回の結果につながったと感じています。
▼古賀瑛麻(サガン鳥栖U-12)
準決勝まで3点しか取れていなかったので、決勝は楽しんでプレーすることを考えていました。昨日(1、2回戦)までは、一人で打開しようとして上手くいかなかった。
▼荒木咲磨(サガン鳥栖U-12)
決勝は試合の入りがよく、自分たちのプレーモデルを発揮できました。後ろからパスをつなぎ、相手がプレスをかけてきたらひっくり返すことができた。自分も含めて声も出ていたし、守備の強度も高くプレーできたことがよかったと思います。昨年のチビリンピックは決勝で負けた。全国のどのチームよりも悔しい思いをしました。今年は一人ひとりが強い気持ちを持って戦う姿勢を持って日本一になります!
▼アンドレ・ルイス・パラッチョ コーチ(スマイス・セレソン)
決勝は2-7で敗れましたが、全国への切符をつかみました。子どもたちがあそこまで頑張ってくれたことは、本当にうれしいです。チーム全員の力で決勝まで来ることができた。
決勝はサガン鳥栖の力が上でした。正直、レベルの違いも感じました。ただ、その差をしっかり受け止めて、まだ自分たちに足りないところがあると分かったことも大きな収穫です。
他のチームと比べると、うちは体が大きい選手が多いわけではありません。だからこそ、ボールを持ちながらパスをつなぐだけではなく、全員が動きながらプレーすることを大切にしています。全員で攻撃し、全員で守る。誰か一人に頼るのではなく、チーム全体で戦うサッカーです。そこは日頃から意識して取り組んでいます。今回の経験をしっかり次につなげていくこと。足りなかった部分を一つずつ改善していくこと。それが大事だと思っています。決勝まで行けたことに満足せず、もっと上を目指していきたいですね。
▼後藤瑛琉馬(スマイス・セレソン)
決勝で負けてしまったけど、楽しくサッカーができました。守りに入らず、自分たちの攻撃サッカーを貫けました。強い相手に2得点できたことはよかったです。クラブとしてチビリンピックに初めて出場できて嬉しいです。大会までに個人戦術を磨いて、もっともっと点の取れるチームになりたいです。そして鳥栖ともう一度対戦して、勝ってリベンジしたいです。
取材・文=柚野真也

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